モテたい小路   作:エゴエロエゾロン

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13. 正体見たり

 審議前日。

 

 階段の踊り場に設置されている掲示板に、須藤の件の目撃者を捜しているという張り紙があった。

 

「おはよう、綾小路くん」

 

「おはよう一之瀬。これはお前が?」

 

「あー、これは多分……」

 

「俺だ、綾小路」

 

「神崎か。ありがとう」

 

「気にするな。Cクラスの行動が須藤を陥れる罠だったのなら、許しておいていいことじゃない」

 

 神崎はあまり大勢で遊ぶタイプの男ではないので親しくはないのだが、一応知り合いではある。

 

「あ、こっちの掲示板に面白そうな情報が入ってるよ」

 

 一之瀬に手招きされて携帯を覗き込めば、須藤が殴ってしまった3人のうちの1人である石崎という男子が、中学時代は喧嘩の強い悪だったということが書かれていた。

 

「有用だが、決定打には程遠いな」

 

「だよねー。あ、どうやってプライベートポイント送ればいいんだろう」

 

「貸してくれ」

 

「うん」

 

 一之瀬の代わりに、彼女のIDから相手のフリーメールアドレスへトークンキーを発行した。

 

「3か月でよくこんなに溜めたな」

 

 オレはBクラスが一之瀬にプライベートポイントを集めて貯金していることを、既に知っていた。

 

「皆には我慢させちゃってるよ」

 

「一之瀬の人望が無ければできないことだ」

 

「私なんて。皆が納得してくれたからだってば」

 

「一之瀬。一応先に言っておくが、もしかしたらプライベートポイントを借りることになるかもしれない」

 

「え?」

 

「確定じゃないんだけどな。急に言われるよりはいいだろう」

 

「ううん。綾小路くんのことは信頼してるから」

 

「そうか、ありがとう。オレも一之瀬を信頼している」

 

 金の貸し借りなんてところで不義を見せたら、この信頼も簡単に崩れ去るのだろう。

 

 月々の振り込みだけでなく、別口でプライベートポイントを稼ぐ方法を考えておいた方がいいかもしれないな。

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 

 オレは佐倉と一緒に、修理に出していたデジカメを受け取りに行った。

 

「佐倉、前に言った証拠っていうのはどういうものだ?」

 

「あ、えっと、その……」

 

 オレが聞くと、佐倉はデジカメを手に持ったまま、顔を赤くして固まってしまった。

 

「証拠は写真なんだろ? 明日の審議で大勢に見られることになるぞ」

 

「そ、そうだよね……あの、こ、これです」

 

 佐倉がデジカメに、件の写真を表示させて見せてくれる。

 

 そこには、メガネを外し明るい笑顔を見せる佐倉と、その後ろに須藤たちの喧嘩の様子が写っていた。

 

「可愛いな」

 

「そっ、そんなことっ!?」

 

「けど佐倉、この写真じゃどちらが先に手を出したかの証明にはならない」

 

「えっ? じ、じゃあ、私の証言、意味無い、ですか?」

 

「そうじゃない。佐倉がその場にいた、という証明にはなる。佐倉がDクラスの生徒であっても、この写真によって発言に大きな信憑性が生まれる。だから決して無駄なんかじゃない」

 

「よ、よかった……」

 

「Cクラスは佐倉の証言の穴を突こうと躍起になるだろう。だから佐倉は、この写真でその場にいたことを証明し、その上で先に手を出したのは須藤ではないと発言するんだ。その発言には証拠こそ無いが、信憑性は高い。初めからそういう心づもりでいろ」

 

 下手な話の運び方をすると、Cクラスに詰められて、ただでさえ人前で緊張しているであろう佐倉が何もできなくなってしまうかもしれない。

 

 佐倉に証明できることを把握させ、話の進め方を決めさせておいた方がいい。

 

「いいか。どちらが先に手を出したかについては、証明できない。審議では相手にその点を責められるかもしれない」

 

「うん、大丈夫……私、やってみるから」

 

「頑張れ」

 

 佐倉の持っている証拠の確認が済んだところで、携帯にメールが送られてきた。

 

 椎名からだ。

 

『もしかして、佐倉さんはグラビアアイドルの雫ではありませんか?』

 

「雫?」

 

 オレがその名前を呟くと、隣を歩いていた佐倉がビクッと肩を震わせた。

 

