モテたい小路   作:エゴエロエゾロン

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4. ひより、後、失恋

 この数日、オレは交友関係を着実に広げていた。

 

 誘いは結構頻繁にくる。

 

 櫛田はオレの意向を知っているから積極的に誘ってくれるし、平田もオレが全く断らないので誘いやすいのだろう。

 

 一之瀬や柴田も、他クラスとは思えないくらいには声をかけてくれている。

 

 そんな中、今日は誘いがかからなかったので、図書室へ足を運んでいた。

 

 モテる方策の一環として、オレは今、趣味作りに励んでいる。グルメ、料理、音楽、映画、読書、ファッションなど……

 

 しかしどれもこれも、どこから手をつければいいのか、ネットだけではよく分からない。なので、図書室には機会を見つけて訪れるつもりだった。

 

 今日の目的は料理本だ。節約という点で生活の利便性に直結するので、他よりも優先度を高く設定した。

 

「こんにちは」

 

 本棚を物色していると、小さく声をかけられた。

 

 隣にいたのは他クラスの女子だ。確かCクラスだったと思うが、名前は分からない。

 

「ああ、こんにちは」

 

「本がお好きなのですか?」

 

「少し読むな。でも今日の目当ては料理本だ」

 

「でしたらこちらなど如何でしょう?」

 

 彼女は一冊を抜き取ってオレに手渡してきた。ペラペラと捲ってみると、レシピを紹介するものではなく、器具の扱い方など基本的なことから記されている書籍だった。

 

 しかし、どこでオレが素人だと気付いたのだろう。

 

 まあいいか。初心者のオレにはありがたい。

 

「料理に詳しいのか?」

 

「いえ、本に詳しいんです」

 

「そうか、どれにすればいいのか迷っていたから助かる。名前は?」

 

「私ですか? 1年Cクラスの椎名ひよりです」

 

「綾小路清隆だ。本が好きなのか?」

 

「はい。ミステリを特に好んで読みます」

 

「奇遇だな。オレもミステリは結構好きなんだ」

 

「そうなんですかっ」

 

 椎名は突然テンションを上げた。心なしか目が輝いている気がする。

 

「特にクリスティの作品はだいたい読んだ。ポアロシリーズやミスマープルシリーズとか。有名どころの『そして誰もいなくなった』なんかもしっかりおさえている」

 

「では、ドロシー・L・セイヤーズのシリーズはもう読まれましたか?」

 

「いや、ドロシーにはまだ手をつけていない」

 

「であれば───そうですね、是非『誰の死体?』をオススメします。ピーター卿シリーズの1作目で、1度読めばシリーズを読みたくなること必至です」

 

 そういうと椎名は一旦離れ、その『誰の死体?』を持って戻ってきた。

 

「どうぞ」

 

「ありがとう。折角だから借りてみることにする」

 

 オレは差し出されたそれを素直に受け取った。

 

 趣味も、結局は女子にモテるために始めようとしていることだ。

 

 いつ成果のあがるか分からない料理よりも、今は読書を優先すべき。

 

「綾小路くん、連絡先を交換しませんか? Cクラスには小説を読む方があまりいなさそうで、少し寂しかったんです」

 

「喜んで」

 

「私は昼休みと放課後はだいたい図書室にいるので、いつでも遊びに来てくださいね」

 

「分かった。これを読み終わったらまた来るつもりだ」

 

「お待ちしています」

 

 オレは図書室を出た。

 

 趣味が合うというのはすごいな。初対面の女子と連絡先を交換できてしまった。

 

 これはかなり本気で取り組んだ方がよさそうだ。

 

 このまま帰るつもりだったが、意欲が湧いて来た。ケヤキモールで映画でも見ていこうか。

 

 

 

 

 

 

 そう思って足を運んだオレは、衝撃的な光景を目撃した。

 

 平田と軽井沢が、腕を組んで歩いていたのだ。

 

「もう付き合ったのか、早いな……」

 

 オレは背後からその様子を撮影する。

 

 そしてみーちゃんに連絡した。

 

『今、時間大丈夫か?』

 

 オレとみーちゃんの協力関係はそれなりに良好だ。

 

 オレは把握した平田の動向を逐一彼女へ知らせているし、平田に誘われた時は必ずみーちゃんへ声をかけている。

 

 みーちゃんの方からも、彼女が平田に誘われた時、助っ人として呼んでもらったことが何度かある。

 

 しかし、みーちゃんの努力も無駄に終わったらしい。

 

 残念という気持ちは湧かない。むしろ好都合だと考えてしまっている。こんな本音は誰にも気付かれないようにしなくては。

 

 返信を待つ間、2人を尾行してその様子を観察した。

 

 べったりだな。片時も離れることがない。それに平田も軽井沢も楽しそうにしているのが見て取れる。

 

 普通に交際していると見てもよさそうだな。

 

 オレには、2人の互いへ向ける感情が友愛なのか恋慕なのか判断がつかない。なので行動を基準に考えるしかないのだ。

 

