モテたい小路   作:エゴエロエゾロン

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26. 試験終了

 6日目早朝。

 

 まだパラパラと雨が降っている。

 

「今日4時の周回はオレ1人でいい」

 

「ダメだ。危険すぎる」

 

「そうだよ。今日だからこそ複数人で行かないと」

 

 三宅と平田にそう言われてしまい、急いでスポット巡りを済ませる。

 

 出発する前、わざと伊吹のそばで大きな足音を立てて、起こしておいた。

 

 そして、オレはベースキャンプへ戻らずにAクラスのスポット付近へ向かい、いつも堀北が待機している地点に細工をする。

 

 その後Bクラスのベースキャンプへ向かい、帆波と合流した。

 

 これから大声作戦の決行だ。大声役は柴田が、観察役は帆波が担うらしい。

 

「やっ。いよいよだね」

 

「そんな大した作戦じゃないけどな」

 

「単純だけど効果的だと思うよ。でも雨降っちゃったね……」

 

「大声が弱まると見るか、隠密性が高まると見るか、微妙だな」

 

「そうだね、確かに」

 

 オレ、帆波、柴田の3人で、例のスポットへ向かう。

 

 ちらりと確認すれば、堀北もいつもの場所へ来ていた。

 

 帆波、柴田と別れ、オレは手鏡が利用できる地点へ移動する。かなり暗いが、占有デバイスのディスプレイが発している明かりだけで十分だ。

 

 やがてAクラスがやってくる───

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 6日目早朝の、Aクラスの占有更新タイミング。

 

 私は今日も、いつも通りの場所で身を潜めて待機していた。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 雨なのは最悪ね。どんどん体が冷えていく。

 

 これまでの6日間。この監視任務以外ではほとんどテント内で安静にしていたおかげで、風邪の病状は小康状態にある。

 

 でも、この雨のせいでだいぶ悪化しそうね……それでもあと2日。もたせてみせるわ。

 

 そうして待っていると、Aクラスのいつもの6人がやってきた。

 

 まだ誰かリーダーなのかは掴めていない。そんな簡単に判明するわけもないけれど。

 

 そうして、彼らがキーカードを機械にタッチするような動作をした瞬間───

 

 

「───わっ!!!!!」

 

 

 突然の大声。

 

「ッ!」

 

 悲鳴を上げることこそ防いだけれど、心底びっくりした私は思い切り体勢を崩してしまう。

 

「地面が……っ」

 

 本当なら尻餅で済んだところを、手を突いた地面がちょうど雨でぬかるんでいたらしく、滑った私は泥の中へ思い切り倒れ込んでしまった。

 

「最悪───」

 

 起き上がるのも億劫、と思ったところで、なんとか頭が回り出す。

 

 あの大声が誰の仕業か知らないけれど、きっと今Aクラスは動揺している筈。つまりリーダーを見つけるチャンスだと言うこと。

 

 慌てて体を起こし、スポットの方を見る。

 

 しかし、Aクラスは逃げ去って行くところだった。

 

「……くっ」

 

 全身泥だらけな上に、絶好のチャンスをも逃がしてしまった。

 

 私、何をしているのかしら……。

 

「堀北、大丈夫か?」

 

 私が失意に苛まれていると、綾小路くんがやってくる。

 

「あなた、リーダーが分かった?」

 

「いや見てない。オレはお前が心配で来ただけだ」

 

 近くにいたならと思ったけれど、そんな上手い話は無いみたいね。

 

 私は溜め息を吐いて、どさりと乱暴に木の根元へ腰を下ろす。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 ダメ……汚れて、失敗して。精神的に弱って体調も悪化しているみたい。

 

「運ぶぞ」

 

「えっ」

 

 私が呼吸を荒くしていると、背中と膝裏に腕が差し込まれ、そのまま持ち上げられてしまった。

 

「大丈夫か」

 

「だ、ダメよ。あなたが汚れてしまうわ」

 

「このくらい気にもならない。堀北の体の方が大切だ」

 

「……っ」

 

 これも、弱っているせいね。

 

 綾小路くんなんかに、心臓が高鳴るなんて。

 

 ……いえ、別に高鳴ってなんていないわ。ただ体調の悪化で鼓動が早まっているだけよ。

 

