キミだけはいなくならないでくれ   作:みそそ

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自己矛盾への失望

ディスプレイから放たれる冷徹な青い光が、暗い作戦室の隅々にまで鋭い陰影を落としていた。

 

画面のなかに浮かび上がっているのは、次なる戦場の緻密な地形データと、俺たちが配置すべき人員のリストだ。それは一寸の狂いもなく、まるで美しい数式のように整然と並んでいた。

 

「――以上が、現時点で導き出せる最も被害の少ない、完璧な布陣です」

 

カルデアが誇る天才的な頭脳を持つ者たちが、淡々と、しかし確かな自信を込めて告げた。

 

彼らの言葉に悪意など1ミリもなかった。それどころか、そこにあったのは「みんなを生かして、世界を取り戻す」という、圧倒的に正しく、純粋な善意だけだった。誰もが生存という結果のために、持てる知性のすべてを絞り出してその設計図を完成させたのだ。

 

ホログラムの最前線。最も敵の攻撃が激しく、最も生存確率の低い、事実上の『使い捨ての捨て駒』となるポジション。

 

青く明滅する光のなかに、カチリと、彼の名前がはめ込まれた。

 

最も打たれ強く、人間臭いエゴに振り回されず、確実に目の前の敵を粉砕できる冷酷な怪物。

 

世界を救うため、全体の被害を最小限に抑えるためという絶対の正義を突き詰めた結果、彼をそこに置くことが、システム上最も合理的で美しい『正解』になってしまったのだ。

 

みんなの正しい善意が寸分の狂いもなく噛み合った結果、彼を使い捨てるための完璧な絞首台が、今ここで誰の手も汚さずに美しく完成した。

 

「フン、上等だ。最初からそのつもりだよ」

 

腕を組んで冷たい壁に寄りかかっていたあいつは、フッと鼻で笑うと、獰猛で不敵な笑みを浮かべてみせた。

 

画面の最前線に灯る不吉な赤い警告灯が、キミの顔を禍々しく照らし出す。最も死線に近いスリル。どう効率よく敵を噛み砕くかという、圧倒的な戦いのプロセス。

 

その本能だけが、キミの瞳の奥でギラギラと純粋に輝いていた。キミは、自分が消耗品のように扱われるその不条理な配置を、むしろ面白いとさえ言って受け入れている。

 

「……っ」

 

その瞬間、俺の胸の奥で、張り詰めていた神経が嫌な音を立てて軋んだ。

 

張り付いた笑顔の仮面が、焦りで裏返りそうになるのを、奥歯を噛み締めて必死に堪える。手元にある端末を握りしめる指先が、白くなるほど強張っていた。

 

敵の動きは完璧には予想できない。だからこそ、どれだけ不測の事態が起きても耐えうる『最強の肉体』をそこに置く。

 

それは戦術として、システムとして、どこまでも合理的で冷酷な正解だった。誰も何も間違っていない。

 

けれど、俺の心は激しく拒絶していた。

 

前編の戦場で、俺はキミに背中を向けながら、確かに言ったのだ。「君が君らしくいられる戦場を俺が作る」と。

 

王という大義名分からキミを解放して、何も考えずに暴れられる、キミのためだけの優しいシステムを用意してやるのだと、そう決意したはずだった。

 

なのに、どうだ。

 

俺が世界を救うという『結果』を追い求め、完璧な効率を突き詰めた結果、結局俺は、かつてあの赤茶けた荒野で出会った時と全く同じように、キミを「誰かの欲望のために使い捨てにされる兵器の檻」へと、自らの手でハメ込んでしまったのではないか。

 

みんなの正しい善意が集まった結果、あいつを殺すための完璧な絞首台が、今ここで美しく完成してしまった。俺の組んだ数式のせいで。

 

「おい、マスター。何をそんなに怯えたツラしてやがる」

 

キミの獰猛な硝子の瞳が、じっと俺の横顔を見つめていた。すべてを見抜く野生の勘が、俺の押し殺した焦りを見透かしている。その視線が、俺の被った仮面をじりじりと焼き焦がしていくようだった。

 

「……いや。何でもない。配置はこれでいこう」

 

俺は冷たい声を絞り出し、完璧な救世主の笑顔の仮面を被り直した。

 

自分の本当の気持ちを心の奥深くへとさらに押し殺しながら、俺たちは、破滅へと向かうレイシフトのカウントダウンを静かに聞き続けていた。

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