行動の変化はその影響だと考えてください。
オレは当初、高校生活を目立たないで過ごすつもりだった。
だからこそ実力を隠し、有能さをアピールすることが出来ないでいた。
それは今も変わらない。どころか、クラスポイントとAクラス特権のシステムのせいでオレとその他の生徒の熱量は大きく隔たってしまっており、実力を大々的に見せびらかすことはより望ましくなくなった。
だが、
「───今ここで決断しろ。私に手を貸すのか貸さないのか」
1学期終業式後、オレは茶柱に呼び出され脅された。
隠している実力を発揮し、堀北クラスをAクラスへ導けと。
実力を隠す動機は十分すぎるほどある。しかし今のオレは学校生活を楽しいと感じていて、茶柱の脅迫はあいつが思っている以上に効果があった。
茶柱が脅迫してきたタイミングを鑑みて、8/1からのこのバカンスで何か大きなことが起こるのが確定する。
だから夏休み中、ジムに通ったり、自然やサバイバルについての知識を少し集めてみたりなどしていた。
『生徒の皆様にお知らせします。お時間がありましたら、是非デッキへお集まり下さい。間もなく島が見えて参ります。暫くの間、非常に意義ある景色をご覧頂けるでしょう』
場所は豪華客船の上。生徒たちが賑やかにはしゃぐ中、そんな放送が流れた。
そのアナウンスが聞こえる前から、オレは島の外観から情報を得ることを考え、機会を逃すことのないように暑い中デッキの上で過ごしていた。
とは言え日光の下で長時間過ごすと体力を大きく消費してしまうので、流石にパラソルの影に入らせてもらっているが。
「綾小路くん、島だって。見に行こうよ!」
「ああ」
櫛田に手を引かれてデッキの端に寄る。
別に櫛田と2人でいたわけではなく、パラソルの設置されている場所がプールの際で、櫛田は他の友人たちとプールで遊んでいたというわけだった。肌色が眩しい。
「すごく神秘的な光景だね……! 感動するなあ」
「そうだな、綺麗な島だ」
客船は無人島の周囲を高速で1周する。
その不自然な高速航行から、この船の動きは学校側の生徒へのヒントだと思われた。
『これより、当学校が所有する孤島に上陸いたします───』
アナウンスが入り、遊んでいた生徒たちは着替えるため急いで部屋に戻っていく。
元々ジャージでいたオレはその場を離れず、情報収集を続けた。
暫くして、1年生たちは船からビーチへ下りる。
「ではこれより───本年度最初の特別試験を行いたいと思う」
真嶋の宣言で、生徒たちが騒然とする。
予想していたオレは慌てず、ルール説明に耳を傾けた。
300Sポイントでの1週間。そしてスポットとリーダー当て。
この試験でオレが達成すべき目標は3つだ。
1つ、Dクラスを勝たせること。これは茶柱に脅されているので仕方がない。
2つ、なるべくオレの活躍が周知されないこと。まあこれについては、全部堀北の指示だったということにしてしまおうかと考えている。
3つ、堀北を追い込むこと。
この先、オレが身を潜めてDクラスの勝利に貢献していかなければならないのなら、優秀な隠れ蓑が要る。
すなわちDクラスの表のリーダー候補として、堀北を成長させねばならない。彼女はまだ、入学当初からの欠点を克服できずにいるからな。
様子を見るに、現在堀北は少し体調不良らしい。これを幸いと捉えるべきかどうか。
茶柱による説明が終わった後、平田が中心となって話を進めだす。
「リーダーのことは後で考えよう。まずはベースキャンプをどうするかだね」
男女でトイレ事情などについての論争が始まっているのを横目に、オレは茶柱に1つ確認を済ませ、櫛田を呼んだ。
「どうしたの、綾小路くん」
「櫛田、思いついた作戦があるんだが、これはオレじゃなく堀北の発案ということにしてくれ」
「うん、分かったよ。それで?」
「さっき船が島を1周した時、怪しい箇所がいくつかあった。恐らくそこがスポットだ。だから他のクラスが動き出す前に急ぎリーダーを決めてスポット占有に動き出す」
「でも、他クラスにバレたら-50ポイントだよ? 危険じゃない?」
「それが狙いだ。今茶柱に確認したが、リーダーがリタイアすれば別の生徒に変更できる。Dクラスは見下されているし、他クラスはDクラスが少しでも多くのポイントを求める事情を理解しているから、判明すれば疑わず指名してくれるだろう。直前にリーダーを変更して誤指名させる」
「おおっ! それすごいね!」
この特別試験での戦略は主に3つ考えられる。
①消費抑制、②スポット占有、③リーダー当て及び外させ、だ。
まとまりの無いこのDクラスに①は期待していない。なので②③でポイントを稼ぐ。
③については、リーダー変更という抜け道に気が付けば、当てるより外させる方が容易い。
もちろん他クラスの戦略次第で対応が必要だろうが、まずはこの戦略で行く。