「…………」

 

 私は自分のおかしな思考が途端に恥ずかしくなったけれど、歩くのが辛いことは確かなので、綾小路くんに運ばれてあげることにした。

 

「シャワーを浴びろ。今なら誰も使ってない」

 

「そうね」

 

 ベースキャンプまで戻ってきて、綾小路くんに下ろされ、服を脱ぎシャワー室へ入る。

 

 そして───

 

「嘘……」

 

 髪や体に付着した泥を落としシャワー室を出て、体操服とジャージを着ようとした時、それだけで気を失いそうな重大な問題に気が付いた。

 

「キーカードが……」

 

 ジャージのズボンのポケットに入れていた筈のキーカードが無くなっていた。

 

 他のポケットや周囲の地面にも無い。

 

 私は慌てて綾小路くんの下へ向かった。

 

「綾小路くん……!」

 

「どうした?」

 

「その……私がいたところに、キーカードが落ちていなかった?」

 

「無かったぞ。転んだ拍子に落としていたらと思って、確認したからな……失くしたのか?」

 

「……ええ」

 

 落としたのでないとしたら、まさか盗まれた?

 

 ……伊吹さん?

 

「ねえ、伊吹さんがどこにいるか分かる?」

 

「さっきあっちへ行ったぞ」

 

「ありがとう」

 

 綾小路くんの指差した方へ走る。

 

 やがて、彼女の後ろ姿が見えてきた。

 

「伊吹さん」

 

「あ? 堀北だっけ。何か用?」

 

「追われる理由はあなたが一番よく分かっているんじゃないの?」

 

 僅かだが、伊吹さんが犯人ではない可能性もある。こちらから迂闊なことは言えない。

 

 伊吹さんは私に取り合わず、前へ進んでいく。私はその姿を見失わないように、続けて追いかける。

 

 彼女が立ち止まったのは、枝にハンカチの結びつけてある1本の木の下。

 

 体力がまずいわ……さっき慌てて走ってしまったのは明確に失策だったわね。

 

「伊吹さん、最後の警告よ。私から盗ったものを返さないなら、力ずくで調べさせてもらうことになるわ」

 

「はっ、だったら好きにしなよ」

 

 伊吹さんがリュックを地面に落とし、少し距離を取る様子を見せる。

 

 私がそれへ手を伸ばすと、

 

「ッ!」

 

「へぇ、やるじゃん」

 

 伊吹さんの放った蹴りを間一髪で回避する。

 

「暴力行為は即失格よ……」

 

「こんなところで誰が見てるって言うんだか」

 

 完全にやる気の伊吹さんが、鋭い蹴りを連続で放ってくる。

 

 まずい、体がだるい……自分の動きが驚くほどにゆっくりで話にならない。

 

「うぐっ!」

 

 強烈な1発をもらって、私は地面へ倒れ込んだ。

 

 立ち上がろうとしても、腕を蹴り払われる。

 

「悪いな。私も色々立て込んでるんだ」

 

 前髪を掴んで顔を持ち上げられ、頬へビンタを食らう。

 

 反射的に閉じてしまった瞼は、そのまま開かれなかった……。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 オレは手鏡越しに覗き、Aクラスのリーダーをほとんど確信した。

 

 戸塚弥彦だ。

 

 その後、堀北の下へ向かう。

 

 堀北が潜む場所は、オレの細工によって滑りやすくなっていた。そして目論見通り、彼女は泥だらけになって、シャワーを浴びることになる。

 

 ベースキャンプに戻ってきた時、堀北は気付かなかったようだが、起きている伊吹がそれを見ていた。

 

 伊吹は堀北がシャワーを浴びている隙にキーカードを盗み、早朝という生徒のいない時間帯をいいことに逃走。

 

 彼女がそうすると予想がついていたオレは、平田に声をかけた。

 

「平田」

 

「なんだい、綾小路くん」

 

「オレはリーダーすり替えのためにリタイアするつもりだが、そのシナリオとして『軽井沢の下着を盗んだ犯人でありスパイでもあった伊吹を追い、その先で龍園にやられて負傷』とするつもりだ」

 

「うん、なるほど。それで?」

 

