モテたい小路   作:エゴエロエゾロン

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 佐倉って初めの頃は学力ちょい高めだったんですね。ていうか手加減してる綾小路よりも上だった。
 これは完全に私の確認不足でした。

 でも今作では既に「綾小路>佐倉」としちゃってるんですよね。
 ですので今作の綾小路は、学力の出力を原作よりちょっと高めにしていると思ってください。佐倉より上ってことで。

 今話では佐倉の学力が低いという類の表現を削除改稿しました。


17. ジムジム・メンツ

 1学期期末テストを終えた後。

 

 オレは佐倉を育てることに決めた。

 

 何しろ、この学校では退学が軽い。また、退学リスクが定期テストだけというのも考えにくい。これからクラスポイント争奪戦が激化していく見込みだからだ。

 

 不要な生徒を切り捨てる必要が出てくる可能性もある。

 

 そして佐倉は、学力こそ平均的なものの身体能力はお世辞にも高くなく、コミュニケーション能力に至っては明確に最底辺。

 

 つまり退学候補の1人。

 

 今のところオレがDクラス内で親しくしている女子は櫛田、松下、みーちゃん、佐倉だが、この中だと佐倉が一番危険域にいる。

 

 女子側から寄ってくるような振る舞いをできないオレにとっては、関わりのある女子1人1人が大切な数字だ。なるべく退学にさせたくはない

 

 だから先日、オレは佐倉に提案した。

 

「佐倉。お前に言いたいことがある」

 

「はぇっ!? な、何……かな?」

 

「オレは佐倉と離れ離れにはなりたくない。だからこれからも、テスト前でなくても勉強会をしないか」

 

「あっ……う、うん! いいよ!」

 

「それと、佐倉には体力作りもしてほしい」

 

「えっと、なんで……?」

 

「佐倉の価値を上げるためだ。現状、自分がDクラスの中でも低い位置にいることは分かってるか?」

 

「うん……皆、私よりすごい人ばかりだよ」

 

「佐倉が退学になることはオレが許さない。もちろん全力で守るつもりだが、不可抗力という場合もあるかもしれない。そんな時のために佐倉の学力面運動面を改善していきたいんだ」

 

「……うん。分かったよ。私も、その、綾小路くんとずっと一緒にいたいから……っ!」

 

「ありがとう、佐倉」

 

 そんな話をした後、オレはその場で櫛田に連絡を取った。

 

『もしもし、綾小路くん? どうしたの?』

 

「櫛田、誰かジムに入会している奴を知らないか? できればオレの知り合いがいいんだが」

 

 運動のためには、器具を利用した方がずっと効率がいい。

 

 それと、佐倉にランニングやジョギングをさせるにあたって、高育の敷地内を走り回らせるよりもジムという限定的な空間の方が、精神的負荷が少ないと考えた。

 

 加えて、オレの体力の衰えも気になりだした頃だ。

 

『うーん、今入ってる人は分かんないけど、確か前に一之瀬さんが興味あるって言ってたよ』

 

「そうなのか、ありがとう櫛田。今度礼をする」

 

『別に気にしなくていいよ、これくらいのことで』

 

 次いで、オレは一之瀬に電話をかけた。

 

『綾小路くん、何か用? 遊びに誘ってくれるのかな?』

 

「櫛田から一之瀬がジムに興味あると聞いてな」

 

『もしかして綾小路くんも?』

 

「佐倉と一緒に入りたいと考えているんだが、オレたち2人じゃちょっと勇気が出なくてな。もう1人、付き合ってくれる友人がほしいと考えていたんだ」

 

『じゃあ、ちょうどいい機会だし一緒に行こうよ! あ、麻子ちゃんも一緒でいいよね?』

 

「歓迎だ」

 

 正直に言えば、ジムという薄着になり汗を流す場所で男子1人女子3人は少々気まずかったが、ここで待ったをかけるほどの理由にはならない。

 

「いつならいい?」

 

『麻子ちゃんの予定次第だけど、明日なら多分大丈夫だよ』

 

「じゃあ確定したら連絡くれ。オレも空けておく」

 

『りょーかい! 一緒に気持ち良い汗流そうね!』

 

