残機無限系クソボケ   作:なめなめろう(旧名:ELDERSIGN)

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一方その頃

 

 

 時は少し遡る。

 

 龍がニアと遭遇した頃、クィ=ヌスはPCの前でうんうんと唸っていた。

 

「今度のライブ、セトリどうしよう……」

 

 実は彼女はかなり成功しているバーチャル配信者であり、月に一度ファンとの交流を兼ねたライブを行っている。逆に言えば、毎月彼女はライブの演出や選曲について考え、ダンスの練習などもしなければならない。そのため、こうやって悩むのも最早日常であった。

 

「ミ=ゴの間で流行ってる奴は……流石にまだ人間の文化には早すぎるよね。ここはやっぱり安牌で……」

 

 そんな風にぶつぶつと呟きながら考えていると、唐突にクィ=ヌスの背中に悪寒が走った。それはある種の虫の知らせであった。

 

 気のせいなら、それでいい。そう思いながら、クィ=ヌスは配信用の防音室から一歩足を踏み出した。

 

 音を立てないよう注意しながら、危険がないか確かめる。問題なし。少なくとも家の中に誰かが入ってきた痕跡はない。しかし、胸騒ぎが収まらない。

 

 ただ神経質になっているだけなら、笑い話になるだけだ。でも、最近は物騒だし、この予感がもし本当なら。その可能性にクィ=ヌスは身震いした。

 

「電気銃なんて今まで一回も使ったことないけど、だ、大丈夫かな……」

 

 リビングの収納棚の奥の奥にしまい込んでいた電気銃を、クィ=ヌスは初めて取り出した。黒光りした握り拳程度の塊。初めて見た人にとっては到底銃とは思えない見た目をしているが、これは極めて高度な技術の結晶である。

 

 人間が使いこなすことは困難であるが、ミ=ゴが扱えばほぼ必中の電撃を連続で撃ち出すことのできる非常に優れた携帯武器であり、コンパクトさ、威力の高さ、耐久性、整備性の良さ、どれを取っても一級品だと言える。

 

 そんな武器を片手に握りしめながら、クィ=ヌスは恐る恐る窓の外を覗いた。

 

 (……夜って、こんなに怖かったっけ)

 

 窓の外にあるのは、いつもと変わらぬ霧がかった夜の闇。けれども、変わらぬはずのその光景がいつもより恐ろしく思えた。

 

「でも、やっぱり気のせいだったのかな。別にいつもと変わらな――」

 

 何かが大きく壊れた音が背後から聞こえた。いや、本当はクィ=ヌスにはわかっていた。それは、玄関の扉が吹き飛ばされた音だった。

 

 パラパラと砕けた壁の破片が床へと落ちる。さっきまでいつも通りだった光景が、一瞬にして破壊された。その事実に心が追いつかない。クィ=ヌスはどこか呑気に、掃除するのが大変そうだな、と現実逃避をした。

 

「あの黒闇の野郎、今日はいないみたいだな? はは、運がいいなぁ!」

 

 クィ=ヌスの住まう206号室。そこへ侵入してきたのは、両手を機械仕掛けの義手へと変えたスキンヘッドの男だった。

 

「お陰で、あっさり薄汚え異種族を殺せそうだ」

「ち、近寄らないでください! 今すぐ出て行かないと撃ちますよ!」

 

 クィ=ヌスは全身を強張らせながらも、電気銃を侵入者へと構えた。

 

「お〜怖い怖い。でもこっちもいい加減うんざりしててね。お前を殺したらすぐに出ていくから少しだけ待ってくれよ」

 

 男の目はギラギラと光り、血走っている。まともな人間の目ではなかった。その目を見て、クィ=ヌスは覚悟を決めた。

 

 電気銃を握りしめる。その瞬間、眩い電撃がスキンヘッドの男へと迸った。その速度は、時速約10万キロメートル。この世にいるいかなる生物ですら反応することを許さない神速の攻撃である。しかし。

 

「そ、そんな……」

「ミ=ゴを殺すために来てるのに、電気銃の対策をしてないわけないだろ」

 

 その電撃は、彼の機械義手に吸い込まれて呆気なく消えた。あまりにも残酷な光景だった。

 

 勇気を振り絞って放った電気銃。そして彼女の唯一の武器でもあった電気銃。それが全く通用しない。抵抗する手段が最早残されていないことに気づいて、クィ=ヌスの心は折れ、電気銃をその手から取り落とした。そんなクィ=ヌスをせせら笑いながら、男はその手でクィ=ヌスの首を掴み、持ち上げた。

 

「う、うう……」

「ほら、返してやるよ。そのままな!」

 

 義手が変形し、針のような形になる。その先端に電気が走る。義手は電気銃のエネルギーを吸収していた。

 

 (……やだ! まだ、死にたくない! やりたいことが沢山あるのに! ファンが私のライブを楽しみにしているのに!)

 

 その瞬間、クィ=ヌスはあることを思い出した。

 

『お守りみたいなもんだな。一応常に警戒してるけど、隣の部屋だし俺が気づかなかったり、間に合わないかもしれない。だから本当に死ぬかもしれないって時はそれを強く握ってくれ』

 

 (そうだ! あの黒い箱を強く握れば……!)

 

 懐にしまっていた黒い箱。クィ=ヌスはそれを強く、強く、握りしめた。

 

「助けて……龍さん……!」

 

 その声に応えるかのように、黒い箱が紫の光を放ち始める。

 

「な、なんだ!?」

 

 男はその異様な光景を警戒し、掴んでいたクィ=ヌスを放して後ろに下がった。

 

 黒い箱が膨張し、面を底面とした六つの四角錐へと変形する。そしてその六つの四角錐は、宙を漂いながら先端からある一点へと紫色の光を照射し、その光は次第に人の形を模る。

 

 その光が一瞬膨張したかと思うと、次の瞬間には光は消え、六つの四角錐も力なく地面へと落ちた。そして、さっきまで光が集まっていた場所には、()()のない男が倒れている。

 

 その男は、死んでいた。呼吸はしていない。鼓動も止まっている。瞳孔は開ききり、脈がないため腕からの出血も少ない。なんの変哲もない、死んだばかりの屍であった。

 

「脅かしやがって。大層な兵器かと思えば、出てきたのは死体一つか。無駄な警戒だった」

 

 そう言いながらスキンヘッドの男は、その死体を跨いだ。あまりにも無警戒に。そして無防備に。

 

 突如として()()が動き出す。腕の断面から赤い煙が噴き出し、失った腕を形成する。心臓は拍動を再開し、死体は息を吹き返した。不死身の男、神谷龍の意識が覚醒する。

 

 龍は目覚めた瞬間、目の前のものを思い切りぶん殴った。実に運の悪いことに、龍の意識が回復したのはスキンヘッドの男が彼の上を跨いだ瞬間であった。つまり……。

 

「うごぉ!?!?!?」

 

 男は股間を抑えてうずくまった。意識外からの急所への一撃。油断し切っていた男は、声にならない声をあげながらただ悶えることしかできない。それを尻目に、龍はクィ=ヌスの元へと向かう。

 

「ヌスちゃん、ごめんな。怖かっただろ」

「いえ、いいえ! 龍さんが来てくれたのでもう大丈夫です。本当に、本当にありがとうございます……」

 

 その言葉とは裏腹に、クィ=ヌスの身体は未だ恐怖で震えていた。それに気づいた龍はクィ=ヌスを優しく抱きしめた。

 

「安心してくれ。一瞬で片付ける」

 

 

 

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