「今伊吹が逃げようとしている。だがリーダー交代は7日目4時直後が望ましい。だから辻褄合わせのためにオレはこの時点でベースキャンプから姿を消し、他のクラスメイトからはリタイアしたように見せかけたい」

 

「それだと、今日の君の点呼不在で-10ポイントだよ? この時点でリーダーを交代してしまった方がいいんじゃ?」

 

「いや、オレ抜きで何度も占有を更新するのはリスクが高すぎる。平田には、点呼時にクラスメイトの視線を集めるなりして、オレが点呼する隙を作ってほしい。茶柱に直接説明すれば恐らく協力する。それと、今日残り2回と明日4時のスポット巡りを同じように手伝ってほしい」

 

「うん、分かったよ」

 

「スポット巡りの順番はいつも通りだ。ベースキャンプのスポットも隙を見て更新するから、クラスメイトを上手く誘導してくれ」

 

「難題だね。でも、了解」

 

「じゃあ、行ってくる」

 

 平田から離れると、ちょうど堀北がやってきたので伊吹の下へ行かせる。

 

 そして、堀北が敗北し気絶した。

 

 伊吹が地中に隠していた無線機を使って暫くすると、懐中電灯の光が近付いてくる。

 

 姿を見せたのは龍園だった。

 

「ご苦労だったな伊吹。だが無駄骨だったぜ」

 

「は?」

 

「証拠なんて求めてたのは葛城のためさ。だがあいつ、既にDクラスのリーダーには気付いていたらしい」

 

「誰だか言ってみなさいよ」

 

「綾小路清隆」

 

「……あってる。は? じゃああたしが頑張ったの全部無意味だったってこと!?」

 

「そうなるな。俺もまさか、Dクラスがここまで雑魚だったとは思わなかったぜ」

 

「ちっ、クソが!」

 

 伊吹が客船の停泊しているビーチの方へ足早に去っていく。もう彼女に用は無い。

 

 オレは龍園の後をつけ、彼が拠点にしている位置を把握する。

 

 そして倒れ伏す堀北をベースキャンプへ運び、そのまま森の中へ姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、平田と茶柱の協力で8時の点呼を済ませ、12時の更新も無事に終える。

 

 そしてオレは、雨の中、神崎と合流した。

 

「どうするか決めたか」

 

「やる。一之瀬たちは決定的な確信を得られなかったようだ」

 

 今朝の大声作戦。

 

 あんなチンケな作戦で、Aクラスのリーダーがはっきりと分かるわけもない。可能性はあったかもしれないが、成功率は高くなかった。

 

 そしてオレの考え通り、Bクラスは当てられていないようだ。

 

 だからオレは櫛田に手鏡を用意させたし、神崎に接触した。

 

「もう仕掛けは済ませてある」

 

「なら行ってこい」

 

「ああ」

 

 神崎が離れていく。

 

 作戦はこうだ。

 

 Aクラスのスポットデバイスの真上に、伊吹の持っていた壊れているデジカメを置き、ちょうどいいタイミングで落とさせる。

 

 すると、Aクラスの生徒たちは撮影されたことを懸念して当然それを拾う。その瞬間を、金田から盗んだデジカメで撮影。

 

 略奪で訴えると脅し、失格になりたくなければリーダーの情報を言えと迫るわけだ。

 

 もちろん、Aクラスからはただ拾っただけと反論される。だからシャッターを切るのは慎重にしなくてはいけない。例えば、データを確認するためデジカメを起動させようとした瞬間を狙うなど。

 

 また、Dクラスを目立たせたくないので、実行を神崎に依頼した。

 

 神崎が姿を晒すリスクの見返りとして、オレは現場から離れ、情報共有の主導権を完全に譲渡している。

 

 ちなみに、デジカメには貸し出し中とシールが貼られているが、それだけではCクラスのものと判断することはできない。もちろん、神崎にも盗んだ品であることは明かしていない。

 

 しかし、教員に購入履歴を確認すれば簡単に判明する。Aクラスは無駄なポイントを使っていないのでデジカメなど購入している筈もなく、怪しい写真を撮れれば疑いはかなり強くなる───と、脅されるAクラスは頭を回し、自分たちが不利だと判断せざるを得ないだろう。

 

 要するに、この作戦の肝は神崎の写真撮影の腕にかかっているが───

 