「ああ、楽しみにしてる」

 

 櫛田と一之瀬との電話を終えて横を見ると、静かに待っていた佐倉が不安そうな顔をしていた。

 

「あの、ジムに入るの……?」

 

「ポイントはかかるだろうが、運動にはその方が効率的だ」

 

「あ、その……」

 

「安心しろ。佐倉が1人で行けるとはオレも思ってない。オレも一緒に行く」

 

「迷惑じゃない……?」

 

「むしろ貴重な機会だ。運動したいと思ってたからな」

 

「そっか、よかった……あの、ありがとう、綾小路くん」

 

「礼はいい。オレがオレのためにやったことだ」

 

 こうして夏休み開始直後、オレは佐倉、一之瀬、網倉と共にジムへ入会した。

 

 無料体験を経て正式入会。

 

 通う頻度は、佐倉の意欲も考慮して週3回とした。

 

 また、ジムに行かない日でも部屋でストレッチなど軽い運動はするようにと言ったのだが……

 

「私、サボっちゃいそう……」

 

 佐倉は元々運動が好きな子ではないし、やったかやっていないかの証拠が残らないので、サボってしまいやすい。

 

「なら一緒にやるか? そうだな、勉強会の前か後にでも」

 

「う、うん。そうしてほしいな。私も続けたいとは思ってるから」

 

 そういうことで、週3のジム通いと週4の勉強会&軽い運動を習慣化することに決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ジムでは、オレはほとんど愛里に近付かない。

 

 汗をかいている時に接近するのは恥ずかしいと彼女が言ったからだ。

 

 なので、主に女性インストラクター、一之瀬たちがいる時は彼女らのサポートも受けながら、愛里は懸命に頑張っている。

 

 オレは少し離れたところで彼女の様子を見守りながら、自分のトレーニングをするのだ。

 

「大丈夫か?」

 

「う、うん……へぇき……」

 

 ジムのシャワーを借りて帰りに集まった時には、愛里はヘロヘロになってしまっている。

 

「少しどこかで休んでいくか?」

 

「ううん。清隆くんのご飯、食べたいから……」

 

 オレたちは、2学期が始まっても変わらず続けられるように、夕方から夜にかけての時間でジムに通っていた。

 

 なので、帰りにはちょうど夕食時になる。

 

 オレは愛里の栄養バランスのため、また頑張っている彼女へのご褒美という意味も兼ねて、ジムの日は愛里の部屋で夕食を振る舞っているのだ。

 

「あ、私たちも行きたいっ」

 

「綾小路くん、料理上手だからね」

 

 一之瀬と網倉がいる時は、自然な流れとして彼女たちも一緒に食卓を囲むことになる。

 

 愛里の弱点の1つである友人の少なさ、コミュニケーション能力不安の改善に効果が見込めるかもしれないと、なるべく彼女が他の生徒と関わる機会を作っているのだ。

 

「ああ、行こうか」

 

 4人で寮までの夜道を歩く。

 

「ところで、綾小路くんと佐倉さん、いつから下の名前で呼び合ってるの?」

 

 網倉がそう聞いてくる。

 

「あ、そう言えば確かに!」

 

「もしかして……付き合い始めたとか?」

 

「残念ながら違うぞ。ちょっとしたきっかけがあってな」

 

 きっかけは、勉強会だ。

 

 オレは松下からのアドバイスを採用して、愛里のモチベーション維持のために、ご褒美制度を設けた。

 

 オレがその場で用意した数問の小テストを全問正解できたら、何かご褒美をあげる、または何か言うことを聞くといった具合だ。

 

 ちなみに成績の上では、オレと愛里は僅差でオレの方が上なだけなのだが、愛里は自然とオレを高く見積もっている。間違っていないので指摘もしない。

 

 で、その一環で先日、

 

『じゃ、じゃあ、綾小路くんのこと、その、きっ、清隆くんって呼んでいいかな……っ!?』

 

『それは構わないどころか、むしろ嬉しいぞ。ならオレも愛里と呼ぶことにしようか』

 

『う、うんっ。き、清隆くん』

 

