夕日の赤に染まった荒野の真ん中で、俺の傲慢な宣言を受け止めた彼は、完全に言葉を失っていた。
怒るべきなのか、呆れるべきなのか、あるいは目の前の凡人の狂気に恐怖すべきなのか。感情のすべてが迷子になったような、なんとも言えない微妙な表情。
彼の中に眠る二つのシステムが、激しいバグを起こしてフリーズしてしまったかのような、重苦しい沈黙がしばらくの間、二人の間に横たわっていた。
だが、彼はフッと諦めたように、冷たい息を一つ吐き出した。
そのまま俺に背を向け、カルデアへと帰還するためのポイントに向かって、大きな足音を響かせながら歩き出す。
「余計な同情はいらない。だが、好きにしろ」
乱暴に投げ捨てられたその言葉は、俺の差し出した歪な救済を、彼が彼なりのやり方で受け入れたという「契約成立」の合図だった。
俺たちは対等な友人なんかじゃない。
けれど、世界のどこを探しても代わりのいない、お互いの絶望の隙間を埋め合う唯一無二の主従になったのだ。
俺は、遠ざかっていく怪物の巨大な後ろ姿を見つめていた。
その瞬間、俺の顔から不敵な笑みが完全に消え去り、ただの脆い、今にも壊れそうな十代の少年の顔に戻る。
(……キミだけは、いなくならないでくれ)
それは、胸の奥底でだけ叫んだ、俺の本当の悲鳴だった。
すべてのサーヴァントを等しく愛さなければならないという呪縛の中で、誰か一騎だけを特別に優遇することは絶対に許されない。だからこの願いは、口に出せばシステムに検知されて消されてしまう。
人類の救世主という意味の過負荷を背負わされた俺にとって、かつて不要な役割を無理やり背負わされた過去を持ち、俺のために世界を壊してくれる虚無のメタファーである彼の代わりは、座のどこを探してもいないのだ。
もし彼がいなくなれば、俺の精神は二度と元の形を保てないだろう。
俺が足をとめて佇んでいると、前方を行く彼が、わずかに顔をこちらに向けた。
その顔には、先ほどまでの冷酷な殺戮機械のトゲトゲしさが綺麗に消え失せ、ほんの少しだけ、鋭さが抜けた穏やかな微笑みが浮かんでいた。
「ぼさっとするな。早く帰るぞ」
その声が鼓膜に届いた瞬間、パチリ、と脳のスイッチが切り替わった。
俺の脳を四六時中焼き焦がしていた、未来の戦略、犠牲の計算、世界救済という重すぎる過負荷のすべてが、嘘のように一瞬でリセットされていく。
他人の欲望で作られた空っぽの怪物の隣。そこだけが、俺の精神をこの残酷な世界から匿い、ただの「一人の子供」に戻してくれる、唯一のセーフティエリアだった。
「――うん!」
俺の顔に、いつもの張り付いた完璧な仮面ではない、嘘偽りのない心からの笑顔が咲く。
弾んだ声で返事をして、俺は彼の少し後ろをトコトコとついて歩き出した。
長い夕暮れの影が伸びる荒野。怪物の放つ巨大な影の闇に、優しく守られるようにして歩く凡人のシルエット。
「今日の夕食は何かな〜?」
そのセリフは、決して大衆向けの可愛いポーズなんかじゃなかった。
彼が戦場で、俺の代わりに世界の理不尽への怒りを粉砕してくれたからこそ。彼が今、俺の脳の過負荷をすべて消し去ってくれたからこそ、俺は今、この瞬間だけは、本当に何も考えずに「今日の夕飯」のことだけを考えられている。
それこそが、人類の救世主に与えられた、唯一の一瞬の癒しだった。