10人目のサイボーグ   作:れぷとん

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第0話 ブラックゴーストの新プロジェクト

 ブラックゴーストの地下研究施設の白い壁に囲まれた会議室で、数人の科学者たちが議論を続けていた。大型スクリーンには一人の少年の姿が映っていた。009。完成型加速サイボーグ。ブラックゴーストが生み出した最高傑作であった。 「009は完成している」  主任研究員が言った。 「加速能力、身体能力、適応性。戦闘兵器としては理想的だ」 「これを素体として、発展型を検討する」  別の研究員が資料を表示した。009シリーズ発展計画。コードネーム。009-Xプロジェクト。 「009を量産するのではない」 「009を基礎として、それぞれ異なる特化能力を持つ支援型を作る」  画面に設計図が並べられた。電子戦、情報解析、長距離索敵、指揮統制、医療支援、心理分析。様々な案が検討されていた。 「問題は肉体です」  若い研究員が言った。 「既存の身体を改造する方式では限界があります」 「ならば?」 「脳だけ残し、身体は人工人体に置き換える」  会議室が静まり返った。 「脳以外をすべて人工化?」 「そうです」 「容貌も?」 「自由に設計できます」  その言葉に、一部の研究員が興味深そうな表情を浮かべた。主任研究員は腕を組む。 「倫理的問題は?」  会議室に笑いが起きた。ブラックゴーストに倫理を語る者はいなかった。

 

こうして始まった009-1から009-10までの計画であったが現実は厳しかった。

 

009-1 加速装置の負荷に脳が耐えられなかった。発狂。死亡。

009-2 神経伝達速度の上昇に人格が崩壊。安楽死。

009-3 身体変化を受け入れられず自傷行為を繰り返した。安楽死。

009-4 人工人体との神経同期失敗。死亡。

009-5 精神崩壊。

009-6 完全なサイボーグ化には成功したが鏡を見るたびに絶叫した。元の自分と違う。

    最終的に自我が崩壊した。安楽死。

 

 研究室の空気は重かった。 「また失敗か」 「やはり人格の維持は不可能だ」 「人間は自分の身体を失うことに耐えられない」  そんな中、一人の研究員だけが妙に楽しそうだった。009-7担当研究員、天才だった。そして変人だった。 「いや、問題は設計思想だ」  彼は巨大スクリーンを起動した。現れたのは少女だった。銀色の長い髪、透き通るような白い肌、均整の取れた身体、赤い瞳、どこか神秘的な雰囲気。 「なんだこれは」 「009-7だ」 「女性型?」 「そうだ」 「なぜだ?」 「美しいからだ」  会議室が静まり返った。 「私は考えた」  彼は熱っぽく語り始めた。 「人間はなぜ美しいものに心を惹かれるのか」 「芸術とは何か」 「理想とは何か」 「神話の天使とは何か」 「美少女とは何か」  周囲の研究員が頭を抱えた。また始まった。 「私はAIを使った。世界中の絵画、彫刻、文学、神話、哲学、映画、数十億枚の顔写真。人類が美しいと感じたあらゆる情報を解析した。」  スクリーンの少女が回転表示された。 「これは単なる女性型ではない」 「人類が美しいと感じる概念そのものを形にした人工人体だ」  誰かが呟いた。 「お前の趣味だろ」 「否定しない」 否定しないんかい、と同席者は思った。

 

 だが能力は本物だった。電子戦能力、ネットワーク侵入、衛星制御、通信傍受、情報分析、そして、加速装置。009の技術を応用した戦闘能力。理論上、極めて強力だった。「問題は脳だな」  主任研究員が言う。 「知性が必要だ」 「電子戦能力は操縦者の知能に依存する」 「凡人では扱えない」  ブラックゴースト内の候補者のリストが並ぶ。しかし決定打がない。その数週間後。国際線旅客機墜落事故が発生した。多数の死傷者が出て現場は混乱していた。ブラックゴーストの工作員たちが密かに活動した。瀕死の重傷者、身元不明者、社会的に消えても不自然ではない者、こうした人間は時折回収されてきた。そして事故の重傷者に一人の男が発見された。五十代後半、著名なサイバネティクス研究者、榊 恒一。 「生存確率は?」 「ほぼゼロです」 「脳は?」 「損傷軽微」  研究員たちが顔を見合わせた。 「知能は?」 「一流」 「適任だな」

 

 手術は成功した。脳以外のほぼすべてを人工化し人工人体への移植。神経接続、加速装置、電子戦システム、すべてが統合された。そして目覚めの日。観察室で研究員たちが息を呑む。シリンダーの中で銀髪の少女がゆっくりと目を開けた。009-7の誕生の瞬間だった。 「……ここは?」  落ち着いた声。パニックなし、錯乱なし、絶叫なし。研究員たちは顔を見合わせた。 「鏡を見せろ」と要求された。危険だ。過去の失敗例が脳裏をよぎった。それでも鏡を渡した。009-7は自分の顔を見てしばらく無言であった。研究員たちは緊張した。そして。 「なるほど」  それだけだった。 「驚かないのか?」 「驚いている」 「ではなぜ冷静なんだ」  009-7は少し考えた。 「ふざけるな!と言いたい。しかし飛行機事故の記憶がある。私は死んでいたはずだ。ならば今ここにいるだけで儲けものだろう」 部屋は静まり返った。

 

 その夜、担当研究員は報告書を書いていた。手が震えた。興奮していた。成功だ。ついに成功した。容貌、性別、年齢、身体。何もかも変わった。それでも人格は安定している。知能も高い。電子戦適性も極めて優秀。加速装置も問題なし。報告書の最後に彼は記した。 009-7は過去の全実験体とは異なり、極めて高い適応能力を示している。本計画初の完全成功例である、と。

 

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