 その反応で、椎名の推測が的中していることを確信する。

 

『どこで?』

 

『図書室で佐倉さんのお顔を見た時、見覚えがある気がしまして。その後コンビニに寄って漫画雑誌の表紙を見た時、ピーンときて、調べてみたというわけです』

 

 あの日松下が、以前どこかで見た気がすると言っていたのも、このことだったのかもしれない。

 

「なるほど。だから夏にマスクまでして顔を隠そうとしていたわけか」

 

「はい、そうです……」

 

 もう隠しても仕方がないと思ったのか、佐倉は観念したような素振りで素直に認めた。

 

 オレは再びで

 階段の踊り場に設置されている掲示板に、須藤の件の目撃者を捜しているという張り紙があった。

 

「おはよう、綾小路くん」

 

「おはよう一之瀬。これはお前が?」

 

「あー、これは多分……」

 

「俺だ、綾小路」

 

「神崎か。ありがとう」

 

「気にするな。Cクラスの行動が須藤を陥れる罠だったのなら、許しておいていいことじゃない」

 

 神崎はあまり大勢で遊ぶタイプの男ではないので親しくはないのだが、一応知り合いではある。

 

「あ、こっちの掲示板に面白そうな情報が入ってるよ」

 

 一之瀬に手招きされて携帯を覗き込めば、須藤が殴ってしまった3人のうちの1人である石崎という男子が、中学時代は喧嘩の強い悪だったということが書かれていた。

 

「有用だが、決定打には程遠いな」

 

「だよねー。あ、どうやってプライベートポイント送ればいいんだろう」

 

「貸してくれ」

 

「うん」

 

 一之瀬の代わりに、彼女のIDから相手のフリーメールアドレスへトークンキーを発行した。

 

「3か月でよくこんなに溜めたな」

 

 オレはBクラスが一之瀬にプライベートポイントを集めて貯金していることを、既に知っていた。

 

「皆には我慢させちゃってるよ」

 

「一之瀬の人望が無ければできないことだ」

 

「私なんて。皆が納得してくれたからだってば」

 

「一之瀬。一応先に言っておくが、もしかしたらプライベートポイントを借りることになるかもしれない」

 

「え?」

 

「確定じゃないんだけどな。急に言われるよりはいいだろう」

 

「ううん。綾小路くんのことは信頼してるから」

 

「そうか、ありがとう。オレも一之瀬を信頼している」

 

 金の貸し借りなんてところで不義を見せたら、この信頼も簡単に崩れ去るのだろう。

 

 月々の振り込みだけでなく、別口でプライベートポイントを稼ぐ方法を考えておいた方がいいかもしれないな。

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 

 オレは佐倉と一緒に、修理に出していたデジカメを受け取りに行った。

 

「佐倉、前に言った証拠っていうのはどういうものだ?」

 

「あ、えっと、その……」

 

 オレが聞くと、佐倉はデジカメを手に持ったまま、顔を赤くして固まってしまった。

 

「証拠は写真なんだろ? 明日の審議で大勢に見られることになるぞ」

 

「そ、そうだよね……あの、こ、これです」

 

 佐倉がデジカメに、件の写真を表示させて見せてくれる。

 

 そこには、メガネを外し明るい笑顔を見せる佐倉と、その後ろに須藤たちの喧嘩の様子が写っていた。

 

「可愛いな」

 

「そっ、そんなことっ!?」

 

「けど佐倉、この写真じゃどちらが先に手を出したかの証明にはならない」

 

「えっ? じ、じゃあ、私の証言、意味無い、ですか?」

 

「そうじゃない。佐倉がその場にいた、という証明にはなる。佐倉がDクラスの生徒であっても、この写真によって発言に大きな信憑性が生まれる。だから決して無駄なんかじゃない」

 

「よ、よかった……」

 

「Cクラスは佐倉の証言の穴を突こうと躍起になるだろう。だから佐倉は、この写真でその場にいたことを証明し、その上で先に手を出したのは須藤ではないと発言するんだ。その発言には証拠こそ無いが、信憑性は高い。初めからそういう心づもりでいろ」

 

 下手な話の運び方をすると、Cクラスに詰められて、ただでさえ人前で緊張しているであろう佐倉が何もできなくなってしまうかもしれない。

 

