モテたい小路   作:エゴエロエゾロン

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29. マッチポンプ

 特別試験1日目。

 

 8時に優待者の知らせがメールで届いた後、軽井沢から連絡があった。『優待者になってしまったから相談したい』と。

 

 すぐに人気(ひとけ)の少ない2階の通路で合流する。

 

「どうしたらいいと思う?」

 

「もう平田には相談したんだろ?」

 

「うん。あからさまな会話の拒絶もダメだけど、積極的な発言も控えた方がいいって」

 

「いいんじゃないか? オレに何を相談したいんだ?」

 

 まだ堀北クラスには、優待者だった時にどうしろと言うような指示は下っていない。

 

 つまり今のところは当人次第。クラスへの貢献を考えるなら裏切らせる方策を練り、プライベートポイントが欲しいなら結果1を狙う。

 

「あたし、結果1がいいの。プライベートポイント欲しいからさ」

 

「奇遇だな、オレもだ。同クラスの別生徒が優待者の場合だと、結果1でしかプライベートポイントが入ってこないからな」

 

 オレは少し驚いた。

 

 軽井沢から連絡が来た時はがっかりしたが、優待者本人も結果1を狙ってくれるなら不幸中の幸いだ。

 

「なら協力してよ」

 

「もちろん構わないが、何か作戦はあるのか?」

 

「作戦って? 解答時間になったら自分が優待者だってバラせばいいんじゃないの?」

 

 6回目の議論終了後は、一定時間他クラスの生徒同士での話し合いが禁止されているが、メールや手紙なら恐らくこのルールに抵触しない。

 

 また正規の解答時間である最終日21:30~22:00は誤答してもペナルティが無い。その時間になった瞬間にグループメンバー全員へ『優待者は軽井沢恵』だとメールを送れば、取り敢えずの気持ちでその通りに解答してくれる可能性は高い。

 

「グループメンバーの連絡先は分かるのか?」

 

「友達に聞けば誰かは知ってるでしょ」

 

「そうか。オレが分かるのはBクラスの3人とC、いやDクラスの山下だけだ」

 

「じゃあDクラスの連絡先は任せたから。あたしはAクラスの3人の連絡先を聞く」

 

「後は、終わるまで優待者だとバレないようにするだけだな」

 

「それが一番の問題よね。なんかないの?」

 

「思いつかないな。そもそも簡単に方法が思いつくなら試験として成立しないんじゃないか?」

 

「……まあ、確かに?」

 

「取り敢えず、なるべく軽井沢に話題が向かないようにはしてみる」

 

「うん、お願いね」

 

 そんな風に、肝心な部分が何も決まらないまま、軽井沢との密会は終わった。

 

 その後すぐ山下に連絡を取り、藪と真鍋の連絡先を取得。しかし伊吹は龍園クラス内でも孤立しているようで、連絡先を持っていなかった。

 

 オレはどうやって伊吹の連絡先を知ろうかと悩みながら、1回目の話し合いに臨むことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 初日13時。軽井沢と合流し2人で兎グループの議論部屋へ入る。

 

「あ、やっほー清隆くん」

 

「ああ。よろしく帆波」

 

 手を振って帆波と挨拶を交わし、椅子の1つに座る。軽井沢は迷うこともなくオレのすぐ隣に腰を下ろした。

 

 その距離の近さが気になったが、接触しているわけでもないため口にはしない。

 

 段々と生徒が集まっていき、最後に幸村と外村がやってくると、程なくして船内スピーカーから試験開始のアナウンスが流れた。

 

『ではこれより1回目のグループディスカッションを開始します』

 

 グループメンバーの誰も口を開かない中、帆波が立ち上がる。

 

 彼女の進行で、教師からの指示通り自己紹介を行った。

 

「皆に聞きたいことがあるから質問させてもらうね。私としては皆が優待者ではない、という前提で聞かせてもらいたいことなんだけど、この試験を全員でクリアする、つまり結果1を追い求めるのが最善の策だと思ってるかどうか聞かせて欲しいの」

 

「なにそれ。そんなの当たり前のことじゃないわけ?」

 

 帆波の質問に、軽井沢がすぐさまそう返答する。

 

 そのやり取りで、オレは帆波と軽井沢への評価を少し上方修正した。

 

 言うまでもなく、優待者にとっての最善は誰かが裏切り間違えること、すなわち結果4だ。つまり帆波の質問は何気ないものを装いながらも、優待者に対して嘘を強いる、なかなか優れたものだった。

