無人島での特別試験が終わってから3日。
オレは豪華客船でのバカンスを満喫していた。
「綾小路くん、いった!」
「任せろ」
オレの方へ飛んできたボールの下へ移動し、オーバーハンドパスで空中へ跳ね返す。
それを井の頭が拾ってトスを上げ、3人目の櫛田が相手のコートへ返球した。
オレはクラスメイトとプールで水中バレーに興じていた。
女子のメンツは櫛田を中心にまとまっているグループ。対して、男子の方はオレと平田のみ。
相変わらずと言うか、Dクラス男子の女子人気は非常に低いらしい。
男子が2人なので、女子の方のメンバーは交代していく中、オレと平田は反対のコートで常に参加させられている。
「平田くーん!」
コートの外からは平田を目当てに集まった女子たちが歓声を上げており、その中には軽井沢もいた。
ほとんどの女子が可憐な水着姿で肌を晒している中、特に派手な恰好を好みそうな彼女だけは、何故か普段着のままだ。
そのことに少しの違和感を覚えながらもバレーに勤しんでいると、船内に放送が鳴った。
『生徒の皆さんにご連絡いたします。先ほど全ての生徒宛に学校から連絡事項を記載したメールを送信いたしました。各自携帯を確認し、その指示に従ってください。また、メールが届いていない場合には───』
プールにいるオレたちは、手元に携帯か無い。
「ここまでだね、何か大事なことみたいだし。着替えようか」
平田の一言で女子たちが解散していく。
男子更衣室に戻ると、やはり慌ててプールから上がってきた男子たちで混み合っていた。
オレたちは体を拭くよりも先に、メールを確認する。
『間もなく特別試験を開始いたします。各自指定された部屋に、指定された時間に集合してください。10分以上の遅刻をした生徒にはペナルティを科す場合があります。本日18時までに2階204号室に集合してください。所要時間は20分ほどですので、お手洗いなど済ませた上、携帯をマナーモードか電源をオフにしてお越し下さい』
告げられたのは、2回目の特別試験の実施。
「もう次の特別試験があるとは思わなかったよ」
「そうだな。まだ前回から3日しか経ってない」
「今後も、この頻度で特別試験が課されると思うかい?」
「それは無いんじゃないか? 単純に学業が疎かになるだろ。今回は2週間のバカンスという機会を利用しただけだと思うが」
「なるほど、確かにそうだね」
「ちょっと平田の文面を見せてくれるか?」
「うん、いいよ」
平田と文面を見せ合うと、一部内容が異なることが分かった。集合する部屋と、呼び出された時間帯だ。
「これは、どういうことなんだろう?」
「さあ……特別試験を違う時間帯で行うのか」
「それは、少し考えにくいんじゃないかな? 早い生徒が不利だよ」
「確かにそうかもな」
一度携帯を置いて、体を拭き着替えを済ます。
その間にも、平田の携帯にはピコンピコンと通知が来ていた。リーダーの下へ不安の声が集まっているのだろう。
「綾小路くん。僕たちはどうすべきだと思う?」
「さあ。後で堀北に相談してみる。でも取り敢えず、情報収集はしておくべきなんじゃないか?」
「そっか、そうだよね。クラスの皆の集合場所と時間を聞いてみるよ」
「頑張れ」
着替え終わって更衣室を出ると、平田は連絡に返信しながら一直線にどこかのカフェへ向かって行った。既にクラスメイトで集まる話が出ているのだろう。
オレには堀北から呼び出しがかかっていたので、彼女の宿泊している女子部屋へ。
のんびり歩いていると、平田からチャットが送られてきた。一番早い時間帯は16時で、みーちゃんもそこらしい。
オレはみーちゃん個人へ『集合先で、録音が可能か試してみてほしい』とチャットを送っておいた。
女子部屋へ着きドアをノックすると、中から堀北の返事が聞こえる。
「呼び出すなら他の場所があったろ」
「私は病み上がりだもの」
「まあ、人に見られないという点ではこれ以上無いけどな」
他3人のルームメイトはいなかった。
確か櫛田と、櫛田と仲の良い女子2人。その3人は平田の方の集まりに参加しているのだろう。
オレは部屋に備え付けられている椅子を掴んで、自分のベッドの縁に腰掛けている堀北の隣に座った。
「で、話って?」
