結局、009-7たちは中東自由連邦でいつもの仕事に戻っていた。映画、宝塚、AKB、世界的スター、そんなものは関係なかった。国境では戦闘が起きる。難民は発生する。武装勢力は現れる。だから戦う。それだけだった。その日も、国境地帯で武装勢力の襲撃があった。民間人が避難し軍との共同作戦が始まった。00ナンバーサイボーグ出動。いつも通りだった。009が先行し002が上空警戒。005が前線を支えた。004が指揮し003は索敵。007は後方攪乱をし、008は河川の警戒をしていた。そして、009-7は民間人の避難誘導を行った。それだけだった。本人たちはそれだけのつもりだった。問題は時代だった。今や、ドローン、衛星通信、動画配信、リアルタイム中継、全部あるのだ。そして、映画『戦場の天使』の後だった。世界中が見ていた。 「本物の009-7はどんなものなのか」
答えは想像以上だった。爆発、銃声、砂嵐。その中を歩く009-7。片手で倒壊しかけた壁を支え子供を抱き上げる。泣いている老人を安心させる。そして、次の瞬間には敵のドローン群を無力化している。映像は世界中へ発信された。視聴者数、数百万、さらに増えた。アメリカ、テキサスで元特殊部隊員が動画を見ていた。沈黙した。 「映画じゃなかった」 隣の友人「映画の方が控えめだった」 二人とも黙った。しばらくして一言。 「行くか」 何を言っているのか分からない。しかし、翌週、中東自由連邦の空港にいた。
中東自由連邦の入国者に、アメリカ人の元軍人、現役消防士、警察官、救急隊員、特殊部隊OB。なぜか大量発生した。入国審査官が言った。 「観光ですか?」 「はい」 「目的は?」 「009-7さんを見るためです」 「はい?」 「009-7」 審査官は頭を抱えた。 翌日、さらに増えた。空港職員「また来た」 観光局「なんで?」 誰も分からなかった。その頃、009-7は前線基地で書類仕事をしていた。そこへ、担当官が走ってきた。 「大変です!」 「今度は何だ」 「アメリカ人が大量に来ています!」 「観光客なら観光局へ」 「あなた目当てです!」 「なんで?」 数時間後の基地の外、柵の向こうにアメリカ人集団がいた。元海兵隊、元特殊部隊、元レンジャー。みんな笑顔だった。009-7は困惑した。 「敵ではないのか?」 「敵ではありません」 「デモでもない」 「はい」 「では何だ?」 担当官は答えた。 「ファンです」 009-7は頭を抱えた。002は爆笑した。007は転げ回った。004は新聞を閉じた。 「世界は広いな」 柵の向こうから声がした。 「009-7さん!」 振り向くと元特殊部隊員の大男だった。彼は敬礼した。そして言った。 「あなたのおかげで立ち直れました!」 さらに別の男「PTSDで苦しんでいました!」 さらに別の男「仲間を失いました!」 「でも映画と実際の活動を見て救われました!」 009-7は困った。本当に困った。戦闘なら単純だった。ミサイルも止められる。戦車も止められる。だが、感謝は止められない。結局、サイン会になった。
夕方の難民支援施設で009-7は疲れ切っていた。 「なぜこうなるの」 009が笑った。 「人気者だからじゃない?」 「映画が悪い」 004が言った。 「違う」 「では何?」 「お前だ」 009-7は納得しなかった。その頃のアメリカ、新たな旅行会社が企画を始めていた。ツアー名【009-7ゆかりの地を巡る旅】 観光局は困惑した。外務省も困惑。009-7本人はさらに困惑した。そして、世界中の人々は今日も動画を見ていた。戦場で戦う英雄、映画の主人公。精神的指導者。その全部を押し付けられている本人は、前線基地の食堂で食事をしながら「静かに暮らしたい……」 思っていた。