『愛里、よく頑張った。今日はもう終わりにしよう』

 

 こんなことがあったのだ。

 

 以前は清隆と呼ばれることの方が多かったのに、愛里にそう呼ばれるのはなんだか不思議な感じがして面白い。

 

「下の名前で呼ぶのも呼ばれるのも、高育では愛里が初めての相手だ」

 

「あー、いーなー。ね、私も清隆くんって呼んでいい?」

 

「もちろん大歓迎だ」

 

「私もそうするねー」

 

「オレも帆波、麻子と呼んだ方がいいか?」

 

「そりゃそうだよ!」

 

「片方だけっておかしいでしょ?」

 

 夏休みに入ってから始めたジム通いの習慣は、愛里だけではなく、帆波と麻子とも仲を深めるきっかけになってくれたようだ。

 

 寮の近くまで来ると、他の生徒の姿も散見されるようになる。

 

 もう暗いとは言え、高校生ならまだ遊び歩いていてもおかしくない時間だ。

 

 そして、女子3人といるオレへ男子たちの視線が集まる。こちらを見ながらひそひそと何やら話しているようだ。

 

 帆波と麻子は、そんなことをまるで気にしていないが。

 

「そう言えばこの前、清隆くんと佐倉さんが付き合ってるのかって聞かれたよ」

 

「えぇっ!?」

 

「へぇ。まあ入学から時間も経ったし、愛里の容姿を見抜く奴も増え始めたか」

 

「佐倉さんすっごい可愛いもんね〜」

 

 愛里はジムでは伊達メガネを外している。なので、この3人はジムの新人美少女として、生徒のことに詳しくない大人たちからもちょっとした注目を集めていた。

 

 ちなみにほとんどいないが、愛里に声をかけようとする輩はオレが事前に遮っている。

 

「違うよ。聞いてきたのは男子じゃなくて女子。気になられてるのは綾小路くんの方だよ」

 

 麻子がやれやれと呆れた風に溜め息をつく。

 

「自覚してるか知らないけど、綾小路くんって普通に女子から人気だからね?」

 

「何?」

 

 オレの目標は、いつの間にか達成されていたのか?

 

 櫛田からイケメンランキングとやらの存在は聞いていたが。

 

 ……いや。

 

 例え今モテていたのだとしても、それは一時(いっとき)。今後はその状態の維持に邁進しなくてはいけない。

 

「お、興味ある?」

 

 オレの反応を見て、麻子が楽しそうに笑う。

 

「その相手に興味があるわけじゃない。ただ、どうしてオレがそんな評価を受けているのか知りたい」

 

「き、清隆くんは、カッコいいから……!」

 

 オレ以外がいる時は口数が減ってしまう愛里が、そう言ってくれた。

 

「まあ第一にそれだよね。清隆くんイケメンだし」

 

「気配りができるところじゃないかな? 清隆くんと遊ぶ時、よく細かいとこに気付いてくれるなって思うよ」

 

「あと、なんか可愛いしね」

 

「可愛い?」

 

 坂柳にも言われたが、それは全く理解できていない。

 

「なんて言うか、基本無表情なクールキャラなのに、妙に素直で世間知らずって言うか。揶揄われて困ってるところ見ると、あ、可愛いなって感じるの」

 

「それ、すっごい分かる!」

 

 麻子の言葉に、帆波が激しく同意した。愛里も隣で首を縦に振っている。

 

「それ、プラスなのか?」

 

「まあ、顔の良さが前提ってところはあるかな。話題に付いていけてないことも結構あるでしょ? まあそこも、素直さでカバーされてる部分はあるけど」

 

 オレの仕草は、女子から見れば可愛いと映るらしい。

 

 少々不本意だが……いや、変に振る舞いを考えるのはよそう。今のままで十分に好意を得られているんだ。

 

 そんな話をしながら、オレたち4人はオレの部屋へ向かう。

 

 愛里と2人の時は愛里の部屋だ。だが4人ともなれば、食材の問題で愛里に負担をかけることになってしまう。

 

「少し待っててくれ」

 

「はーい」

 

 手を洗いエプロンをかけて台所に立つ。

 

 オレの部屋には新しく買った4枚の座布団があった。

 

