周りの連中の温かい笑い声が広がるなか、キミ――クー・フーリン・オルタは、床に座り込んで涙を拭う俺を、腕を組んだままじっと見下ろしていた。
それから、フン、と鼻で短く笑うと、少しだけ面倒見の良さを感じさせる低い声で、ぽつりと語り始めた。
「正直、ガキにしては随分冷静で、大人びてると思ってたよ」
あいつの言葉に、俺は涙で濡れた目を瞬かせる。
「純粋無垢のような笑顔と愛想の良さを、すべてのサーヴァントに等しく振りまいているお前を見て、俺は少し不気味とすら思ってた。」
「……俺自身は、他人の欲望で作られた人形だから、自分の本心だの、エゴだのってものは全く見えない。一方で、マスター......お前は本当の気持ちをちゃんとわかってるくせに、それを必死に押し殺して笑ってるのが伝わってきてな。一緒にいて、少し居心地が悪い気分だったんだよ」
キミはそう言って、初めて俺の目を真っ直ぐに見据えた。その瞳の奥には、冷酷な機械の冷たさではなく、不器用で、けれど確かな温かさが宿っていた。
「だが、それと同時に、お前を只者じゃねえと思ってた。俺には、世界を救うだのっていう大義名分のために、自分を完璧に偽り、自分すら騙し通すような真似はできねえからな。……面白い、大した奴だよ、お前は」
あいつは少しだけ、本当に少しだけ、獰猛さを引っ込めた優しい笑みを浮かべた。
そして、俺の前に一歩踏み出すと、大きな手を差し出し、俺の頭をくしゃくしゃと乱暴に、だけど壊れ物を扱うように優しく撫でた。
「さっさと涙拭いて、飯にしろ」
それだけ言い残すと、あいつは大きな背中を向けて、自分の部屋へとさっさと歩き去っていった。その足取りは、どこか軽やかだった。
あいつの手の温もりが、俺の髪に残っている。
髪を撫でられた瞬間、俺の脳を四六時中支配していた重圧も、計算も、大義名分も、そのすべてが音を立てて消え去っていった。あいつに本当の俺を認められた。その絶対的な安心感が、全身の力を一気に奪っていく。
「あ……、よかった……」
張り詰めていた緊張の糸が、完全に、ぷつりと切れた。
俺は床にへたり込んだまま、込み上げてくる強烈な眠気に逆らうこともできず、その場にごろりと横になって、目を閉じた。毛布も枕もない冷たい床だったけれど、生まれて初めて、深く、心地よい眠りの闇が俺を包み込んでいく。
「ちょっと、マスター!? こんなところで寝ちゃダメですよ!」
「ふはは、よほど気が抜けたのだろう。大目に見てやれ」
「やれやれ、世界を救う大英雄が形無しだな。……急にだらしなくなったな、俺たちのマスターは」
遠ざかっていく意識の向こうで、俺を囲むサーヴァントたちの、呆れたような、けれど愛おしそうな笑い声が聞こえていた。
もう、完璧な救世主のフリをしなくていい。
だらしなくて、空っぽで、だけどキミだけを特別に想っている、一人の人間に戻れた。
カルデアの白く優しい日常の灯りが、泥のように眠る俺の姿を静かに包み込んでいく余韻のなかで、物語は幸せな幕を閉じた。