モテたい小路   作:エゴエロエゾロン

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14. 2巻突破

 そうして審議当日。

 

 その放課後。オレたち参加者組が集まっていた。

 

「堀北、平気か?」

 

「ええ。覚悟は決めてきたわ」

 

 討論にはオレの他に堀北が参加することになっていた。

 

 生徒会の参加……つまり堀北兄がいる可能性も事前に伝えてある。それでも彼女は、他に適任がいないことを理解し、承諾した。

 

「心の準備を気にするなら、私よりも須藤くんや佐倉さんの方でしょう」

 

「俺は問題無いぜ堀北。言いたいことは言わせてもらうがな」

 

「佐倉は平気か?」

 

「う、うん。大丈夫、だよ……っ」

 

 佐倉はやはり、かなり緊張している。

 

 先んじて、審議での発言を考えさせておいてよかった。

 

 職員室で茶柱と合流し、4階の生徒会室へ向かう。

 

 中へ入り、生徒会長の姿を捉えた途端、堀北の緊張が一気に高まったのを感じた。

 

(全然大丈夫じゃないじゃないか)

 

 堀北という戦力の不調を抱えたまま、審議は開始してしまう。

 

 橘書記が事件の概要を説明し始めた。

 

「───以上のような経緯を踏まえ、どちらの主張が真実であるかを見極めさせていただきたいと思います」

 

 審議は当事者の主張から入ったが、当然言い分は矛盾していて、須藤の形成が不利になっていく。

 

 堀北は完全に委縮してしまって、言い合いが聞こえてもいないようだった。覚悟とやらはどこへいったのか。

 

(あまり、女子の体に無遠慮に触れることはしたくないんだが)

 

 しかしこの緊張具合では、声をかけたところで届かない。

 

 仕方なく、オレは堀北の脇腹を突っついた。

 

「ひゃっ!」

 

 可愛らしい悲鳴が、想像通りなような、そうでないような。

 

 肉体的な刺激を与えられて、堀北はやっと気を取り直した。

 

「覚えておきなさい」

 

 小声で恐ろしい脅しを受ける。逃げたらどれくらい好感度が下がるだろうか。

 

「……失礼しました。私から、質問させていただいてもよろしいでしょうか」

 

 立ち直った堀北は論理的・客観的にCクラスを問い詰めていくが、結局、一方的な怪我という強力な証拠を前に出されては、弁論では歯が立たない。

 

 そこで、証言者として佐倉が呼びこまれる。

 

「では証言をお願いしてもよろしいでしょうか。佐倉さん」

 

「はっ、はい。えっと、私、その日喧嘩を見てました。しょ、証拠あります」

 

 印刷された件の写真が生徒会長へ提出された。

 

 佐倉も自分で、具体的な言葉選びを固めてきたのだろう。

 

 たどたどしくも、その口は言葉を止めない。

 

「確かに、これはその場にいた証拠になると認めよう」

 

「さ、先に手を出したのは、Cクラスの人たちです! そ、それにっ、挑発するようなことも言ってました!」

 

「ですが、この写真ではどちらが先に手を出したかの証明にはなりませんよ。あなたが最初から見ていた証拠にもなりません」

 

 坂上の見下すような言い方は、佐倉を怯えさせ何か有利な発言を引き出そうとでもしていたのだろう。

 

「わ、分かってます。でも、私は見たんです!」

 

 だが、その切り返しを想定していた佐倉には大したダメージにならない。

 

 佐倉が自分に証明できる限界を把握しているので、突っついてももう出てくるものは無い。

 

「……どうでしょう茶柱先生。ここは落としどころを模索しませんか」

 

 だが、まだ一方的な怪我という証拠は強い。想定通り、Cクラス側が譲歩の姿勢を見せる。

 

 しかし、そこで堀北が立ち上がった。

 

「私たちは須藤くんの完全無罪を主張します」

 

 堀北は坂上の提案を一刀両断で拒絶し、両者の合意は得られず、決議は明日の再審議に流れることになった。

 

 

 

 佐倉を連れて足早に生徒会室を出ると、彼女の下に坂上が近付いてくる。

 

「君の嘘が、大勢の生徒を巻き込む結果になったことは反省してもらいたい。それと、泣けば許されると思っているのなら君の策略は実に愚かしいことだよ。恥を知りなさい」

 

