モテたい小路   作:エゴエロエゾロン

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1. 初日───櫛田、みーちゃん、松下

 こんな価値観を知っているだろうか?

 

 曰く、『男は女にモテる奴が勝ち組』と。

 

 こんな文言は数ある考え方の中のいち主張にすぎないが、同時に生物の真理の一端を突いているとも言える。

 

 オレがこれから通うことになる高度育成高等学校では、目立たず一般的な生徒のように振舞い過ごすつもりだった。

 

 しかし同時に、オレには最後に自分が勝っていればいいという価値観が刻み込まれている。

 

 今挙げた主張は、言い換えればモテない男は負け組ということ。オレも男だ。

 

 こんな概念を知ってしまった以上、甘んじて敗北の道を進むつもりはない。

 

 バスの中、オレは本から得た付け焼刃の知識を総動員して、モテるための方策を考え始めた。

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 バスから降り、校門をくぐる頃には、オレは考えを纏めていた。

 

 まずモテるための要素を挙げてみよう。

 

 大きく3つ。容姿、性格、能力だ。

 

 この中で明確にオレの武器と言えるものは、能力だろう。しかし同時に、オレは目立たず平穏に過ごしたいのだ。

 

 すなわち、大々的に能力をアピールすることは本意ではない。

 

 これの意味するところは、女子の方からの声かけに期待できないということ。

 

 目当ての女子へこちらから接触し、個別に繋がりを構築する必要がある。

 

 ここで厄介なのが『モテる』という言葉の定義。これというはっきりしたものがあるのかは知らないが、多数の異性から、という要件は外せない筈だ。

 

 自分からアプローチをかけて『モテる』に該当すると言えるのか疑問に思わざるをえないが、『多数の異性から好意を寄せられること』という点こそが重要だと割り切ろう。

 

 次に考えるべきは女子と接点をもつタイミング、及びオレが演じるべきキャラクター。

 

 タイミングはともかく、オレは自分の振舞いを変えるつもりは無い。

 

 疲れて平穏とは遠い学生生活を送ることになりかねないし、それでモテるのはオレではなく装着した仮面の方になる。

 

 人格面で好意を寄せてもらうという方針は捨てたということだ。そもそも、そんな相手依存の方針など採用することはないが。

 

 ならば、適切なシチュエーションが必要になる。

 

 例を挙げるなら、勇者が姫を魔王から救うような。

 

 惚れさせるための都合のいい場面を故意に用意しなくてはいけないが、これは高育の環境次第ではかなり難しいかもしれない。今のところ詳細をつめることは不可能だ。

 

 それまでは、ある程度の仲を保つことしかできないだろう。

 

(結局……)

 

 まだクラスの確認すらしていない現状で立てられる策略は、目を付けた女子と個々に仲を作っておくという程度のことだけ。

 

(うん……オレにそんな能力があるのか疑問だ)

 

 作戦は初手で破綻しかけていた。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 Dクラスの教室で、担任の茶柱からSシステムなどの説明を受けた。

 

 その後、平田の提案で自己紹介タイムが始まる。

 

「僕の名前は平田洋介。中学では───」

 

 自己紹介か……明確に学生生活の方針を打ち立てていなかったら、内容に困るところだったな。

 

 クラスメイト、特に女子のことを把握するため、集中して耳を傾ける。

 

「えーっと、次の人───そこの君、お願いできるかな?」

 

「ああ」

 

 オレは目立たず過ごしたい。ならば比較的たくさんの生徒の目に触れるこの自己紹介では、平凡なことを言うしかない。

 

「綾小路清隆。趣味や特技は無いが、何事にも興味はある。友人をたくさん作りたいと思っているから、是非仲良くしてほしい」

 

「よろしくね綾小路くん」

 

 パラパラと疎らな拍手を浴びながら席に座り直す。

 

 今の数秒で、女子たちがオレに向ける視線から、ある程度オレへ向けられる感情を把握できた。

 

 同時に、今更なことに気付く。

 

 女子にばかり意識を向けていたら、女好きと認識され忌避されてしまうかもしれない。

 