 このジムメンツ、あるいは愛里、みーちゃん、松下の勉強会メンツなど、4人で集まることが何度かあったので、せめて用意すべきと考えたのだ。

 

「シェフ、今日の献立は?」

 

「アクアパッツァだ。スーパーに魚が安く売られてたから作ってみたくなった」

 

 もう料理にもかなり慣れた。

 

 すぐに支度を済ませてテーブルへ配膳し、愛里と帆波の間、麻子の正面に腰を下ろす。

 

「いただきますっ!」

 

「いただきまーす」

 

「い、いただきます」

 

 3人が手をつけたのを見てオレも食べ始める。

 

 うん、十分だな。本当に美味しいものを食べたことがないので到達点が分からないが、不快な感じは全くしない。

 

「あ、女の子の髪の毛落ちてる。茶色の」

 

 食事中に、麻子がそんなことを言った。

 

 その視線はオレのベッドの上に向けられている。

 

「松下だな」

 

「あれ、慌てないね」

 

「言っておくがただの友人だぞ」

 

「でも、ベッドの上にだよ?」

 

「ベッドに座ることくらいあるだろ」

 

 まあ実際は寝転がっていたのだが。

 

 以前、愛里の勉強会で寝落ちして結果泊まりになってしまったことをきっかけに、オレの部屋に泊まることを躊躇しなくなってしまった。

 

 流石に松下も弁えているので、2人きりでの泊まりはないが、3人以上だともう既に何回か起こっている。

 

「松下さん、よく清隆くんのベッド使ってるから……」

 

「ええ!?」

 

「ど、どういうイミ!?」

 

「邪推するようなことは何もない。愛里だって使ったことがあるだろ」

 

「ヤバぁ……」

 

 帆波と麻子から女性関係を問い詰められながら、夕飯を食べ終わる。

 

 食器を片付けて戻ると、3人は並んでベッドの側面に背中を預けていた。

 

「清隆くん! た、ただれてるよ!」

 

「すっごい女たらしだね」

 

「人聞きの悪いことを言うな。Dクラスの男子で仲がいい友人と言えるのが忙しい平田くらいしかいないから、結果的に女子である松下や櫛田やみーちゃんや愛里とかと遊ぶ機会が多いだけで、別に女子を選んで連れ込んでいるわけじゃない」

 

 Dクラス男子とも仲が悪いわけではない。ただ何故かあんまり遊びには誘われないのだ。

 

「これまでいったい、何人の幼気な女の子を毒牙にかけてきたんだい?」

 

「部屋に招いたことのある女子という話なら……15人前後ってところか」

 

「多っ」

 

「特に多いのは愛里と松下だな。愛里は勉強会をしてるし───」

 

「すー……すー……」

 

 いつの間にか、愛里が寝息を立てていた。

 

「ありゃ、疲れてお腹いっぱいになって、眠くなっちゃったんだね」

 

「最近はジムの後、よく寝入ってしまうんだ。普段は愛里の部屋で夕食を振る舞っているから問題無いんだが」

 

 愛里は体力が無いなりに、本当に頑張っている。

 

 以前は、オレが料理している最中に寝てしまっていたこともあった。

 

「今日はどうするの?」

 

「起こすしかないな。流石に、男女2人きりはまずい」

 

「んー、ねえ帆波ちゃん。なら私たちも泊まっちゃう?」

 

「ええっ!?」

 

 麻子の提案に、帆波は心底驚いたようだった。当然の反応だ。

 

「そうしたら佐倉さん起こさなくて済むし」

 

「あいにく布団は無いから、誰か床で寝てもらうことになるぞ」

 

「いいって、そのくらい」

 

「わ、私も大丈夫だよ!」

 

 そういうわけで、帆波と麻子も泊まることになった。

 

「風呂はどうする? 一旦部屋に戻るか?」

 

「折角お泊りだし、清隆くんの使わせてもらおっかな」

 

「わっ、帆波ちゃん大胆」

 

 一度決めたら腹を括ったのか、帆波はなんだか乗り気になっていた。

 

 と、その前に、愛里を抱き上げてベッドの上に寝転ばせ、起こさないようそっと布団をかける。

 