 そうやって判断を下した時、ちょうどみーちゃんから返信がきた。

 

『大丈夫です。部屋で勉強していただけなので』

 

『少し話したいことがある。どこかで会えないか? なるべく人目のない場所が好ましいんだが』

 

『寮の裏手はどうですか?』

 

『じゃあ10分後くらいにそこへ来てくれ』

 

 このことを知らせたら、みーちゃんはきっとショックを受けるだろう。

 

 傍から見ていて、彼女の想いはそれだけ強いことが察せられる。

 

 だからこそ、メールで済ませてしまうのではなく、知らせる時はそばにいたい。

 

 彼女を慮ってのことではない。その方が、オレとの精神的距離が縮まる公算が高いからだ。

 

 さて、少し急ぐか。

 

 先に他の友人からみーちゃんへ情報がいってしまえば、この行動が無駄になってしまうからな。

 

 

 

 

 

 

 オレが寮の裏に着くと、既にみーちゃんはそこにいた。部屋にいた彼女の方が早いのは当然だ。

 

 暗い様子はない。まだ知らないのだろう。間に合った。

 

「あ、綾小路くん」

 

「悪いな、来てもらって」

 

「いえ。話ってなんですか?」

 

「もしかしたらみーちゃんはショックを受けるかもしれない」

 

 オレは携帯に、先刻撮った写真を表示させた。

 

「さっきこんなものを見たんだ」

 

「───え……」

 

 みーちゃんは写真を見た途端、瞼を見開き固まってしまった。

 

「こ、これ……」

 

「平田と軽井沢は交際しているみたいだ」

 

「何かの、間違いってことは……?」

 

「いや、残念ながら本当のことだろう。2人とも楽しそうにしていた。それに恐らく、公の場でこんなにくっついているということは、関係を周囲に知らしめるのが目的なんじゃないか?」

 

 軽井沢が、平田を狙う女子たちへ牽制しているのだ。

 

「なる、ほど……」

 

「……すまない。協力するとか言っておいて、まるで役に立てなかったみたいだ」

 

「い、いえっ! その、少なくとも、平田くんと遊ぶ機会が増えたのは綾小路くんのおかげ、です……から」

 

 オレをフォローしようとして、ここ数日の思い出を反芻してしまったのだろうか。

 

 みーちゃんはポロポロと涙を零し始めた。

 

「うっ、うう……ごめ、なさい……」

 

「気にするな」

 

 オレは泣いているところを他の生徒に見られないようにするため、みーちゃんの手を引いて壁際へ寄り、そのすぐ隣に寄り掛かった。

 

 こういう時、平田だったら抱きしめてあげたりするのだろうか?

 

 接触は効果が大きい反面リスクも高い。

 

 これで、みーちゃんの好きな相手がオレだという可能性があればそうしたかもしれないが、彼女には好きな相手がいることが確定しているのだ。

 

 残念ながらオレには、この場での最も有効な行動の正解が分からない。

 

「うう、ううう……っ」

 

 みーちゃんがしゃがみ込んでしまった。

 

 なので、オレもその隣の地面に尻を下ろす。付き添うという意思は、みーちゃんに伝わっているだろうか?

 

 

 

 

 

 

 みーちゃんが泣き止んだのは、10分ほど経った後だった。

 

「ごめんなさい、付き合わせてしまって……」

 

 彼女は赤くなった目元を隠すように俯きながら礼を言った。

 

「いや、むしろ邪魔と思われていなければよかったんだが。どうすればいいか分からなくてな」

 

「邪魔だなんて、そんなことないです! きっと1人だったら、もっと辛かったですから」

 

「そうか、よかった」

 

 そう言うと、会話が止まってしまった。

 

 オレは気まずい雰囲気が発生する前にと、全力で脳を働かせる。

 

 今みーちゃんが求めているものはなんだ? 直前の会話から察するに彼女は寂しさを感じていたのだろう。とすれば解散はない。

 

 オレにもそれなりに気を許してくれているようだ。ならばどこかへ誘うのがいいんじゃなかろうか。

 

「気晴らしに、どこかへ遊びにいかないか?」

 

「いいですよ。どこに行きますか?」

 

 頭を回せ。

 

 彼女に今必要なものは? 平田を一時的に忘れることだ。

 

 静かよりも騒がしい場所。頭を使うよりも体を動かす場所。落ち着くよりも忙しい場所。

 

「みーちゃんはゲーセンに行ったことがあるか?」

 

「えっと、何回か」

 

「オレは無いんだ。一緒に行ってくれないか?」

 

「はい、分かりました!」

 

 みーちゃんは笑顔で了承してくれた。

 

 きっと彼女も、傷心の自分が行くべきところとして適切だと認めたのだろう。

 

「あっ、ちょっと待っててください。その、準備してきますから」

 

「ああ。急がなくていいぞ」

 

 泣き腫らした顔では人前に出られないだろう。

 

 オレは寮のロビーでみーちゃんを待ち、数分後に合流。

 

 その日は2人で、心ゆくまでゲーセンを遊びつくした。

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