モテたい小路   作:エゴエロエゾロン

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7. 中間直前のことでした

 翌日。

 

 昼休み開始直後、オレは堀北と話している。

 

「それで、オレは何をすればいいんだ?」

 

「そうね……当然、もう一度須藤くんたちを説得して勉強会に参加してもらう必要がある。そのためには、あなたが地に額を(こす)りつけてお願いするしかないわね」

 

「いやそれは自分でやれよ。お前が昨日の勉強会を崩壊させたんだから」

 

「原因は彼らが真面目に勉強に取り組まないことよ」

 

「その台詞と今の状況を振り返ってみろ」

 

「……はぁ。私にも、ほんの少しだけ至らなかった部分はあるかもしれないわね」

 

 昨日のことで、堀北は自分の性格に問題があることを自覚している。

 

 つい、これまでのような態度や言動を取ってしまうが、考える時間をやれば1人で反省できるようになった。

 

「櫛田さん。話したいことがあるの。良かったらお昼付き合って貰えないかしら」

 

 堀北は必要性を認め、嫌っていた櫛田をお昼に誘った。

 

 カフェ『パレット』へ行き、もう一度勉強会をしたいと伝え、櫛田に須藤ら3人を呼び出してもらう。

 

 新しい勉強法を考えてきた堀北が須藤たちに説得を試みるが、須藤は勉強の必要性を感じ取りつつもプライドが邪魔をし頷けない。

 

 彼にあと1つ必要なものは、参加する建前だ。

 

 勉強が必要だということ、堀北に教わることが、須藤のプライドを刺激してしまっている。

 

 まったく別の観点から理由を与えてやらなくてはならない。

 

「櫛田。もし、オレが50点取ったら、デートしてくれっ」

 

「はぇっ!?」

 

 しゅばっと手を差し出してそう言うと、まず池と山内が釣れた。

 

「は!? おま、何言ってんだよ綾小路! 俺とデートしてくれ! 51点取るし!」

「いやいや俺だ! 俺とデートを! 52点取って見せるから!」

 

「じゃ、じゃあこうしない? テストで一番点数の良かった人と、その、デートするってことでいいなら……私、嫌いなことにも頑張って努力できる人は、好きだな」

 

 櫛田に自分から『高得点取った人とデートしてあげる』なんて言わせるわけにはいかないからな。

 

 オレが先頭を切るしかなかった。

 

「なあ須藤。お前はどうする? これはチャンスかも知れないぞ」

 

「……デートか。悪くねえ。ったく、仕方ねえな……俺も参加してやる」

 

 須藤もこのきっかけを逃がさない。

 

 オレの意図を理解していた櫛田がほっと胸を撫でおろし、堀北は男子の単純さに嘆息した。

 

 

 

 

 

 

 勉強会が回り出す。

 

 授業中、三馬鹿は分からないなりに頭を捻り、堀北は解説が上手くまとまったのか満足げな顔をしていた。

 

 昼休み。45分あるうちの後半20分を勉強に使うことになっているので、須藤たちは一目散に食堂へ駆けて行く。

 

「堀北、昼飯どうする?」

 

「そうね───」

 

「綾小路くーん。お昼、一緒に食べよ? 今日は予定空けてきたんだ」

 

「それじゃ。私は予定があるから、これで失礼するわ」

 

 櫛田が来た途端、堀北はさっさと立ち去ってしまう。プライベートで付き合うつもりはないということだろう。

 

「あ、ごめんね綾小路くん。もしかして友達作りの邪魔しちゃった?」

 

「別に、そんなことはない。どうせ図書室で集合するんだから一緒に食おうかと思っていただけだ」

 

 櫛田に誘われ、カフェへ足を運ぶ。

 

 奥の席では、高円寺が3年女子のハーレムを作っていた。櫛田曰く、高円寺の名前と会社と継ぐ立場だということを言いふらしているらしい。

 

「嫌な世の中だな」

 

「女の子は現実主義者だから。夢だけじゃ食べていけないんだよ」

 

「櫛田もか?」

 

「私は、ちょっとくらいは夢見たいかな。白馬の王子様みたいな」

 

「白馬の王子様ねぇ」

 

「───綾小路くんがなってみる?」

 

 櫛田はオレの耳に口元を寄せて、そう囁いてきた。昨日オレが櫛田に好きだと言ったことを揶揄っているのだろう。

 

「櫛田のピンチには駆けつけよう」

 

「あ、やっぱり、ピンチになる前に守ってほしいかも」

 

「それじゃあ一生、王子様にはなれないな」

 

 オレたちはなるべく高円寺から離れた場所で、2人がけの席を確保した。

 

「高円寺くんじゃないけど、綾小路くんも実はちょっと女子から注目されてるんだよ?」

 

 オレは櫛田から、女子による男子の格付けランキングの存在を教えてもらった。

 

 オレはイケメンランキングで5位に入っているらしい。

 

「オレは容姿のいい方なのか?」

 

 自分の容姿が一般的にどんな評価を受けるものなのか、オレにはよく分かっていない。

 

