深夜の作戦室は、まるで凍りついた墓標のようだった。
誰もいない冷徹な青い光の中で、俺は震える手で召喚のための電子端末を起動していた。
画面には、これまで俺が未来の世界を救うため、最も効率的な最強の布陣を作るために、血を吐くような思いで合理的に貯め続けてきた、膨大な数の「輝く石(リソース)」の数字が表示されている。
未来の目的地に辿り着くことだけに生きている俺の脳にとって、この戦略資源を無駄に浪費することは、世界救済の効率を著しく下げる、最も不合理で許されない大罪のはずだった。
数式は、とっくに完成していたはずだった。
キミの要素は、みんなの中に分割して存在している。だからシステム上、あいつがいなくても俺は大丈夫だ。世界は救える。そう自分を納得させようとしていた。
――けれど、人間の心は数式なんかじゃない。
どれだけ完璧な理屈で心をコーティングしても、胸の奥底からせり上がってくる、言葉にできない本物の悲しみだけは、システムエラーを起こして止まらなかった。
どれだけ他人の顔に幻影を探しても、キミという、ただ戦うプロセスだけを愛する純粋な怪物の代わりは、この世界のどこにもいないという現実に、俺の身体が、命が、完全に悲鳴を上げていた。
「……あぁ、もう、どうでもいい」
次の瞬間、俺の指先は、自分でも制御できない剥き出しの狂気に突き動かされていた。
ただ一騎の、戦略上は「いなくても大丈夫なはずの虚無」を呼び戻すためだけに、俺はその石を狂ったように、一瞬で、すべて注ぎ込み始めた。
画面を叩く指先が止まらない。機械が煙を吹いて暴走するように、世界救済という大義名分を完全に放棄して、ただ「お前が欲しい」という個人的なエゴだけで端末のスイッチを何度も、何度も押し続ける。
作戦室の床から、異常なまでの膨大な魔力の光が収縮し、部屋全体を白く焼き焦がすような激しい残光が渦巻き始めた。
「――マスター!? 一体何を……」
その異変に気づき、扉を押し開けて集まってきたカルデアの住人たち――マシュや、あの歩く墓標の男、清廉な騎士たちの姿が光の中に浮かび上がる。
けれど、彼らは俺を止めることすらできなかった。召喚陣の前に立ち尽くし、髪を振り乱して未来の資産を狂ったように溶かし続ける俺の背中を、ただ言葉を失って見つめることしかできない。
命を賭けて俺に忠誠を誓っていた騎士たちは、完璧な救世主だったはずの主君が、一騎の狂王のためにすべてを浪費しているという決定的な狂気を見て、かけるべき言葉を見失い、ただ硬直していた。
そして歩く墓標の男は、俺が破滅的な行動に出たのを見て、自分の予言が的中したかのように、(あぁ、やっぱりお前も、俺と同じように『意味』に耐えかねて、こうして壊れていくんだな)と、死んだ魚のような目でその無様な後ろ姿を見つめていた。
誰の視線も、もう俺の耳には届かない。
狂気じみた光が、最後の一際大きな音を立ててすっと収束していく。
静寂だけが残った。
すべての石が溶け、端末の画面に非情に表示された数字は、冷たい「ゼロ(0)」。
激しい残光が消え去った後に、そこには誰も立っていなかった。ただの、何もない空っぽの空間。
「あ……あぁ……」
「俺は冷静に判断できている」と思い込もうとしていた俺は、空っぽになった画面の数字を見つめながら、初めて自分の足元が崩れ落ちるのを感じた。
自分がどれほどみっともなく、滑稽に、狂おしいほどにキミの幻影を乞うていたか。
その依存の深さと、取り返しのつかない取り返しのつかなさに初めて気づかされ、俺は本当の絶望の底へと、まっ逆さまに突き落とされた。