モテたい小路   作:エゴエロエゾロン

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24. ちょっとした布石

 4日目。

 

 残り日数が少なくなるにつれ、島の探索も進み、食料の計算も簡単になっていく。

 

 そして、もう食料にポイントを消費する必要は無いことが確定した。むしろ、初日にBクラスから20ポイント分譲ってもらった食料が、日持ちするものだということもあって余ってしまっている。

 

 もちろん、この朗報はクラスメイトには伝えない。余裕が生まれると贅沢に走る可能性があるからだ。

 

「この食料、どうしようか……」

 

 Dクラスをまとめる役目を担っている平田が、オレに相談してきた。

 

「Bクラスに返すんでいいんじゃないか?」

 

「でも、その分皆の苦労が増えてしまうよ」

 

「ここは苦労させた方が、団結力の強化に繋がると思うが」

 

「……確かにそうだね。こんな機会はなかなか無い。これを機に皆が仲良くなっていってほしい」

 

「じゃあ、オレが返してこよう」

 

「うん、頼んだよ綾小路くん」

 

 オレは2食分の食料を持ちあげる。

 

 貰った際はちょうど20ポイントに収めるため、食料と水のセットにしていた。しかし水の方はペットボトルを利用するため消費したので、残っているのは食料だけだ。

 

 量が多いという建前があるので、声をかけやすい。

 

「櫛田。手伝ってくれないか」

 

「うん? あ、分かったよ!」

 

 ちょうど1人、遅れてテントから出てきた櫛田に同行を申し入れる。

 

 だいたい2:1の割合で荷物を分け、オレと櫛田はベースキャンプを離れた。

 

「大丈夫か?」

 

 近くに他人の気配が無くなったところで、オレは櫛田を心配した。

 

「何が?」

 

「もう4日目。ずっと気を抜けていないんじゃないかと憂慮しているんだ」

 

「……うん。流石に疲れてきたよ。こう何日も続くと、休めないからね」

 

 キョロキョロを周囲を警戒した後、櫛田は可愛らしい笑顔を崩して、大きく溜め息を吐いた。

 

「よければ、今日は暫く2人で行動しないか」

 

「えー? 身の危険を感じるなあ」

 

 櫛田は身を(よじ)るようにして警戒のジェスチャーをする。

 

「今更何を言ってるんだ。もう何度もオレの部屋で2人きりになってるだろ」

 

「そこはほら、状況が違うし。綾小路くんもこの非日常で理性が緩んでるかもでしょ?」

 

「……まあ、本当に危機感を覚えているのなら、無理にとは言わないが」

 

「嘘嘘、冗談だって」

 

 オレが櫛田に配慮して足を早めると、追いついてきた櫛田がどんと体当たりしてきた。

 

「そうか、よかった」

 

「悲しそうにしないでよ。綾小路くんには、警戒よりも安心が勝ってるから」

 

 それを聞いてほっとした。櫛田の自尊心を満たすことと警戒心を抱かせることは紙一重だからな。

 

「ところで、女子はポイントの無駄使いとかしてないか?」

 

「ああ、してるね」

 

「やっぱりか。いくらだ?」

 

「今のところ10ポイントくらい」

 

 オレは櫛田からその内訳を聞く。

 

 残念ながらオレの欲しいものは買ってくれていなかったので、櫛田にあとで女子を唆し購入させるようにお願いしておいた。

 

 そんな話をしながら歩き、オレたちはBクラスのベースキャンプへ辿り着いた。

 

 近くにいた渡辺に声をかける。

 

「あれ、綾小路。どうした?」

 

「Dクラスは食料事情が解決したんだ。初日に譲ってもらった食料が余ったから、返しにきた」

 

「おお。じゃこっち来てくれ。集めた果物とかはこっちに置いてあるんだ」

 

 ベースキャンプの一角にシートが敷かれ、そこには比較的日持ちのする食べ物が積まれていた。

 

 そこへ移動するまでの間、オレはBクラスのベースキャンプ内を(くま)なく観察する。

 

「金田はどうしたんだ?」

 

「あいつなら今頃釣りに行ってるぜ。気まずいと思ってんのか、結構積極的に手伝ってくれてるみたいだ」

 

「なるほど、伊吹とは大違いだ」

 

「そっちは手伝ってないのか?」

 

「自分からは言い出さないな。それに気が強いと見れば分かるから、手伝わせようとする奴もいない」

 

「へー。心臓強いんだな」

 

 食料を置く。

 

 オレはBクラスのリュックがまとめられている場所を見た。そこには色の違うものが1つ混じっている。

 

「ま、そんなに警戒しなくても、そう簡単にリーダー当てられたりしないって」

 

「そうだな」

 

 それから、オレは雑談のふりして渡辺から金田の行動を聞き出した。

 

 櫛田もオレの求めている情報を察したらしく、上手いこと話しを誘導して手伝ってくれる。

 

「じゃーな!」

 

「ああ」

 

「またね、渡辺くん」

 

 渡辺との話を切り上げると、オレはついでに神崎と接触し、とある頼み事をしておく。

 

 そして、Bクラスのベースキャンプから離れた後、金田のいるという海岸の方へ足を運んだ。

 

「金田くんに何するつもりなの?」

 

「神崎との話を聞いていただろ。あいつのデジカメが欲しくてな」

 

「ああ、盗むつもりだから行動パターンとか聞き出してたんだ」

 

「その通りだが、あまり口に出すな」

 

「分かってる」

 

 海岸に着く。渡辺の情報通り、そこには数人のBクラス男子と金田が釣り糸を垂らしていた。

 

 オレは携帯している双眼鏡を使い、金田のポケットの膨らみを確認する。

 

「持ち歩いてはいないようだな」

 