 ならば、まず男子との親睦を深めるべきだ。

 

 交友を広げていければ、いずれその輪の中に女子も含まれるだろう。

 

 

 

 

 

 

 その後、入学式があり、放課後に。

 

「綾小路くん。これからクラスメイトの何人かと親睦会をすることになってるんだけど、君もどうかな?」

 

「是非加わらせてくれ」

 

 平田からの誘いに即答で頷く。

 

「よかった、嬉しいよ!」

 

 別れる必要もないので、そのまま平田の後についていく。

 

 クラスで親睦会に参加するメンバーと合流し、そのまま校舎を出てケヤキモールへ。

 

 親睦会に参加するメンバーは、平田が中心になって集めただけあって、半分以上が女子だった。

 

 軽井沢、櫛田、松下、佐藤、森、(ワン)……

 

 容姿レベルの高い女子が多いな。

 

「綾小路くん、連絡先交換しようよ!」

 

 そう声をかけてくれたのは櫛田だった。

 

「ああ。嬉しい」

 

 手慣れた仕草で携帯を操作する。さっき平田に教わっていなければ情けない姿を見せていただろう。

 

「ねえ、綾小路くんって、隣の席の堀北さんと話したりする?」

 

「全く話さないということはない。バスの中でも隣に座っていたからな。だが仲良くはない」

 

「そっか……私クラスの皆と友達になりたいと思ってるんだけど、堀北さんってそういうのに全然興味なさそうでしょ? だから綾小路くんに手伝ってもらえたらと思ったの」

 

「そういうことなら、協力しよう。隣席だから、少なくとも話しかける機会はたくさんある」

 

「ホント!? やった、ありがとう綾小路くん!」

 

 櫛田がオレの手を握って喜色を露わにする。

 

 こうして櫛田と仲を深められたのは、他の生徒とも仲良くなるきっかけとなった。

 

 人数の少ない男子からは平田が積極的に話を振ってくれるし、女子の中心人物である櫛田も俺を輪に入れて親しく接してくれる。

 

 親睦会の会場はカラオケだった。

 

 平田の左右が早速女子に占拠されてしまったため、席順は自然と男女混合に。

 

 集団で移動している際に最後方を歩いていたオレは、端になってしまった。隣には松下がいる。

 

「綾小路くんはどんな歌が好きなの?」

 

「あまり詳しくないんだ。歌える曲は1つも無い」

 

「そう、なら順番は最後の方にしてあげるよ。デンモクの使い方とかも分からないでしょ? 他の人のを聞いて、それを歌えばいいんじゃない?」

 

「助かる。松下の隣になれたのは幸運だったな」

 

「このくらいで大袈裟だよ」

 

 端にいるオレは松下しか隣人がいない。

 

 その隣人が、オレの状況を理解して声をかけてくれる女子だったことは、幸運以外の何ものでもなかった。

 

 その後、何度か席の変更がなされて、クラスメイトと親睦を深めることに成功。

 

 最中も女子たちの様子を(つぶさ)に観察し、それぞれへの感情や好意の程度を把握していく。

 

 そんな中、(ワン)───みーちゃんがコップを持って1人で部屋を出たので、オレもその後を追いかけた。

 

「はぁ……」

 

 彼女はコップにオレンジジュースを注ぎながら、溜め息を零していた。

 

「重い溜め息だな」

 

「わひゃっ!? あっ、綾小路くん!?」

 

 背後から声をかけたオレは、コップに炭酸を注ぎながらみーちゃんに話しかける。

 

「察するに平田と軽井沢のことだろう」

 

「え……ど、どうしてそれを」

 

「熱い眼差しを向けていたからな」

 

「うぅ……」

 

「───オレでよければ協力しよう」

 

「え?」

 

 みーちゃんはキョトンとした顔でオレに振り返る。

 

 オレはこれを提案するためにみーちゃんを追いかけて来た。

 

「これはオレの想像だが、みーちゃんは性格的に、その気持ちを打ち明けて友人に協力を募ることはできないんじゃないか? 男子ならなおさらだ。とすると、これは貴重な機会だと思うんだが」