 

 しかしそれに対する軽井沢の態度は、オレから見ても嘘を感じさせない自然体。

 

 これが演技なのか、本心から結果1を求めているが故なのかは不明だが、どちらにせよこの場面では優秀な答え方だ。

 

「そうだな。プライベートポイントが欲しいからオレも結果1が望ましい」

 

 本当は、どのクラスも自分のクラスのクラスポイントが増加する結果3か4が一番好ましいに決まっている。

 

 しかし、グループの雰囲気を結果1志向へと誘導できれば優待者を探す警戒の目が多少なりとも緩まるので、オレもここは同調しておいた。

 

 その後、坂柳クラスはクラスの方針で沈黙を宣言。

 

 そして、面白いことが起こった。

 

「ねえ軽井沢さんだっけ。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

 

 議論が停滞しそうな雰囲気になった時、真鍋が軽井沢に絡みだしたのだ。

 

 軽井沢が以前、真鍋の友人である諸藤を突き飛ばしたとかなんとか。

 

「リカに確認してもらうけどいい? いいよね、軽井沢さんじゃないなら問題ないでしょ」

 

 真鍋が軽井沢を写真に撮ろうとすると、軽井沢はその携帯を反射的に弾き飛ばしてしまう。

 

「なにすんのよ!」

 

「それはこっちのセリフ。勝手にあたしを撮らないで。別人だって言ってるでしょ」

 

 悪いのは完全に真鍋なのだが、そんな理屈で感情が収まるものではない。

 

 真鍋はさらにボルテージを高めていく。

 

 それに反比例するように、軽井沢の強気な態度が鳴りを潜めていった。

 

「とにかく撮らせてもらうから」

 

「嫌だってば! ねえ……この子に何か言ってあげてよ」

 

 軽井沢はAクラスの町田という男子の隣へ逃げた。

 

 一瞬オレの方を見たが、坂柳クラスの町田と親しくなる機会と捉えたのか、ただオレが頼りないと判断したのかは分からない。

 

 町田という影響力の強い男子に守られることで、軽井沢は真鍋たちを撃退した。

 

 そこまではいい。しかし14時になり最低限の議論時間が終わって軽井沢が退出しようとした時、足が痺れていたせいでなんと真鍋の足を踏んづけてしまったのだ。

 

「痛っ!?」

 

「あーびっくりした。ごめんごめん、じゃ」

 

「な、何あいつ!」

 

 軽井沢は、どういうつもりなんだろうか。

 

 携帯を叩き落したこと、町田に助けを求めたこと、足を踏んでしまったことまでは、どれも真鍋の神経を逆撫でしていたが、まだいい。

 

 しかしあの謝罪の態度は明らかにおかしい。真鍋からの敵意が増すことなど彼女ならすぐ分かりそうなものだが。

 

(まあ、むしろ好都合か)

 

 真鍋の軽井沢への敵愾心は非常に大きい。

 

 これは利用できるかもしれない。

 

 適切な場を用意してやれば、その不満は瞬く間に膨張し、容易く理性を振り切るだろう。

 

 そのためには、燃料を注ぎ感情を燃やし続けてもらわなければ。

 

「ん? 連絡……愛里か」

 

 匿名のアカウントを使い第三者として真鍋らと接触するには、1時間は待たなくてはいけない。

 

 どう過ごそうかと考えていると、携帯に愛里から連絡が入っていることに気付いた。

 

『ちょっと会いたいんだけど、いいかな?』

 

『構わない。どこで落ち合う?』

 

『じゃあ、人の少なそうな船首のデッキで待ってるね』

 

『すぐに行く』

 

 チャットにそう打ち込んだ通り真っ直ぐ待ち合わせ場所へ向かうと、既に佐倉は待っていた。隣には愛里と同グループの千秋もいる。

 

「千秋もいたのか」

 

「うん。愛里が勇気出すための付き添いにね」

 

 彼女の言う通り、愛里は何やら精神集中して勇気を振り絞っているようだった。

 

 頼んでおいた話し合いの録音を千秋から受け取りたかったのだが、今余計なことをするのは愛里の邪魔になってしまうだろう。

 

 じっと待つこと数分。

 

「……あ、あのっ! 清隆くん!」

 

「なんだ?」

 

「今度っ、わ、私とデートしてくれないかな!?」

 