「うん。私から見ても結構イケメンだと思うよ」

 

 初めからそうと分かっていれば───いや、分かっていたとしても、女子へグイグイと迫るような振舞いはできなかったな。普通にリスクが高い。

 

「男子も女子をランキング付けしてるぞ。可愛い子ランキングとか巨乳ランキングとか」

 

「サイテー」

 

「おめでとう。櫛田はDクラス可愛い子ランキングでぶっちぎりの1位だ」

 

 ちなみに巨乳ランキングでは3位。1位は長谷部で2位は佐倉だ。まあ絶対に言わないが。

 

 というか、櫛田が1位でなかったら、男子の付けたランキングのことは話題に出していない。

 

「……綾小路くんは誰に投票したの?」

 

「もちろん櫛田に」

 

「ふーん……」

 

「面白いことに、堀北はあまり高くないんだ。実際の容姿水準では櫛田と並んでもおかしくないんだけどな」

 

「堀北さんは可愛い子って感じじゃないんじゃないかな」

 

「そうだな。あいつは綺麗とか美人って形容する方が適切か」

 

「……ねぇ、綾小路くんって、最近よく堀北さんと一緒に行動してるよね?」

 

 櫛田の声音が少し真面目になる。

 

「そうだな。Aクラス行きのため、堀北に協力することになった。今は3馬鹿トリオの勉強会だ」

 

「これは仮にの話だけど、私と堀北さん、どっちかの味方につくとしたら、綾小路くんはどっちを選ぶのかな? 私を選んでくれる?」

 

「もちろん櫛田を選ぶ」

 

 どちらの味方になるか、というよりも、この問いの本質はどちらを切り捨てるか。

 

 櫛田か堀北のどちらかが退学にならなければいけなくなった時、オレはどちらを選ぶのか。

 

 こんなこと、考える意味はない。そうなったら、弱みを握られているオレは櫛田につくしか選択肢が無いのだ。

 

 そんな状況にならないようにする。事前に阻止する覚悟をもって、昨日のオレは櫛田の信用を得た。

 

「だが、そんな状況にはさせない」

 

 櫛田か堀北の2択に絞られてしまった時点でオレの敗北。

 

 いや、そもそも前提として、櫛田に支配される立場であるオレにとって、櫛田の危機は自分の危機だ。

 

「櫛田のことは、オレが確実に守る」

 

「───そ、そっか……」

 

 櫛田は顔を赤くしてそっぽを向いた。

 

 ……意識していなかったが、確かに今の言葉は少々気取っているように聞こえたかもしれない。

 

 だが、本心だ。訂正する必要は無いだろう。

 

「あ、あれだね。白馬の王子様じゃなくて、騎士って感じ」

 

「言えてるな」

 

「そっ、そもそも、綾小路くんは私に逆らえないもんね」

 

「そうだぞ。櫛田のピンチはオレのピンチだ。昨日も言ったろ、オレは櫛田の味方だと」

 

「ごめんね。分かってはいるんだけど、やっぱり不安で」

 

「理解している。信頼には時間と実績が必要だ」

 

 櫛田が求めているのは、誰も自分の本性を知らない平穏。

 

 それは、オレの言葉1つで簡単に覆ってしまうもの。

 

 だからこそ、不安は簡単には消えないし、信頼もなかなか積み上がらない。

 

 しかしこの難関を突破して櫛田の信頼を勝ち取れれば、オレは櫛田にとって唯一無二の存在になるだろう。

 

 

 

 

 

 

 櫛田と共に図書室へ向かい、20分の勉強会が始まる。

 

 しかしすぐにCクラスの山脇に絡まれ、須藤と一触即発の事態に。

 

 その喧嘩は、たまたま図書室にいた一之瀬が仲裁してくれたのだが……

 

「ねえ……さっきテスト範囲外って……言ってた、よね?」

 

 山脇はそんな言葉を漏らしていた。

 

 オレはすぐに席を立ち、近くでBクラスの面々と勉強していた一之瀬に声をかける。

 

「一之瀬、Bクラスではテスト範囲の変更とか通達されたか?」

 

「え、うん。先週の金曜日に星之宮先生が言ってたよ? ……Dクラスは知らされてないの?」

 

「ああ。ありがとう、邪魔したな」

 

 その後オレたちは職員室に押しかけて茶柱と問いただしたが、彼女は少しも悪びれる様子を見せなかった。

 

 それだけじゃない。付近にいた他の教員も、茶柱を責めるような様子を見せない。

 

 すなわちこれは既定路線。学校側にとっては想定外ではないということ。

 

「櫛田さん。新しいテスト範囲のことを、Dクラスの皆に知らせてくれないかしら」

 

「うんっ、任せて! 責任もって伝えておくね」

 

 職員室を出ると、驚くべきことに、堀北が自ら進んで櫛田へ協力を頼みこむ。

 

「私は明日以降に備えて、新しいテスト範囲から更に絞り込みをするわ」

 

「堀北。お前には苦労かけるけどよ、頼むわ。俺……明日から1週間、部活休む。それでなんとかなるか?」

 