「…………」

 

「帆波ちゃん、お姫様抱っこいいなって思った?」

 

「ちっ、違うよ!?」

 

「このくらい、求められればいつでもするぞ」

 

「も、求めないよっ!」

 

 顔を赤くした帆波がささーっと風呂場へ逃げ込んだ。

 

「帆波ちゃん可愛いよね」

 

「そうだな」

 

「ねぇ、帆波ちゃんを弄ぶようなことしたら、承知しないよ?」

 

「浮気なんてするつもりは無いぞ」

 

「そ、ならいいけど」

 

 暫くして帆波が出てくる。

 

 彼女はホカホカと湯気を立たせる体に、オレのぶかぶかな部屋着を纏っていた。

 

「あはは、ちょっと大きいかも」

 

「すまない、そのサイズしかないからな」

 

 入れ替わりで麻子が風呂場へ向かった。

 

 帆波はそのまま、座布団を寄せてオレの隣に座ってくる。

 

 室内には麻子の使うシャワーの音がBGMのように響いていた。

 

「無理してないか?」

 

「え?」

 

「麻子の発案で泊まることになったが、嫌なら───」

 

「ううん、全然嫌なんかじゃないの! むしろ楽しいって言うか、ちょっとドキドキしてるって言うか……」

 

 帆波は火照ったままの顔でオレを見上げ、そっとオレの肩に体重を預けてきた。

 

「ねぇ、清隆くんって……好きな人とかいるの?」

 

「いないな」

 

「そ、そうなんだ……じゃあ、好きなタイプとかは?」

 

「分からない。明るく引っ張ってくれる子かもしれないし、静かにそばにいてくれる子がタイプかもしれない。もしくはオレが守り育てなければいけないような未熟な相手に愛らしいと感じるのかもしれない」

 

「ふぅん……」

 

「オレは恋って言うものを知らないんだ。だから体験してみたいと思う。そういうわけで、少し勿体ないが、オレはオレが恋した相手としか付き合うつもりは無い」

 

「でも、付き合ってみて初めて恋に発展するかもしれないよ?」

 

「かもな。けど、一緒に過ごすことは付き合わなくてもできる。特定の1人と交際することで、他の女子に恋心が起こる可能性を捨てたくないんだ」

 

「……そっか」

 

 いつの間にか、シャワーの音も、静かな寝息も聞こえなくなっていた。

 

「出たよー」

 

 ちょうどオレと帆波の会話が終わったタイミングで、オレの部屋着を着た麻子が出てくる。

 

「どっちが床に寝るか、決めておいてくれ」

 

 そう言い残して浴室に入る。

 

 危ない危ない、告白されそうな雰囲気だったな。

 

 咄嗟に、好きな相手はいない、惚れた相手としか付き合うつもりは無いと言って、未然に防いだが。

 

 ちなみに嘘である。本当は、誰かと付き合うつもりは一切無い。

 

 もちろん、この目的と理屈を押しのけてしまうような強烈な慕情を得たのなら、それに溺れてみるのも一興だが。

 

 風呂を出ると、麻子が愛里の隣に寝転がり、帆波が床にいた。

 

「帆波はカーペットの上を使ってくれ。オレは離れたところで寝るから」

 

「えっ、それは申し訳無いよ」

 

「すぐ隣で寝てもいいのか?」

 

「あ、いやっ、私は自分が床の上で寝ようかと……」

 

「それはダメだ」

 

「……じゃ、じゃあ、隣で寝よ?」

 

「帆波がそれでいいなら」

 

 オレは赤面している帆波の隣に寝転がって、丸めた座布団を枕代わりにし、彼女に背中を向けた。

 

「安心してくれ、触れたりはしない」

 

「う、うん。清隆くんのことは、信頼してるから」

 

 後ろで、帆波もカーペットに寝転がったのが分かった。

 

「おやすみ」

 

 そう言って、リモコンで部屋の電気を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌朝。

 

「オレは触れてないんだが……」

 

 オレは帆波に背中から抱き着かれていて。

 

 そんな様子を、麻子が冷たい視線で見下ろしていた。

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