残機無限系クソボケ   作:なめなめろう(旧名:ELDERSIGN)

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No.2 vs No.10

 

 

 キルベス=ヴァルスペル。神谷龍の親友にして、動かざる天秤のNo.2。治安維持組織は、力がなければ治安を守れない。当然、No.2であるキルベスはその座にふさわしい実力を持っていた。

 

 キルベスの右手が極彩色に輝く。そのまま彼は右手を横に薙ぐと、その手の軌跡をなぞるように空間が裂けた。空間の裂け目が一瞬輝いたかと思うと、そこから三条の光が飛び出す。

 

「うおっ!」

 

 頭を狙ったその光線を、上体を必死に逸らすことで龍は間一髪避けた。

 

 キルベスの異能は、空間操作。その中でも最上位の出力を誇っており、異空間の作成と空間の接続を最も得意としている。

 

 裂けた空間からは、何かが軋むような、響くような音が延々と鳴り続けている。その様は、物理法則を完全に無視した現象に、世界が悲鳴を上げているようだった。

 

「閉じろ」

 

 キルベスの声に世界が応える。異空間への裂け目はあっさりと閉じ、一切の痕跡すら残さずにただの景色へと戻った。

 

「まあ、キルベス。一旦落ち着けよ。ほら、俺を狙ったレーザーのせいで綺麗な壁にまんまるの穴が三つできちまったぞ」

「そうか。お前が今すぐ捕まってくれればこれ以上被害は出ないということだな」

「ぐっ……大体なぁ、俺を捕まえてどうすんだよ」

 

 龍の問いをキルベスは鼻で笑った。

 

「一番下の階級の監視者から始めるか、No.10にすぐに復帰させるか、どちらかでずっと悩んでいるんだが、まだ結論が出ない。どっちがいい?」

「はぁ〜? マジで言ってんのかよ。姉さん、こいつやべえよ。公的組織を無断で脱退した元幹部を特にお咎めなしでまた職務復帰させようとしてるんだけど?」

「あ、それについては私も賛成してるから」

 

 話しても無駄だこいつら。龍は二人の真剣な表情を見てそう悟った。

 

 キルベスが一歩踏み込む。その瞬間、龍とキルベスの間にあったはずの距離は一瞬で縮まる。繰り出されるは龍の顎を狙った強烈な掌底。それを龍はなんとか避けるが、僅かに顎に掠った。

 

次元穿孔(ワームホール)

 

 避けたはずの掌底が龍の腹へと突き刺さる。その威力は凄まじく、重い音と共に龍は壁まで吹き飛ばされた。相当堪えたようで、龍は鳩尾を押さえながら数度咳き込んだ。

 

「……いってぇな! やっぱりそれズルだろ!」

「お前よりはズルじゃない」

 

 キルベスにとって、距離という概念は一も百もさして変わりはしない。どちらも、ただ一歩踏み出すだけで届く距離である以上、彼にとってはどんぐりの背比べである。

 

「てか、そもそもな? 俺なんて大して役に立たないだろ。頭は普通だし、事務作業も速くない。戦うのだって死なないだけで、大規模な殲滅作戦とかじゃあんまり意味がない。細々とした成果を上げるだけで、幹部職が務まるほどの力は」

「それを決めるのはお前じゃない」

 

 龍の話に被せるように放たれたその言葉には、怒りが込められていた。

 

「いや、違うな。前提から違う。そもそも、お前の能力を必要としてこんなことをしていると、本気でそう思っているのか? だとしたら、俺も随分とみくびられたものだな」

 

 龍の周囲を取り囲むように、幾つもの空間の裂け目が現れる。

 

「俺は……俺はただ、お前と一緒に働きたい。友と共にこの世界を少しでも綺麗にしたい。そう願っているだけだ。それがお前を引き止める、唯一の理由だ」

 