「恥なのは、審議に関係の無いこんなタイミングで気の弱い女子生徒に迫り暴言を吐くあんたの方ですよ。本当に教員免許もってます?」

 

 オレは佐倉と坂上を遮るように手を割り込ませ、言い返す。

 

 もちろん佐倉のためではなく、女子生徒を庇うというシチュエーションのためだ。

 

「暴言? 何のことだね?」

 

「要点のすり替えがお上手ですね。オレが疑義を呈しているのは、審議の場でない今、妥協させられそうになった自分の鬱憤を晴らすために佐倉に近付いてきたことですよ」

 

「まったく。君は私を悪者にしたくて仕方がないようだな」

 

「そんなことはありません。自分のクラスの生徒思いないい教師だと言っているんです」

 

「それはそれは、感謝しておくよ」

 

 それ以上言葉は交わさず、坂上はCクラスの3人を連れて去っていった。

 

 次いで、少し遅れて生徒会室を出てきた堀北兄がオレに向かってくる。

 

「どうするつもりだ?」

 

「どうするとは? 何も策なんてありませんよ」

 

「完全無罪と言い放ったのは鈴音の暴走か」

 

「絵空事ですね」

 

 堀北兄は、佐倉にも目を向けた。

 

「それから佐倉と言ったか。己に証明力が不足していることは分かっていたようだな。今回お前の証言が真実として認識されることはないだろう」

 

 それだけ言い残して、堀北兄は去っていった。

 

 何も言わなければいいものを。

 

 生徒会長はわざわざ、佐倉に『お前は嘘吐きだ』と言ってきたのだ。

 

 坂上に続き、何度も嘘吐き扱いされたことで、佐倉はついに涙を零し始めてしまった。

 

 ……まさか、オレが佐倉の心を狙っていることに気付いて、わざと負荷をかけたのか?

 

(まさかな)

 

 少なくともあいつの前では、そんな素振りは見せていない。坂上との口論も聞かれていない筈だ。

 

「ご、ごめん、ね……あんまり、役に立てなかったみたい……っ」

 

「そんなことはない。オレはお前を信じている」

 

 他に誰もいない2人きりの廊下で、オレは佐倉の肩を掴み、間近で視線を交わらせる。

 

「でも、わ、私のせいで……」

 

「お前は何も悪くない」

 

 オレはハンカチを取り出して、佐倉の濡れた頬を拭った。

 

「佐倉が嘘なんて吐いていないことは、オレが知っている」

 

「私、なんの役にも……」

 

「佐倉の証言のおかげで譲歩の余地が生まれ、1日の猶予と再審議が許された。明確に、勇気を出して証言してくれたお前の手柄だ」

 

「……うう、あ、ありがとう……っ」

 

 佐倉はさらに涙を零す。

 

 オレは彼女が落ち着くまでの数分の間、隣に寄り添っていた。

 

 

 

「恥ずかしいところ見せちゃったね……」

 

 佐倉が頬を染めながら、可憐に微笑んだ。

 

「感情を見せることは、仲を深める一助になる。友達として嬉しいことだ」

 

「で、でも綾小路くんの感情って、見たことないよ」

 

「すまない、表情に出にくくてな」

 

 2人で廊下を進んでいると、校舎の玄関近くで、堀北が一之瀬と神崎と話しているところに遭遇した。

 

「あっ、綾小路くん。やっほー」

 

「遅かったわね」

 

「ちょっとな。何を話していたんだ?」

 

「一之瀬さんに協力をお願いしていたの」

 

 内容を聞いた。

 

 堀北も、オレが思い描いていた作戦に辿り着いてくれたようだ。

 

「いいのか? 安くないだろ」

 

「これは貸しだよ。いつか返してもらうから」

 

「返済は綾小路くんに言ってちょうだい」

 

「それはおかしいだろ」

 

「さっき私の脇腹触ったわよね?」

 

「はい、堀北の言う通りにします……」

 

 セクハラの赦しはとっとと得ておきたいので、オレは大人しく従った。

 

 

 

 

 

 

 翌日、再審日。

 

「お、おはよう。綾小路くん……」

 

「……ああ、おはよう」

 