 須藤がCクラスと茶柱への不満を燃料に勉強へのやる気を見せ、堀北に頭を下げた。

 

 茶柱……いや、学校の齎した窮地は、Dクラス生徒の成長に一定の効果を見せたようだ。

 

 

 

 

 

 

 翌日の昼休み。

 

「綾小路くん、お昼空いてる?」

 

 声をかけてくれたのは松下だ。

 

「どこでだ?」

 

「カフェで、軽井沢さんたちとだよ。今日は平田くんもいるから」

 

「分かった。少し櫛田に話があるから、ついてきてくれるか」

 

「うん、いいけど」

 

 オレは立ち上がり、松下を連れて櫛田の下へ行く。

 

「綾小路くん、頼みって何かな?」

 

「ちょっと他人に聞かれないところに行こう」

 

 オレは昨日のうちに、櫛田の今日の昼休みを予約していた。

 

 3人で教室から離れる。

 

「櫛田。上級生から中間テストの過去問を貰ってきてほしい」

 

「過去問? 山を張るのには役立つかもしれないけど……」

 

「ほぼ確実に、かなり有効だ。4月にあった小テストの異様に難しい数問。茶柱の、退学者を出さないことを妙に確信している口ぶり。そして昨日の通達忘れ。単純に勉強する以外の突破法が用意されていることは確定していると見ていい」

 

 松下をこの会話に連れてきたのは、オレの有能さを見せるいい機会だからだ。

 

 自分で言ってて少し恥ずかしいけどな。

 

「交渉ごとはオレより櫛田の方がいいだろ。男子生徒ならイチコロだ」

 

「えっと、イチコロかは分かんないけど、でも分かったよ。任せて!」

 

「それと、過去問が有効だと確認できても、すぐに広めるのはやめてくれ。須藤たちの勉強意欲を損なわせることになる」

 

「うん、おっけーだよ」

 

 食堂で無料の定食を利用している先輩を狙え、とまでは言わなかった。

 

 そこまで過保護にやり方を指定してしまうと、櫛田の能力を信用していないと捉えられかねない。

 

 実際、櫛田はそのくらいのことは自分で気付ける有能な生徒だ。

 

「要したポイントはオレも負担するつもりだが、先に渡しておいた方がいいか?」

 

「ううん、大丈夫! 行ってくるね!」

 

 櫛田がオレたちに手を振りながら、食堂へ向かって行く。

 

「女の子に働かせて、自分は他の女の子と食事……」

 

 松下が冷たい声でぼそりと呟いた。

 

「おい待て。対男子の交渉事なら櫛田が強いことは分かるだろ?」

 

「いや、分かるよ? けど……」

 

「他にも理由はある。櫛田が堀北と仲良くなろうと努力していることは松下も知ってるだろ? これはその一環で、櫛田の有能さをアピールして付き合うに足る相手だと認めさせよう作戦なんだ」

 

 オレは必死に言い訳をした。

 

 いや言い訳ではなく事実なのだが、傍から見れば言い訳以外の何ものでもないことくらいは自覚している。

 

「アピール……もしかして、4月の最初の頃に櫛田さんが節約しようって皆に声をかけてたのも?」

 

「よく分かったな。そう、それも同じ作戦だ」

 

「へえ。随分櫛田さんと仲良くなったんだね。友達いっぱいできた?」

 

「ああ、おかげ様でな。DクラスとBクラスのほとんどは話せるようになった。AとCは半分いかないくらいってところだ。別学年は全然いない」

 

「よかったね」

 

「一番仲の良い友人は、松下だぞ」

 

「え……そうなの?」

 

 女子の中では、だけどな。

 

 男子も含めれば平田が間違いなく1位だ。何せ同性は気安い。

 

 そして女子の中でも、櫛田、みーちゃんと同率といったところか。次点で一之瀬、椎名と続く。

 

 他にもいるってだけで、松下も1番なことに変わりはない。

 

「ああ。松下はよく遊びに誘ってくれるからな。オレの方はかなり友情を感じてるんだが」

 

「その、私も、一番仲良い男子は綾小路くんだよ」

 

「……ありがとう。そう言ってもらえるととても嬉しい」

 

 ああ、以前一之瀬に友達だと言われた時と同じ感情を覚えている。

 

 オレは、友達だとか、仲が良いとか言われると喜ぶようだ。

 

 じゃあ、好きだと告白されたら?

 

 感情の大きさ的に考えて、より嬉しいのか。

 

 それとも、今感じている歓喜は『友達作りに精を出した結果』であって、まだ惚れさせることに力を入れていない現状では、嬉しさは小さいのか。

 

 とても、とても興味がある。

 

 だが軽々しく試せない。

 

 告白されたら、付き合うかフるか、どっちかの結果が出てしまうからだ。

 

 どちらにしても、異性との友人関係に悪影響を生じさせうる。だから、告白を受けることは避けようと初めから決めていた。

 

 告白されたい。告白されたくない。アンビバレントだ。

 

 なんて悩ましいのだろうか。

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