 佐倉に証明できることを把握させ、話の進め方を決めさせておいた方がいい。

 

「いいか。どちらが先に手を出したかについては、証明できない。審議では相手にその点を責められるかもしれない」

 

「うん、大丈夫……私、やってみるから」

 

「頑張れ」

 

 佐倉の持っている証拠の確認が済んだところで、携帯にメールが送られてきた。

 

 椎名からだ。

 

『もしかして、佐倉さんはグラビアアイドルの雫ではありませんか?』

 

「雫?」

 

 オレがその名前を呟くと、隣を歩いていた佐倉がビクッと肩を震わせた。

 

 その反応で、椎名の推測が的中していることを確信する。

 

『どこで?』

 

『図書室で佐倉さんのお顔を見た時、見覚えがある気がしまして。その後コンビニに寄って漫画雑誌の表紙を見た時、ピーンときて、調べてみたというわけです』

 

 あの日松下が、以前どこかで見た気がすると言っていたのも、このことだったのかもしれない。

 

「なるほど。だから夏にマスクまでして顔を隠そうとしていたわけか」

 

「はい、そうです……」

 

 もう隠しても仕方がないと思ったのか、佐倉は観念したような素振りで素直に認めた。

 

 オレはデジカメのモニターをつけ、証拠の写真だけではなく、他の写真も見てみる。

 

「ああっ、あんまり見ないで……」

 

「すまない」

 

 佐倉へカメラを返す。

 

 しかし不思議だ。写真の中のアイドル佐倉を見た後だと、今のメガネをかけ地味を装っている佐倉から受ける印象も大きく異なって見える。

 

「以前から容姿が優れているとは思っていたが、グラビアアイドルとして活躍するほどだったとはな」

 

「いっ、以前、から……?」

 

「ああ。普段の佐倉の雰囲気は地味で目立たないが、容姿まで変わるわけじゃないだろ。密かに可愛い子だと思ってたぞ」

 

 これは本当だ。

 

 女子の観察をしていたオレが、隠しているとは言え佐倉ほど整った容姿の子に気が付かないわけがない。

 

「そ、そっ……か」

 

 佐倉は妙に照れている様子だった。

 

 グラドルなんて人目につく仕事をしていたのなら、褒め言葉には慣れているものかと思ったのだが。

 

 オレが内心で首を傾げていると、佐倉がすっとオレから1歩離れた。

 

「悪い、気持ち悪いことを言ったかもしれない」

 

「えっ!? あっ、これは違くて!」

 

「そうか? 嫌がられていないならいいが」

 

 佐倉のように友人関係に慣れていない女子が、たった1歩の距離をどうしようと、大した意味は無い可能性が高いことくらいはオレも分かっている。

 

 しかし何事もリスクヘッジだ。

 

 取り敢えず謝罪の言葉は口にしておく。繰り返すと鬱陶しがられるが、一度くらいは言い(どく)だ。

 

「……」

 

 それから佐倉は静かになってしまった。

 

 けれど、オレと話したくないという様子ではない。

 

(会話力の特訓だと思おう)

 

 そう意識を切り替えて、オレは脳を全開に回した。

 

 

 

 

 

 

 その夜。

 

 オレはグラドル雫のブログを閲覧していた。

 

 別に、佐倉のちょっとエッチな恰好を見たかったわけではない。

 

 昼間、佐倉=雫だと判明した時、携帯で少し調べた。すると、何やら危険な香りのするフォロワーのコメントを目にしたのだ。

 

 一応と思って部屋のPCで改めて調べてみれば、出るわ出るわ。

 

 何より、まるで佐倉の身近にいるかのようなコメントに目が留まる。

 

 一番に思い当たるのは、あの修理カウンターの店員。

 

 しかし証拠が……いや実害が無ければ、排除することも難しい。

 

 手っ取り早く、佐倉に襲うなりしてくれないだろうか。

 

(我ながらクズの思考だな)

 

 心配する気持ちが湧いてくることはなかった。

 

 ただこれを利用できないかと、ほとんど反射的に思考が走るだけ。

 

 オレは佐倉に、友情を感じてはいないのだろうか。

 

 それとも───オレは友人相手にさえ冷たい考えをもつことしかできない、欠陥品なのか。

 

「ふぅ」

 

 分かっていたことじゃないか。

 

 オレは───

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