「1週間で1つのスポットから得られるポイントは18。今が12時前だから急げば19だ。リタイアペナルティの-30は2つの占有で賄える。で、櫛田にはこれを皆に説明してオレをリーダーに、キーカード管理を堀北に指名してほしい」
「堀北さんの発案ということにして、だよね。でも本人はどうするの?」
「いや、今は櫛田の発案で構わない。だが明言はしないでくれ。試験が終わった後『本当は堀北の考えた作戦だったが、堀北はクラスメイトからの信頼が無いから櫛田の発案ということにしてほしいとお願いされた』とでも言えばいい」
「なるほど、了解だよっ!」
「あとスポット巡りのメンバーも数人選んでくれ。何も対策しないのは怪しまれるからカモフラージュにな」
「うん、オッケー!」
櫛田がクラスメイトの下に戻っていき、優れた弁術で見事オレの望む通りにしてくれた。
「平田、トランシーバーを購入してくれ」
「そうだね、分かったよ」
集まったスポット巡り組は、オレ、小野寺、三宅の3人。
身体能力が高い生徒は他にもいるが、平田と櫛田はクラスを纏めるために残らざるを得ないし、堀北は隠しているが体調不良だ。
須藤はオレの活躍を言いふらしそうなので除外。
「スポットがどこにあるのか分かるの?」
「船が島を1周した時、怪しい箇所は目星がついている。まずはそこを回ろう。その後は単純に探し回る。時間が無いから、行くぞ」
他のクラスはまだ固まっているが、もうすぐ探索のグループが動き出すだろう。
小野寺に答え、オレは走り出した。
そしてこの1度目の探索で、オレたちは11のスポットを発見し占有することに成功した。
「すごいよ、綾小路くん! もしこのままスポットを維持できたら、200ポイント近く増えることになる!」
オレの報告を聞いた平田が興奮し大きな声で絶賛した。
こうなることを予感して、ベースキャンプから少し離れたところに呼び出している。
ちなみにベースキャンプは、スポット巡り中に見つけたうちの1つをトランシーバーで共有した場所だ。
野菜がたくさん植えられている上に近くに水源となる泉があるので食費ポイントの節約となることに加え、周囲に他のスポットが多いので指定した。
開始時点のビーチからは結構離れているので、最初に広くスポット探しをしていなければここをベースキャンプにすることは難しいだろう。
「すごいのはオレじゃなく堀北だ」
「堀北さんが?」
「島を1周した時の光景から、スポットの可能性が高いところを複数ピックアップしていたんだ。オレはそれを回り、道中たまたま見つけたところをついでに押さえただけだからな」
「そうなんだ……それでも、君もすごいよ」
「平田が褒めてくれる分には嬉しいが、これを他のクラスメイトには広めないでくれ。あまり目立ったり頼られたりしたくないんだ」
「うん、分かったよ。確かにこんな大戦果を聞かせてしまったら、皆が緊張感を失ってしまって、抑えられる消費も抑えられなくなってしまうかもしれないしね」
「その点は任せた。それと……」
オレはちらりと視線を横に向ける。
そこには、Cクラスの伊吹澪がいた。頬を腫らしている。
「ああ、さっき山内くんたちに焚火の枝拾いを頼んだら、追い出された伊吹さんを連れ帰ってきたんだ。無人島で1人にするわけにもいかないでしょ?」
「そうだな、いいんじゃないか。どこで見つけたのか分かるか?」
「山内くんたちが行ったのは、向こうの方だよ」
「そうか、ありがとう」
伊吹をスパイだと仮定する。
目的はリーダーを見つけることしかないだろう。
キーカードや占有時の様子を盗み見て結果を報告するだけか? いや、それならオレたちに見つからずにいた方がいい。頬を腫らしてまでDクラスに入りこんできたからには、証拠を求めていると推測できる。
証拠───キーカードの盗取か、撮影か。
前者はペナルティに触れるためリスクが大きい。なので撮影を狙っている可能性が高いな。
そして証拠を必要とする事情を考察すれば、確認させるべき相手が龍園だけではないことまで予想がつく。恐らくAクラスの葛城だろう。
AクラスとCクラスで何らかの契約が結ばれたのかもな。
そんなことを考えながら、伊吹が見つかったという場所まで足を運ぶ。
「あった」
掘り起こされた跡のある地面。
掘り返してみると、中には懐中電灯とトランシーバーがあった。
スパイで確定だな。
だとすれば、精々堀北を追い詰める役に立ってもらおう。
「キーカードを手離させるには……」
どうすべきか思案しながら、オレは再びベースキャンプを離れ森の中へ足を踏み入れる。
見逃したスポット探しのついでに、他クラスの様子を見に行くのだ。
それになんと言うか、森の中は新鮮だし、走ってみればアスレチックみがあって少し楽しい。
そうしてトランシーバーを片手に島内を散策したオレは、Bクラスと出会った。