 その言葉を聞いて、オレは素直に驚いた。

 

 こんなことを真っ向から伝えられるほど、愛里の精神が成長していたことにだ。

 

 もちろん断ったりはしない。

 

「分かった。高育に戻ってからってことでいいのか?」

 

「う、うん……船の中じゃ、狭くて他の人に見つかっちゃいそうだし……」

 

「そうだな。オレも楽しみにしてる」

 

「あ……うんっ!」

 

 ふぅっ、と愛里が大きく息を吐く。凄まじく緊張していたことは見て分かった。

 

「座って休むといい」

 

「あ、うん。ごめんね」

 

「何も謝ることは無い。むしろ感心しているんだ。デートに誘うなんて、緊張しただろう」

 

「えへへ……」

 

 愛里をベンチに座らせてオレもその隣に腰を下ろすと、千秋も愛里の隣へやってきた。

 

「よく頑張ったね愛里!」

 

「そ、そうかな……千秋ちゃんのおかげだよ」

 

「愛里がすごいの!」

 

 千秋が愛里を抱きしめてその頭を撫で回す。

 

 この2人は無人島で名前呼びに変わってから、本当に仲良くなったな。グループが違うのでこの場にはいないが、みーちゃんもこの仲間だ。

 

「あ、清隆。頼まれた録音はもう送っておいたから」

 

「ああ、ありがとう」

 

「でも、録音で誰が優待者か分かるの?」

 

「それは優待者が誰なのかと会話内容次第だな。まあ候補は絞れるだろう」

 

 既に堀北クラスの優待者とそのグループの名簿から、法則の仮説は立っている。欲しいのは他クラスの優待者情報。1つでも確定すれば、仮説の信憑性が大きく増す。

 

「じゃあオレは他のグループの録音も受け取ってくるから」

 

「うん、ばいばい」

 

「またね、清隆くん」

 

 愛里と千秋を残して船内へ戻る。

 

 優待者を確定させたからといって、クラスを勝利に導くつもりは無い。

 

 他のクラスにリークして堀北を敗北させてもらうのに使うか、あるいはただのゲーム感覚だ。

 

 それから他の友人の下を回って、録音を回収していく。

 

 そのうちに1時間以上が過ぎたので、オレは匿名のアカウントから真鍋に連絡を取った。

 

『あの、ちょっといいかな』

 

『誰?』

 

『同じ相手を憎む同志、ってところかな』

 

 今、真鍋はオレの目が届くところに1人でいる。当然、彼女が1人でいるタイミングを狙って連絡を取った。

 

『何言ってるの?』

 

『真鍋さん、あなた軽井沢さんが憎いんでしょ。私もそうなの。あいつと同じクラスの私なら、あなたに協力できることがあるかもって』

 

『そんなの、どこで聞いたの』

 

『Cクラスは話し合いを録音してたの。私はそれを聞いただけ』

 

 この言い訳のために、議論の終了から約1時間をおいて接触した。議論が1時間あったので、録音を聞くにも1時間必要だ。

 

『私なら、軽井沢さんの行動や1人になるタイミングを共有できる。でも私はクラスで立場が弱いから、表立ってやり返すことはできないの。だからあなたに協力したい』

 

 それからオレは真鍋とメールのやり取りを繰り返して、軽井沢への憎悪を燃え上がらせると同時に、復讐なんて行為ができるのは狭いこの船の中だけだと悟らせていく。

 

『分かった。あなたに協力してあげる』

 

『ありがとう』

 

 これまでの観察と、今日のディスカッションでの様子から推測できること。

 

 軽井沢は、1人だと強気ではいられない。

 

 平田に守られ、女子のグループに守られ、この試験では町田に守られている。

 

 弱気な性格が素だと仮定したら? 1回目の議論終了時に真鍋の足を踏んでしまったことに対する謝罪の態度にも納得がいく。

 

 つまり、下手(したて)に出ることを避けたのだ。自分が上位の立場であろうとしているのだと考えれば、上手く繋がる。

 

 となれば、軽井沢1人に対して数人で強気に迫れば、彼女は途端に脆弱な本性を晒す。

 

(その時、オレが救い出す)

 

 その心を完全に掌握するには、最低3度の危機が必要だ。

 

 できれば、何か知っていそうな平田に軽井沢のことを聞いておきたいな。




 今作の綾小路は、軽井沢を手駒にしようとは考えていません。
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