10人目のサイボーグ   作:れぷとん

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第9話 009-7女子力ゼロだった

 予想していた通り、日常生活に問題が生じた。009-7と003は、普通に買い物へ行けなくなっていた。「服すら買えないわ」 003がため息をついた。009-7はそれ以前の問題だった。「……そもそも服の選び方がわからん」 003は固まった。 「え?」 「機能性が重要」 「え?」 「ポケットがあって耐久性があればいいだろ」 「あなた本当に女の子なの!?」 「中身は57歳男性研究者だぞ!」 003は頭を抱えた。さらに判明した事実。009-7の下着がブラックゴースト時代のままだった。 「全部これなの!?」 003が絶句した。軍用品だった。「だって履き心地必要十分だし」 「だめ!!」 その日、003は決意した。 「今日はあなたを改造するわ」 「サイボーグ的な意味でなく?」 「女子的な意味で!」

 

 早速、ショッピングモールに行った。護衛は002、004、009。完全にSP付き芸能人だった。009は周囲の視線に疲れていた。 「変装した方がよくない?」 002が笑った。 「お前、隠れられる顔か?」 一方、003は009-7を下着売り場へ連行していた。 「まずサイズ測るわよ」 「待て」 「逃げない」 「これは戦闘より難しい!」 店員が微笑む。 「こちらへどうぞー」 009-7は本気で助けを求める目を004へ向けた。 「助けろ」 「無理だ」 「冷たい!」 その後も地獄だった。 「この色かわいいわ」 「必要か?」 「必要よ!」 「布面積が少ない!」 「そういうものなの!」 003は全力で“普通の女の子”を教え込んでいく。 009-7は終始顔を真っ赤にしていた。 「なんで私はこんな羞恥プレイを……」 002は笑い転げた。 「魔女が下着で負けてる」

 

 問題が起きた。彼女たちはあまりに目立ちすぎた。誰かが撮影していたのだ。動画サイトへ投稿された。 【銀の魔女、実は女子力ゼロだった件】 再生数が一日で二千万を超えた。コメント欄が爆発した。 【かわいい】 【ギャップやばい】 【世界救う魔女が下着でテンパってる】 【003がお姉ちゃんすぎる】 【004がずっと保護者面】 【ポケットの数で服選ぶなwww】 【実用品下着で草】 【むしろ好感度上がった】 009-7は研究所で崩れ落ちていた。 「……終わった」 009は爆笑していた。 「人気すごいな!」 「嫌だあああ!!」 003は優しく微笑む。 「でも嫌われてないわよ?」 実際、逆だった。人々は安心したのだ。 《銀の魔女》は恐ろしい超存在ではなく、服選びに困る不器用な女性だった。しかも妙に庶民的。SNSでは急速に親近感が広がっていた。 【守りたい】 【生活能力低そう】 【研究者感ある】 【かわいすぎる】 【魔女なのに女子力低い解釈一致】 009-7は頭を抱えた。 「なんで世界規模戦争の最中に私の下着事情が拡散されるんだ……」 002が肩を震わせた。 「歴史ってそんなもんだろ」 「絶対違う!」

 

 翌日、ネットに恐ろしい投稿が現れた。【009-7のスリーサイズ判明】 009-7 身長〇〇cm、バスト〇〇、ウエスト〇〇、ヒップ〇〇。完璧。いや、AI解析によると人類最高峰。そんな数字が並んでいた。さすがブラックゴーストの科学者のこだわりの成果である。無駄に完璧であった。009-7は固まった。「……。」「なんで?」004が冷静に分析する。「監視カメラ」「歩行解析」「姿勢データ」「買い物履歴」「AI推定」009-7は頭を抱えた。「怖い時代だな!」さらに、買った商品の型番まで流出した。SNSは祭りになった。『そのブランド好きだったのか』 『意外』 『センスいい』 『人類の宝』009-7は泣きそうだった。しかし、地獄はまだ始まったばかりだった。

 

 数日後、生成AI界隈。「009-7が買った下着を着ている画像」が大量発生した。もちろん偽物。だが、異常に精巧だった。そして、世界中に拡散。009-7は本気で落ち込んだ。 基地の部屋に置かれたソファで丸くなっていた。「もう外出できない……」「そこまでか?」「どうせフェイクだろ」 002が笑った。「無理……」「世界中に見られた……」005が肩を震わせる。「ははははは!」「笑うな!」「すまん!」全然すまそうじゃなかった。007は床を転がっていた。「世界最強サイボーグの弱点が下着って!」003は言った。「笑ったら009-7が可哀想でしょ」 009-7はさらに沈んだ。「もうお嫁に行けない」002が言った。「行くつもりだったのか?」

 

 その時、004がふと気付いた。「009」「ん?」「お前」「なんだい?」「スマホを見せろ。」009の顔色が変わった。沈黙。全員が見た。「……。」004が確信した。「あるな。」 「ないよ」「ある」「ない」003が笑顔で近付いてきた。非常に優しい笑顔であった。009は本能で危険を察知した。「ジョー」「はい」「スマホ」「いや、その」「スマホ」「違うんだ」「何が」「研究目的というか」003の笑顔がさらに深くなった。009は死を覚悟した。 恐る恐るスマホを差し出した。003が確認した。数秒の沈黙。そして、大量保存された画像フォルダ【009-7資料】。003の額に青筋が浮かんだ。009-7本人まで固まった。「ジョー……。」「いや違うんだ!」「何が違うの?」「AIの危険性を研究するためで!」「へぇ」 「社会問題として!」「へぇ」「本当に!」「へぇ」 009は悟った。助からない。次の瞬間、部屋から逃走し廊下を全力疾走する009。追いかける003。その後ろで爆笑する00ナンバーサイボーグたち。009-7だけはソファで頭を抱えていた。「なんで私だけこんな目に……」004が珍しく慰めた。「安心しろ。」「何が?」「ネットはすぐに忘れる」009-7はあまり安心できなかった。結果、キレた。脳直結でハッキングをかけた。世界中の009-7の下着画像を消した。スマホの中のSSD、妻に内緒の暗号化したHDDまで、全部。結果、世界の男どもは驚いたが、消えた画像が微妙な内容なので騒ぐわけでもなく沈静化した。一部のSNSで「あれは夢だったのか」と囁かれていた。

 

 研究所のベランダで009-7は缶コーヒーを飲んでいた。003が隣へ来た。「少しは慣れた?」 「……わからん」 「何が?」 009-7は空を見た。 「女性として生きること」 003は静かに微笑む。 「焦らなくていいのよ」 「でも私は――」 「中身がおじさんでも、今のあなたはあなた」 009-7は苦笑した。 「難しいな」 「そういうものよ」 その時、下から009の声。 「大変だ!」 「なんだ?」 「009-7のコスメ案件が来てる!」 「断れ!!」 研究所に笑い声が響く。 世界はまだ危機の中にあった。 だがその中でも。 00ナンバーサイボーグたちは、少しだけ普通の日常を取り戻し始めていた。

 

 




009だって男の子だもんね。
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