「綾小路」

 

「終わったか」

 

 神崎と再び合流する。少し機嫌がいいところを見るに、成功したようだ。

 

「それで、教えてくれるのか?」

 

「……そうだな。オレが実行する見返りは、情報共有の主導権という形で受け取った。だがまだ、この作戦を伝えBクラスにAクラスのリーダーを知る機会を与えてくれた見返りを、俺はお前に返していない」

 

「ということは?」

 

「Aクラスのリーダーは戸塚弥彦だ」

 

 その情報と一緒に、2つのデジカメを受け取る。

 

「そうか、ありがとう」

 

「いや、こちらこそだ」

 

 それだけの感謝を送り合って、オレと神崎は別れた。

 

 デジカメに関しては、落ちていたものを拾ったと言って素直に返却すればいい。オレが盗んだ証拠は無い。

 

 そうして、オレのすべきことは全て終えた。

 

 A、Cクラスのリーダーが判明。

 

 A、B、Cクラスには、オレがリーダーだと把握させた。

 

 そして堀北も無力を痛感し、今頃は不調と戦いながら失意に溺れているだろう。

 

 あとは、20時の点呼と残り2回のスポット巡りを済ませ、誰にも見られないようにリタイアするだけ───

 

 いや、1つやることが残っていたか。

 

 

 

「……寒いな」

 

 これだけ濡れていたら、リタイアの言い訳作りも簡単だな。

 

 20時のスポット巡りと点呼を終えた後、オレは龍園の姿を確認できる場所で、彼が眠りにつくのを待っていた。

 

 その時がやってきたのは21時頃。

 

 オレは寝ている龍園のそばへ『Aのリーダーは戸塚弥彦』と書いた紙を落とした。

 

 これで、AクラスはB、C、Dの3クラスからリーダーを指名され、ボーナスポイント剥奪の上に-150ポイント。

 

 さあ、本当に終わりだ。長い特別試験だった。

 

 4時まで起きておいて、リタイアしたらゆっくりと休もう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 7日目正午過ぎ。

 

 ビーチに集まった1年生たちの前に、拡声器を持った真嶋が立つ。

 

 オレはその様子を、部屋のモニターで見ていた。

 

『ではこれより、端的にではあるが特別試験の結果を発表したいと思う』

 

 誰か、オレの予想を超えてくる生徒はいるだろうか?

 

 そんな微かな期待は、すぐに裏切られた。

 

『最下位は、Cクラスの0ポイント。3位はAクラスの70ポイント。2位はBクラスの160ポイント。そして1位のDクラスは───』

 

 浜辺の生徒たちがざわつく。

 

 真嶋も目を疑ったのか、思わず口を止めた。

 

『Dクラスは、655ポイントで1位となった。以上で結果発表を終わる』

 

 圧勝だな。これによって、

 

 坂柳クラス :1074

 一之瀬クラス:821

 龍園クラス :490

 堀北クラス :738

 

 となり、オレたちはCクラスへ浮上する。

 

 そんな結果を確認して、オレは再び眠りについた。




 堀北と伊吹の戦闘は、原作では6日目半ばでしたが今作では6日目早朝となっています。なのに堀北が体力をそれ以下まで消耗しているのは、原作では無かったAクラスの監視という連日の仕事のせいです。

■ポイント内訳■
【Aクラス】
270-0(消費無し)=270
+50(C当て)
-50(D外し)
-150(BCDから当てられ)(ボーナスポイント無し)
-50(橋本の意図的なスポット誤使用)

計:70


【Bクラス】
300-110(通常消費)-42(取引)+12(食料返還での節約分)=160
+50(A当て)
-50(Cから当てられ)(ボーナスポイント無し)

計:160


【Cクラス】
300-300(全消費)=0
+100(AB当て)
-50(D外し)
-100(ADから当てられ)(ボーナスポイント無し)
計:-50(実際には0)


【Dクラス】
300-40(仮説トイレ、シャワー室)-15(女子の無断使用、手鏡)=245
(食料と飲み水の消費は無し)
-90(高円寺、綾小路、堀北のリタイア)
11×19+4×18+7×17=400(ボーナスポイント)
+100(AC当て)

計:655

 私の見落としがあったら教えてください。
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