 佐倉が教室で、自分から挨拶をしてきた。

 

 どうして、こんななんでもない場面で勇気を出しているのか。

 

 変わりたいと思っている、それだけなら歓迎すべき心情の変化だ。

 

 だが、どうにも不穏な予感を覚えてしまった。

 

 そして放課後。

 

「私も頑張るね」

 

 教室を出る間際、佐倉はそんなことを言った。

 

 何を頑張るのか、具体的なことは分からなかったが、用事があるので付いていくことはできない。

 

「無理はするな」

 

「大丈夫だよ」

 

 佐倉を見送り、特別棟の事件現場へ向かう。

 

 そこでオレと一之瀬は、堀北の作戦通り、Cクラスの3人を嵌めた。

 

「えーい、悪党は最後までしぶといっ。そろそろ年貢の納め時だよ!」

 

 櫛田の名前で審議直前に呼び出し、偽の監視カメラを使ってこのまま嘘を吐き通せば退学になると脅し、しかし訴えを取り下げれば助かると救いの糸を垂らす。

 

 一之瀬の演技と強引さで、計画は成功した。

 

「いやーすっきりすっきり! ありがと、大役譲ってくれて。気持ちよかった~」

 

「こっちの方こそ助かった。龍園に相談されていたら、破綻していたからな」

 

 Bクラスが被害を受けているということで、オレは龍園翔の存在を知っていた。

 

 あいつの指示なら、喧嘩する場所の監視カメラの有無を確認していない筈がない。連絡されてしまったら、そのまま行けと命令が下って、訴え取り下げは叶わなかっただろう。

 

「あ、確かにそうかも。ギリギリだったんだね」

 

 オレも、何かもっと確実な方法が無いかと考えていた。

 

 例えば、喧嘩のあった特別棟ではなく、小宮たちが須藤を呼び出した場所で今回と同じことを遂行するとか。

 Cクラス側の『一方的な被害者を装う悪質な嘘』が暴ければいいわけだから、どちらが先に手を出したかだけでなく、どちらが呼び出したかが分かればよかった。

 何より、実際喧嘩する場所に比して、呼び出すタイミングの方は龍園が場所を指示していない可能性が少し高い。

 

 他には、本物の監視カメラの映像音声から、須藤が呼び出された瞬間の録音を捏造できないかなんてことも考えていた。

 BクラスはこれまでCクラスの嫌がらせ被害に遭っていた。それには恐らく小宮や近藤も実行犯として参加している。チンピラのような台詞もどこかにあるかもしれないと予想できた。

 だからそれらの音声から録音を合成し、中立性の高いAクラスのバスケ部員に証人として立ってもらえれば、などと考えていたのだが、茶柱に確認したところ監視カメラ映像の利用料は監視カメラの購入とは比べるべくもない凄まじい金額で、かつ目当ての台詞が収められていないリスクも小さくなかったので、断念した。

 

 いや、結局のところ。

 

 オレから作戦を発案することはなかった。

 

 堀北が偽カメラ作戦を思いついていなければ、須藤にはそのままペナルティを受けてもらっていただろう。

 

「この後どうする? 生徒会室の前で待つ?」

 

「そうだな……」

 

 偽カメラを回収した後、オレは一之瀬と話しながら、不意に佐倉のことを思い出した。

 

 携帯を取り出して、池が櫛田に使っていたのと同じ位置情報共有サービスで佐倉の現在地を確認する。

 

 家電量販店の搬入口───

 

 不安が危機感に代わり、オレは一之瀬を置いて走り出していた。

 

「えちょっ、綾小路くーん!?」

 

 全速力で走っても一之瀬はすぐには引き離されず、上履きから靴に履き替えるタイミングで追いついて来た。

 

「悪い、待つつもりは無い」

 

「へーきへーき」

 

 携帯が示す佐倉の場所へ向かえば、人気(ひとけ)の無いそこに、佐倉とあの修理カウンターの店員がいた。

 

「もう、私に連絡してくるのはやめてください……!」

 

 推測通り、あの男が雫のブログに粘着質なコメントを残していたストーカーだったようだ。

 

 先刻、佐倉が頑張ると言っていたのは、この男をはっきりと拒絶することだったのだろう。

 