 キルベスは懐に潜ませていた光線銃を取り出し、空間の裂け目へと何度も発砲する。放たれた光線はその裂け目へと飲み込まれ、次々と裂け目を経由しながら龍へと降りかかる。

 

「『被害を逸らす』」

 

 呪文によって龍を狙った光線は悉く軌道を捻じ曲げられ、散らされる。

 

「龍! お前はなんで動かざる天秤を抜けた!」

「なんで、か……」

 

 守りに徹していた龍がキルベスの方へと駆け出す。刀を抜き、大上段から斬りかかる。空間の裂け目から剣を取り出したキルベスは、それを受け流すようにして防いだ。

 

「嫌気が差した。俺は、失われていく命を守りたかった。だが、動かざる天秤のやっていることは結局ただの対処だ。命が奪われてから動き出す。それしかないことはわかっているが、俺にはそれが耐えられなかった」

 

 龍の流れるように振るわれる柔の太刀筋に対し、キルベスの剣捌きは印象とは異なり剛のものである。正反対ではあるが、実力は互角だった。

 

「……無責任だな」

「ああ、そうだな。その通りだ。そしてそれに気づくのが遅すぎた。死なない俺には、命の責任なんて取れやしない。どうやったって死ぬやつと同じ土俵にはいないのさ」

 

 そう話す龍の表情には、諦観と自己嫌悪が滲んでいた。キルベスはそれがどうにも癇に障った。胸の奥から湧き出る炎のような怒り。それに耐えるように、キルベスは奥歯を噛み締める。

 

「ふざけるなよ! 死なないから命の責任を取れない、だと? なら俺たちは死ねば命の責任が取れるのか? 命の責任なんてものは、誰も取れやしない! 俺たちは、自分の命の責任しか取れないんだよ!」

 

 その言葉に、龍は大きく目を見開く。その隙を見逃さず、キルベスは龍を袈裟斬りにした。鎖骨ごと断ち切るその一撃はあまりにも強烈で、龍はその場に崩れ落ちた。

 

「は、はは」

 

 龍は笑う。内臓は破壊され、口からは血が零れている。それでも龍は笑っていた。

 

「ごめんな、キルベス。俺は、自分の命の責任すら取れないんだよ」

 

 そこでキルベスは気づいた。龍の身体から電子音が聞こえる。その音は段々と早くなっていった。

 

「俺は今から自爆する。早く逃げろ」

「馬鹿野郎が!」

 

 空間の裂け目を創り出し、その中へとキルベスが逃れた瞬間、執務室が爆破される。跡には何も残らなかった。

 

 

 ◇◇◇

 

 

 会議室の空間が裂ける。その裂け目から、苛立ちを隠せないキルベスが現れる。

 

「あの野郎……」

「お疲れ様です」

 

 現れたキルベスの隣では、アマネがすでに椅子に座っており、書類を片付けていた。

 

「アマネさん。貴方もあいつを捕まえるのに協力してくれれば良かったじゃないですか。いつ逃げたんです?」

「君が光線銃を取り出した辺りから。まあ、私が協力しても結果は変わりませんでしたよ」

「それも"視えて"いたんですか」

「ええ、まあ」

「はぁ……そうですか」

 

 キルベスはアマネの隣の席に腰掛けた。

 

「むしろ、キルベス君だけで戦った方が良い結果になるところまで視えていたんです。実際、貴方の言葉はだいぶ愚弟に効いていましたし」

「ならいいんですが」

「それに、貴方も言いたいことを吐き出せてスッキリしたでしょう?」

「……アマネさんはなんでもお見通しですね。でも、確かにいい機会でした」

 

 そう言いながらキルベスは、アマネの側に置いてあった書類の山の半分を自身の方へと置いた。

 

「さて、では残業しますか」

 

 夜が更けていく。

 

 なお、翌朝に無惨な姿となった執務室に気づいた一般構成員が悲鳴を上げ、キルベスとアマネは額に手を当てた。彼らはすっかり執務室のことを忘れていたのだった。

 

 

 

 

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