モテたい小路   作:エゴエロエゾロン

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3. Bクラスフレンズ

 櫛田が集めたのは、DクラスとBクラスの男女だった。

 

 Dクラスからは、櫛田、オレの2人。

 

 Bクラスからは、一之瀬帆波、網倉麻子、柴田颯の3人。

 

 あれだ、雰囲気的に、オレだけ場違いだな。他の4人が圧倒的にコミュ強すぎる。

 

「よろしくな、綾小路!」

 

「ああ」

 

 柴田と握手。

 

「じゃー行こうぜ! 何するのか分かんねえけど」

 

「ボウリングしようって話だったよね、桔梗ちゃん」

 

「そうなの! 昨日見つけたから、誰かと行きたいなって思って! 綾小路くんはボウリング上手?」

 

「いや、やったことないな。ルールとかもよく分からない」

 

「中学校で友達とやったりしなかった?」

 

「中学で友人はいなかった。カラオケも昨日が初めてだったんだ」

 

 櫛田は、自分から会話に介入できないオレへ、上手いこと発言の機会を寄越してくれる。

 

「俺のボリテクを見て学びな!」

 

「柴田は上手いのか?」

 

「そらもう! 地元ではプロボウラー間違いなしと───」

 

 昨日ネットで会話の仕方とか会話を途切れさせない方法とかを検索してみたところ、相手に興味関心をもって臨むのがいいらしい。

 

 つまり受け手になるだけでなく、こちらからも質問し返すなどして話題提供しろってことだろう。

 

 会話はキャッチボールと言うしな。

 

 しかし、柴田とオレは5人の端と端なので、会話のために声を出さなきゃいけないのが少々面倒臭い。

 

「ボウリングで大丈夫だった?」

 

 オレが未経験だと聞いて、心配そうに尋ねてきたのは一之瀬だ。

 

「大丈夫だ。やったことないからこそ、むしろ楽しみにしている」

 

「綾小路くんって、あんまり表情変わらないからね」

 

 櫛田の言葉は、暗に、その無表情が一之瀬を心配させたと忠告してくれているのだろう。

 

「笑顔作ってみて?」

 

「……どうだ?」

 

 オレとしてはかなり口角を持ち上げているのだが。

 

「変わってなくない?」

 

「んー、分かんないかな」

 

 まあ、網倉と一之瀬は初対面だから仕方ない。櫛田は分かってくれるだろう。

 

「……うーん」

 

 櫛田にも分からないらしい。そんなにオレの表情筋は死んでいるのか。

 

 指で頬を持ち上げてみる。

 

「あははっ、それじゃ笑顔じゃなくて変顔だよ!」

 

「何? そんなつもりはなかったんだが……」

 

「笑顔って結構練習で変わるからね。特訓しよう!」

 

 という建前で、オレは散々変顔をさせられてしまった。

 

 まあ、実際に頬辺りがほぐれたような気もするので、多少の効果はあったのだろう。そう思いたい。

 

 

 

 

 

 

 ケヤキモールは既に賑わっていた。

 

 部活動説明会に参加しなかった先輩らは、一足先に放課後へ突入していたからだ。

 

「……ねえ帆波ちゃん、あそこ」

 

 網倉がひそひそと一之瀬へ声をかける。

 

 彼女の視線の先には、何やら言い争っている上級生の男子たちがいた。

 

 それなりに離れているが、声が聞こえてくる。かなりヒートアップしている様子だ。

 

 と、見ていれば、ついに暴力が振るわれた。

 

「わわっ、ちょっと行ってくるね!」

 

「えっ、帆波ちゃん!?」

 

「一之瀬!?」

 

 一之瀬は躊躇う様子もなく、見知らぬ男子たちを仲裁しに向かってしまった。

 

「うわーっ、気付かせなければよかった!」

 

 流石に、仲裁に行くとまでは予想できなかったろう。まだ入学2日目だ。

 