「分かるでしょう? 特別試験のことよ」
「オレは今回、何もしないぞ」
「……どうして? 確かに最初から手を貸してくれとは言わないけれど、その言い方では失敗した時の挽回にすら関与しないと聞こえるわ」
「そう言っている。オレが挽回したら失敗にならないだろ。オレがいるから適当でいいというマインドのままでいられては困る」
「それは、理屈は分かるけれど……」
「オレはあくまで、お前の成長を促すために行動する。クラスを勝利に導くのはお前の役割だ。失敗や敗北をするなら手酷くやられてくれ」
「……厳しいことを言うのね」
やって来たばかりだが、オレは立ち上がった。
「なんにせよ、今はまだ情報が不足し過ぎている。話は一番集合時間の早いグループが終わってからだ」
「そうね」
オレにも、特別試験のルールが分からなければ確実に勝つことは不可能。
堀北は逸ってオレに連絡を寄越したようだが、無駄な時間だったな。
18時直前。
「ねえ、もう他の子から試験の内容聞いてるのに、行く意味あんの?」
オレは同じく18時204号室だと判明していた軽井沢と一緒に、その部屋へ向かっていた。
「学校の指示に従うという意味があるな」
「つまんない答え」
「ルールをしっかり把握できているなら、聞き流してもいいんじゃないか」
「そうだよね!」
「携帯を弄ったりはダメだぞ」
「流石に分かってるし」
オレと軽井沢は、それなりに交流がある。
交流の多さでは、松下たちの次点に位置するだろう。平田と一緒にいることが多いからな。
204号室に入り席に着く。幸村と外村はとっくに来ていた。
「ではこれより特別試験の説明を行う」
真嶋が話し始める。
4クラス合同の12グループに分かれ、優待者を探して話し合いをする特別試験。
実施は明日から4日間。3日目はインターバル。
初日8時に優待者かそうでないかのメールが届く。
話し合いは『13時~14時』『20時~21時』の1日2回、計6回行われる。
結果は4つ。
最終日21:30~22:00に設けられた正規の解答時間における結果は、『全員正解』か『1人でも不正解』か。
常時解答を受け付けている方の結果は『裏切り者の正解』か『裏切り者の不正解』か。
クラスポイントの変動に関わるのは裏切り者による結果のみ。
理想的に事を運べれば、自クラスは+600、他3クラスは-150。その上クラスに600万プライベートポイントが入ってくる。
つまり、他クラスと750クラスポイントもの差をつけるポテンシャルを持つ特別試験。規模では無人島に遠く及ばないが、影響力はこちらの方が大きい。
もしも堀北クラスがそんな大勝利を得られれば、一気にAクラスへと浮上する。
「それからグループ内の優待者は学校側が公平性を期し、厳正に調整している。優待者に選ばれた、もしくは選ばれなかったに拘わらず変更の要望などは一切受け付けない。また、学校から送られてくるメールのコピー、削除、転送、改変などの行為は一切禁止とする。この点をしっかりと認識しておくように」
言った。
みーちゃんからの報告にもあった『厳正に調整』という文言。
なんらかの基準・尺度・法則の臭いを感じ取って仲の良い数人に確認させたが、どのグループの説明でも変わらずに言及された。
(優待者の選定にはルールがある)
しかし、この気付きを誰かに伝えることはしない。
むしろ他のクラスに教えてやってもいいくらいだ。
今回はまだ、堀北の意識改革を促す時。まだ未熟なあいつが調子に乗らないよう、勝ってほしくはない。
この特別試験、オレは何もしない。
兎グループの優待者が他クラスの生徒だったら、裏切ってとっとと特別試験を終わらせる。
自クラスの誰かだったら、解答時間にリークして全員正解の結果1へ導く。
何故って、50万プライベートポイントが欲しいからである。
(できれば他クラスの生徒であってくれ)
その方が簡単だ。
結果1を目指すには、誰も解答しないうちにリークを済ませなければいけない。メンバー全員の連絡先は知らないので、誰かに協力を頼む必要がある。
しかし現実は無情なもの。
堀北クラスの優待者は、竜グループの櫛田桔梗、馬グループの南節也、そしてオレたち兎グループの軽井沢恵だった。