「てことは、リュックの中かな?」

 

「ああ。持っていたら怪しまれるものだからな。伊吹と同じく隠しているんだろう」

 

 これでデジカメの在処が確定した。

 

「いつ盗むの?」

 

「夜中だな」

 

「て言うか最初に聞くべきことだけど、大丈夫なのかな? ペナルティ大きいよ?」

 

「証拠を押さえられなければ問題無い」

 

 リスクが高いことは承知しているが、現在Bクラスは下位におり向上心も無いので、警戒心が非常に低い。恐らく盗み出すことは容易だろう。

 

「オレは占有更新のために離れなくちゃいけないから、櫛田はその間、金田の動向を見張ってくれないか?」

 

「それ、私のため?」

 

「まあそうだな。櫛田が1人になれる時間を作れることも、目的の1つではある」

 

「そっか、わか───」

 

 その時、前触れ無く金田がこちらを振り向いた。

 

 オレは咄嗟に櫛田を抱き寄せ、その口を手で塞ぎ、草陰に身を潜める。

 

「どした?」

 

「いえ、なんでもありません」

 

 金田はすぐに視線を外した。別にオレたちに気付いたわけではなかったのだ。

 

 危ない危ない。オレはともかく、気を抜いていた櫛田は見つかる可能性があったな。

 

 櫛田を抱き寄せ口を塞いでいた両手を離す。しかし彼女は、また見つかることを危惧したのか、そのまま動かなかった。

 

「……あの、助かったよ」

 

「オレが頼んだことだからな」

 

 しかし、あれだな。

 

 抱き寄せた時に向かい合う格好だったから、胸が当たっている。というか押し潰されている。

 

 もう少し離れてくれないだろうか。

 

「…………興奮しないの?」

 

「してる」

 

 突然何を言っているんだこいつは。

 

「嘘」

 

「興奮することとそうなること(・・・・・・)は別だ」

 

 オレだって普通の男子高校生並みの性欲や生理現象はもっている。

 

 だが恐らく、オレはホワイトルームの教育のせいで理性が異常に強固なのだろう。

 

 つまりは『櫛田の胸が当たっている』という情報よりも、屋外・特別試験・隠密中といった情報の与える自己抑制が強く働き、興奮が押し殺されている。

 

 そういうことを櫛田に説明した。

 

「オレにそういうことを期待するなら、もっと安全な環境で試みてくれ」

 

 試みられたところで、応えるかは別だが。

 

「なんか自信失うなあ」

 

「オレから迫るのはダメなんだろ?」

 

「それはそうだけどね。なんか、定期的に口説いてもらった方が精神衛生上いいかも」

 

 櫛田もきっと、この非日常のせいでテンションが少しおかしくなっているのだろう。

 

 そうでなければ、こんなマネをする筈がない。

 

 オレは万が一にも他人に聞かれないように、櫛田の耳元に唇を寄せる。

 

「オレは櫛田が好きだぞ」

 

「ッ……」

 

「これでいいか?」

 

「べ、別に今言えなんて言ってないし……!」

 

 ドスドスと腹を軽く殴ってくる。

 

 赤面する櫛田を窘めていると、Bクラス男子と金田たちは十分な釣果を得たのか、立ち上がってベースキャンプへ戻り始めた。

 

 オレたちはその後ろを追跡する。盗取というハイリスクな行いをしようとしているのだから、下準備はいくら入念でも足りないほどだ。

 

 金田は白波たちに交じって、調達した魚の調理を始めたらしい。

 

 それを覗いていると、12時前の占有更新の時間がやってきてしまった。

 

「じゃあオレは戻るな」

 

「うん。どのくらい監視していればいいの?」

 

「金田が寝るまでだ。オレも交代に来るから安心しろ。それにBクラスに見つかったら、Cクラスを警戒していたと言えばいい」

 

「うん、分かったよ」

 

 櫛田にアドバイスを残して、オレはベースキャンプへ戻る。

 

 そして、スポット巡り組に平田を加え、22カ所のスポットを回った。

 

 オレがリタイアするのは、7日目4時の更新直後だ。つまり、7日目12時直前の更新作業は、次のリーダーに任せなくてはいけない。

 

 次のリーダーは三宅にするつもりだが、オレが抜けるとスポット巡り組がたった2人になってしまうので、最終日に不自然にならないよう、今のうちに平田を加入させた。

 

 そして櫛田と交代し、金田の監視を続行。

 

 20時前の更新作業も済ませ、点呼を済ませた後、金田がテントに入っていったのを確認する。

 

 4日目から5日目に変わる頃、オレは金田のリュックを漁り、誰にも見つからずデジカメを盗み出すことに成功した。

 

 そしてベースキャンプに戻った時、伊吹がこそこそと動いているのを発見する。何やらオレのリュックに細工したようだ。

 

 伊吹が離れるのを待ってから確認してみれば、それは女子の下着だった。

 

「マジか」

 

 残念ながら、オレにはこの下着が誰のものか分からないので、秘密裏に戻して事件を無かったことにはできない。

 

 犯人は伊吹で確定しているのだが、証拠は無い。それに女子たちは怒り狂って、男子への疑いをなかなか晴らさないだろう。

 

 それ以前に、今伊吹に疑いの目が向くのは避けたい。

 

「ふう……面倒なことを」

 

 オレは取り敢えず、女子の下着を山内のリュックに移しておいた。

 

 今日は金田のデジカメを盗みに行ったので、4時の占有更新までは起きておいて、その後昼までは寝させてもらうつもりだったのだが。

 

 8、20時の点呼は寝ぼけていても、そこにいて返事さえすればいい。

 

 しかし、そうすると怪しまれるだろうな。

 

 はぁ……。

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