「一応オレも行ってくる」

 

「あっ、俺も!」

 

 櫛田と網倉を残し、柴田と並んで一之瀬を追いかける。

 

 上級生男子は、それ以上の喧嘩に発展する様子はない。しかし互いへの敵意は確かに増していて、いつ理性が吹き飛ぶかは予想できなかった。

 

「落ち着いてください、何かあったんですか?」

 

 一之瀬が話しかけた。

 

「ああ? ちっ、なんだお前、関係ねーだろ」

 

「見て見ぬふりはできませんよ」

 

 男子たちは、見るからに焦った。判断力が低下している。

 

 オレは足を早めた。

 

「一旦何があったのかを───」

 

「もういいって! どっかいけよ!」

 

 男子の片方が、反射的に、拒絶を突き飛ばすという暴力で表現しようとする。

 

 オレは一之瀬の背後から手を伸ばし、それを遮っていた。

 

「うっ……!」

 

「おい馬鹿!」

 

「ちっ!」

 

 一之瀬を突き飛ばそうとした上級生男子は、すぐさま後悔し、争論の怒りを忘れてしまったようだ。

 

 強気に舌打ちしながら、男子二人は別方向へ去っていく。

 

 解決はしていないが、解消はされたらしい。

 

「ふう、びっくりした。ありがとう、綾小路くん」

 

「いや、そもそも暴力を警戒してたからな。防げたのはたまたまだ」

 

「綾小路、お前足速いな!」

 

「ん? そうだったか?」

 

「そうだぜ! これでも俺、足速い方だと思ってたんだけどな」

 

「いや、あれだ。50m走とか100m走はそこまで速くないぞ? 今回はほら、その、一之瀬を助けるためだったから」

 

 我ながら苦しい言い訳。

 

 一之瀬を救うことに間に合わせることばかり意識して、足の速さという問題に気付かなかった。

 

 なかなか難しいな。

 

 オレが内心で自嘲していると、柴田と一之瀬が何故か黙っていた。

 

「どうした、2人とも?」

 

「あ、いや……お前ってそうだったのか……」

 

「ん? 何を言ってるんだ」

 

「いや! なんでもない! ほら早く戻ろうぜ」

 

「あ、ああ」

 

「そ、そだね! ボウリング行こ!」

 

 2人の挙動不審の理由がよく分からないまま、オレは櫛田と網倉の下に戻ってきた。

 

「綾小路くん、カッコよかったね!」

 

「たまたまだ、たまたま。男子なら皆ああする」

 

 櫛田や網倉に揶揄われながら、オレたちはボウリング場へ入った。

 

 初めての場所なのでキョロキョロと辺りを見回していると「上京してきたおのぼりさんみたい」と網倉に笑われてしまった。

 

 上京とおのぼりさんでは意味が重複しているぞと言いかけたが、これがマジレスというやつかと寸前で気付けてよかった。

 

「簡単にボウリングのルール説明しておくね」

 

「頼む」

 

 レンタルのシューズを履きながら、櫛田に教えを受ける。

 

「綾小路初めてなら、最後の方がいいよな?」

 

「そうだな。自称プロボウラーの手本を見せてくれ」

 

「自称じゃねえっつの」

 

 順番は、一之瀬、柴田、櫛田、網倉、オレとなった。

 

 オレは一之瀬や柴田の投球を見てフォームの参考にしながら、引き続き櫛田にボールや投げ方の基本を教えてもらう。

 

「ボールはね、ちょっとだけ重く感じるくらいがいいんだって。投げる時は、助走をこの点々を目安にして───」

 

 なるほど、想像通り簡単そうだな。

 

 1回は普通に投げてみよう。そこから回転や勢いの微調整をしていけば、3回目くらいにはスペアかストライクが取れるのではないだろうか。

 

「はい、綾小路くんの番だよ」

 

「ああ」

 

「がんばってー!」

 

「綾小路くんならいけるよ!」

 

