世界は二度驚いた。一度目は、009-7が元は五十代の日本人男性研究者だったと判明した時。 そして二度目は、他の00ナンバーサイボーグたちの正体が明らかになった時だった。 「待て待て待て待て!」 テレビの司会者が頭を抱えていた。 「つまり004さんは1950年代生まれ?」 「そうだ。東ドイツ出身だ」 淡々と答える004。 「002さんも?」 「そうだぜ」 「001さんも?」 ベビーベッドに寝かされた001が超能力の念話で答えた。 「……」 スタジオが静まり返った。 「え、皆さん七十代?」 「年齢だけならな」 004が答えた。 翌日、世界中のニュースが大騒ぎになった。 『サイボーグは老化しないのか?』 『若さは永遠に維持できるのか?』 『人類は不老への第一歩を踏み出した』 『004、実年齢七十代説』 『007、実はおじいちゃん』 『002、年金受給資格あり』 ネットは爆発した。特に女性たちの反応がすごかった。そしてその中心にいたのが003だった。フランソワーズ・アルヌール。金髪碧眼、美しい容姿、優雅な立ち居振る舞い。そして実年齢七十代。 「嘘でしょ……」 「七十代?」 「私より年上?」 「お祖母ちゃん世代?」 「なんであんなに綺麗なの!?」 女性たちは混乱した。美容業界はもっと混乱した。
ある大手化粧品メーカーで「絶対に契約しろ!」社長が断言した。 「ですが競合も動いております」 「いくらかかってもいい」 「予算は?」 「全部だ」 「全部?」 別の会社では「我が社の百年の広告予算を投入しろ」 「正気ですか?」 「正気だから言っている」 さらに別の会社で「003を取れ。」 「無理です」 「じゃあ009を取れ」 「それも無理です」 「なら009-7でもいい」 「もっと無理です」 世界中で争奪戦が始まった。 ギルモア邸の リビングでは、山のような書類、山のような契約書、山のような企画書。 「なによこれ……」 003が呆然としていた。隣で009がめくる。 「シャンプー」 次「化粧水」 次「口紅」 次 「ファンデーション」 次「美容液」 次「サプリメント」 次「高級ホテル」 次「宝石」 次 「ウェディングドレス」 次「育毛剤」 「育毛剤?」 003が首を傾げた。004が吹き出した。 「髪が綺麗だからだろう」 003は頭を抱えた。 「こんなの全部無理よ!」 「全部断ればいいじゃないか」 009が言った。 「でもせっかく平和なんだし」 「そうね」 003は少し考えた。そして言った。 「出てみようかしら」 その一言で世界が揺れた。
初CMの放送日、世界中が視聴した。画面には白いドレス姿の003。風に揺れる金髪、優しい微笑み、青い瞳。 「美しさとは」 静かな声。「誰かと比べることではなく」 微笑む。 「自分を好きになること」 CM終了。 十秒後、サーバーの負荷が限界に達した。 「アクセス集中!」 「注文が止まりません!」 「システムが落ちそうです!」 企業は嬉しい悲鳴を上げた。しかし問題があった。CMの反響が想定以上だったのである。
女性たち 「003になりたい」 「私も!」 美容整形外科に予約が殺到した。 「003みたいにしてください」 「003でお願いします」 「003コースありますか?」 医師たちは頭を抱えた。 「無理です!」 一方、003本人は「私そんなにすごいかしら?」首を傾げていた。009が言った。 「十分すごいよ」 「そう?」 「世界中が証明してる」 003は少し照れた。すると横から009-7が 「美人ですからね」 「そう?」 「ええ」 004も頷いた。 「認める」 002も頷いた。「文句ないな」 007も「世界最高レベルだ」 003は少し赤くなった。 「もう」 照れ笑いだった。 「みんな大げさなんだから」
テレビに速報が流れた。 『003出演商品の売上が過去最高を記録』 『株価急騰』 『経済効果拡大』 009-7が画面を見て呟いた。 「もはや国家予算ですね」 004が頷いた。 「兵器より稼いでいるな」 009が苦笑した。 「戦うより平和でいいじゃないか」 003も微笑んだ。 「そうね」 戦争ではなく、人々を笑顔にする。世界中の女性たちに夢を与えていた。