 

「……確かに、そうですね」

 

 頷いたみーちゃんは、ジュースがなみなみと注がれたコップを持ってこちらを向いた。

 

「でも、綾小路くんのメリットはなんですか? どうして助けてくれるんですか?」

 

 みーちゃんは、かなり頭の回る生徒のようだ。

 

 オレのメリットという問題には誰でも行きつくだろうが、至るのが早い。

 

「オレは友達がたくさん欲しいんだが、見ての通り口下手だからな。櫛田や平田と仲良くなりその輪に入れてもらうのが効率的だ。この件は、平田と仲を深めるきっかけになりうるかもしれないと思ってな」

 

「なるほど……分かりました。よろしくお願いします、綾小路くん」

 

 オレはみーちゃんと握手しながら、彼女との精神的距離が縮まった実感を得ていた。

 

 

 

 

 

 

 夕方。

 

 親睦会は終わったが、同学年は同じ寮なので帰り道も同じだ。

 

「私、コンビニ寄るから。また明日ね!」

 

 松下がグループから離れる。

 

「オレも買いたいものがあるのを思い出した」

 

 そう言って、彼女の後ろを追いかけた。

 

「綾小路くん、何買うの?」

 

「いや、特に決まっているわけじゃない。物価を見てポイント管理の計画を立てるためにな」

 

「私のこと追いかけて来たのかと思ったよ」

 

「まあ、その要素が皆無ではないかもな。松下じゃなく森とかだったら、まだ2人だと気まずいから見送った」

 

「あー、森さんには黙っとくね」

 

「そうしてくれ」

 

 今日、松下はオレと同じように異性をよく観察していた。気付いたのは、オレも観察されていたからだ。

 

 よく見る、ということは、見極めようとしているのは性格か能力か。

 

 性格なら、直接関わった方が手っ取り早く把握できる筈。しかし松下は離れた場所から注視している様子だったので、恐らく能力を見ていたと推測できる。

 

 それは単に好みの話か、それとも何か目的があってのことか。

 

 なんにせよ、彼女に近付くなら能力を見せるのが早い。

 

「なあ、この10万ポイント、本当に毎月振り込まれると思うか?」

 

「……どういうこと?」

 

「単純計算で、1学年が40人×4クラスで160人。1人の受け取れるポイントが100,000×12カ月で1年120万ポイント。160×1,200,000で1学年が1年間に受け取れるのが1億9200万ポイントだ。3年間なら5億7600万ポイント。信じがたいよな」

 

「確かに、そうだね」

 

「それに、ほら」

 

 オレが指差したのは、無料の生活必需品商品。

 

「無料商品に頼らざるを得なくなる、という風に見えてこないか?」

 

「おお、ホントだ。すごいね綾小路くん」

 

「だから、念のためなるべく節約しようと思ってな。物価調査はそのためだ」

 

「へー。綾小路くんって頭いいんだ? そんな素振りなかったけど」

 

 松下のオレへの興味が、先刻よりも明らかに強くなっているのを感じる。

 

「目立つのは得意じゃないんだ。でも、松下にはこうした方が仲良くなれると思ってな」

 

「……どうしてそう思ったの?」

 

「男子を観察してただろ。だから松下は容姿より能力を重視する子なのかと推測したんだ」

 

「……ホントにすごいね。てことは、今のは告白かな?」

 

「ん?」

 

「私の好みに合わせようとしたんでしょ?」

 

「ああ……いや、そうじゃない。オレは目立ちたくないと言ったろ? だから松下と仲良くなるために素を見せるには、2人きりのタイミングを狙うしかなかったんだ」

 

「へえ。私と仲良くなりたかったんだ」

 

「……あー、まだ恋愛的な意味じゃないぞ?」

 

「そっかそっか」

 

 オレたちは買い物を済ませ、一緒にコンビニを出る。

 

「綾小路くんの推測は大当たり。あなたも私のお眼鏡にかなったよ。これから仲良くしようね」

 

「ああ」

 

 こうして、オレは入学初日を終えた。

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