「思い切り投げれば何とかなる!」

 

 櫛田、一之瀬、柴田からの応援を背に受けて、オレは人生初のボウリングボールを投げた。

 

 最初は適当に、真ん中へ真っ直ぐ投げる。ガーターになったらその後の軌道が分からなくなってしまうからな。

 

 ボールは左右の端のピンだけ残し、8本を倒した。

 

 これでは、今のオレにはスペアできない。

 

「あちゃー!」

 

「初めてで8本ならすごいよ!」

 

「ありがとう。初めてだからもう少し曲がるかと思っていた」

 

 2投目はカーブをかけてみた。

 

 もちろん加減など分からないので、半ばで盛大にガーターしてしまう。

 

「これで8点か」

 

 次は一之瀬の番だ。

 

「頑張れ」

 

 ベンチへ戻る時、すれ違い様にそう声をかける。

 

「うん! 初心者の綾小路くんには負けられないよ!」

 

 その宣言通り、一之瀬はスペアを取って得点を大きく稼いでいた。

 

 

 

 

 

 

 夕方。遊び終えたオレたちは寮へ向かっていた。

 

「綾小路くん、最後はすごく上手になってたね!」

 

「ああ、コツを掴んだみたいだ。櫛田のおかげだな」

 

「私なんて、なんにもしてないよ。誰でも教えられるようなことだったから」

 

「くっそー! また今度リベンジするからな、綾小路!」

 

「いつでも誘ってくれ」

 

 3ゲームやって、オレは5位、4位、2位だった。

 

 ラストゲームで柴田は3位だったので、オレが勝ったことになる。

 

 なお、櫛田は1位、2位、1位と、謙遜していたがやはり上手だったみたいだ。

 

「リベンジって言うなら私だよ……次は絶対負かすから!」

 

 一之瀬はあまり上手くなく、4位、5位、4位と残念な結果だった。

 

 次誘う時のために、とオレはBクラスの3人と連絡先を交換する。

 

「そう言えば綾小路くん、部活は決めたの?」

 

「なんだ綾小路、部活決めてないのか? ならサッカー部来いよ! お前足速いし!」

 

「一之瀬はどこか部活に入らないのか?」

 

「私? 私は入るつもり無いかな。あんまり運動が得意なわけじゃないしさ」

 

 一之瀬は入らないのか。無所属の生徒が多いなら、部活に入ることで放課後の貴重な機会を逃すことになってしまいそうだ。

 

 交友関係という点でみれば、サッカー部に加入することはメリットが大きいが、モテるためと考えると、少し悩んでしまう。

 

「綾小路くん、何に迷ってるの?」

 

「入るならサッカー部だと思っている。でも、部活動紹介を見た限り、少し厳しそうなんだよな。オレはサッカーが好きで入るというわけではないから……櫛田はどうするんだ?」

 

「私は入らないよ。放課後は友達と過ごす方がいいから」

 

「入らない人は結構いそうなのか?」

 

「私の友達の半分弱は入らないみたいだね」

 

「……じゃあオレもやめておこうかな」

 

「えー! なんでだよ!」

 

「いや、正直に言うと部活動の目的は友達作りなんだ。でもサッカー部は、なんというか本気具合が強そうだし、少し後ろめたくてな」

 

「別に気にしなくていいと思うぜ? 友達に誘われて入るってやつもいっぱいいるだろうしさ」

 

「そう言われると、そうかもしれないな。でも、サッカー自体を楽しめないと、部活動の時間が苦痛になってしまうかもしれないと思うと……やっぱりやめとくことにする」

 

「そうか……まあ4月いっぱいまで受け付けてるみたいだし、気が変わったら来いよな!」

 

「もちろんだ。その時はよろしく頼む」

 

 結局オレは、部活動に所属しないことを選択した。

 

 そうして、この日オレはBクラスの3人と友人になり、寮のエレベーターで解散したのだった。

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