「た、助けないの?」

 

 一之瀬がオレの意思を汲み、こそこそと話しかけてくる。

 

「あの男を排除するために、決定的な証拠が……せめて接触が必要だ」

 

 一之瀬は顔を顰めたが、佐倉のためだと言うと、理解してくれた。

 

「もうやめてください……迷惑なんです!」

 

「どうして……どうしてこんなことするんだよ……! 君を思って書いたのに!」

 

 佐倉が男の書いた何十もの手紙を地面に叩きつけると、男は激昂して佐倉の腕を掴み、そばのシャッターへ彼女の体を押し付けた。

 

 そこで、一之瀬が袖を引いてくる。これ以上はダメらしい。

 

 できれば、胸にでも触れているシーンを写真に収めたかったが、まああれでも十分だろう。

 

 オレは、ストーカーが佐倉を掴み密着するほど迫っているその様子を写真に収めると、大きく足音を立てて駆けだした。

 

「あんた、何してんだ」

 

 男を佐倉から引き剥がし、彼女を背中に庇う。

 

「な、なんだお前! 邪魔するな!」

 

 男が顔面を狙って振るってきたパンチを、オレはわざと受ける。

 

「「綾小路くん!?」」

 

 佐倉と一之瀬が同時に悲鳴を上げたが、このくらいはなんでもない。

 

 写真もあることだし、正当防衛は成立だろう。

 

「ふぐっ、ぶげぇっ!」

 

 2度目の拳を防ぐと、腹に膝を入れ、お返しとでも言うように顔面を殴り飛ばした。

 

「消えろ」

 

「ひっ、ひいぃっ!」

 

 ストーカーは情けなく涙を流しながら、這う這うの体で立ち去っていった。

 

 写真などのことは言わなくてもいい。追い詰められて破れかぶれになる可能性があった。どうせ通報はするのだし。

 

 男の姿が見えなくなると、佐倉の膝から力が抜けた。

 

 尻餅をつく前に、彼女腕を引いて抱き寄せる。

 

「佐倉、無事か?」

 

「う、うん……あっ、そ、そうじゃなくて、綾小路くんこそ!」

 

「そうだよ、平気!?」

 

 一之瀬もやってきて、殴られた左頬をじっと見てくる。

 

「このくらい、全然大丈夫だ。正当防衛と通報のためにわざと殴られただけだしな」

 

「そ、そうなの?」

 

「なら、よかった……もう、びっくりしたよ!」

 

「悪い」

 

 一之瀬が怒る。

 

 腕の中で、佐倉がほっと息をついた。

 

「佐倉、よく頑張ったな」

 

「そ、そうだ。綾小路くんたちはどうして、ここ、に……───」

 

 佐倉が突然硬直し、カーッと頬を紅潮させていく。

 

「あっ、綾小路くん! いつまで佐倉さんのこと抱き締めてるの!?」

 

「ああ、悪い」

 

「いやっ、だいっ、大丈夫だからっ!」

 

 佐倉はわたわたと手を振り回し、斜め下を向いて赤い顔を隠してしまった。

 

「だが佐倉、勇気の出し過ぎだぞ。何かあったらどうするつもりだったんだ」

 

「あ、あはは……そうだよね。でも、これは私の問題だし……」

 

「佐倉の身に何かがあって、傷付くのは佐倉だけじゃない」

 

「え……?」

 

 少し目元に赤みを残したまま、佐倉が呆けた表情で顔を上げる。

 

 オレは視線を合わせて言う。

 

「心配した。お前が傷付けばオレも悲しい。これからは、オレにもっと相談してくれ」

 

「…………は、はぃ」

 

 佐倉はまた顔を赤くして俯く。

 

 隣に視線をやれば、一之瀬もまた赤くなって、手で顔を覆いながら指の隙間を開いて覗き見ていた。

 

「何してるんだ?」

 

「い、いやあ、あれだね。女の子の理想の瞬間の1つを見ちゃったかも」

 

 確かに、女性の危機に男が駆けつけるのは、定番かつドラマチックなシーンだ。それを狙ってタイミングを窺ったのだから当然だが。

 

「佐倉、帰ろう。寮まで送る」

 

「う、うん」

 

「ところで一之瀬、この学校で通報ってどうやればいいんだ? 警察に直接連絡していいものか?」

 

「えー、どうだろう。生徒間の問題じゃないしね……取り敢えず先生に相談してみようよ」

 

 オレは佐倉と一之瀬に挟まれながら寮へと戻り、部屋へ佐倉を送り届けた。

 

 そのまま学校へ足を向け、教員への相談ついでに生徒会室に顔を出す。

 

 すると、ちょうど生徒会長と橘書記が出てくるところだった。

 

「お疲れです」

 

「お疲れ様です」

 

 オレが適当に挨拶する横で、一之瀬は礼儀正しく頭を下げる。

 

「Cクラス側からの申し出により訴えを取り下げることを認めた」

 

「そうですか。不思議なこともあるもんですね」

 

 素知らぬフリでそう返すと、堀北兄は値踏みするような視線でオレを眺めてきた。

 

「……橘。まだ書記の席が1つ空いていたな」

 

「はい。先日申し込みのあったAクラスの1年生は1次面接で落としましたので」

 

「綾小路。お前が望むなら書記の席を譲っても構わん」

 

「「ええっ!?」」

 

 驚いていたのは、オレよりも橘書記と一之瀬だった。

 

「そういえば、一之瀬は生徒会に入ったんだったか」

 

「うん。南雲先輩のおかげで……でも、南雲先輩は、堀北会長は肩書きで人を判断するって……」

 

「むっ。その勘違いはいけませんね。生徒会長はむしろ能力や人間性をよく見るお方ですよ」

 

「分かっていたことだが、南雲の毒牙にかかっていたようだな」

 

「そんな……」

 

「それで綾小路、どうする」

 

 生徒会。単純に時間を取られる上、目立つ。

 

 通常なら受けない一択だが、人気者の一之瀬と関わる機会が増えるのはメリットだ。

 

 いや、しかし───

 

「やめておく。オレにとってメリットとデメリットが釣り合っていない」

 

「えええっ!? 生徒会長からのお誘いを断るんですか?」

 

「忙しそうだから嫌だ」

 

「嫌だって……」

 

「行くぞ橘」

 

「は、はいっ」

 

 オレへの興味が尽きたのか、2人は立ち去っていく。

 

 一之瀬に目を向けると、彼女は暗い雰囲気になっていた。

 

「……」

 

「副会長の嘘がそんなにショックだったのか」

 

「うん……私一度、面接で堀北会長に落とされちゃって、南雲先輩の口利きのおかげで生徒会に入れて、尊敬してたから……いやっ、それ自体は間違ってないんだけど……」

 

 オレに上級生の関係は分からないが、南雲の嘘の内容から、生徒会長と副会長が敵対関係なのは分かる。

 

 そして一之瀬は、生徒会長に拒絶され、副会長に疑心を抱いてしまった。

 

 恐らく、孤立してしまう。

 

「悪い、オレも生徒会に入ればよかったな」

 

「えっ、ううん! そんなの悪いよ!」

 

「何かあったら、相談してくれ。一之瀬のためならいつでも力になる」

 

「そ、そーゆーことは佐倉ちゃんだけに言いなよっ」

 

「何故だ? 一之瀬だって同じだぞ。お前のことを心配しているし、お前が辛いならオレも辛い」

 

 オレが佐倉に言ったのと同じことを言うと、一之瀬はくるりと背中を向けて、オレから顔を隠してしまった。

 

「うん、うん。分かったよ。嫌なことがあったら、すぐ綾小路くんに言うからさ」

 

「一応補足するが、強制はしないぞ?」

 

「分かってるって! じゃーねー!」

 

 一之瀬はこちらに顔を向けないまま走り去っていってしまった。

 

 別の女子に言った台詞の使い回しは、あまりよくなかったか……。文脈的に問題無いと考えていたのだが。

 

「あら、いたの……その頬、どうしたの?」

 

 オレもその場を立ち去ろうとすると、生徒会室から堀北と茶柱が出てきた。

 

 まだ残っていたのか。

 

「あ、茶柱先生、少し待ってください」

 

「なんだ」

 

「この学校で通報ってどうすればいいんですか?」

 

「何?」

 

「実はさっき───」

 

 茶柱と話している間に、堀北はいなくなっていた。

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