003のCM騒動はまだ続いていた。美容業界は空前の好景気になり、化粧品会社は過去最高益を出した。テレビでは毎日のように003が流れていた。その様子を見ながら009-7はソファでポテトチップスを食べていた。 「すごいですねぇ」 「他人事みたいだな」 004がコーヒーを飲みながら言った。 「実際他人事ですし」 テレビでは003、ネットニュースでも003、雑誌でも003。 「世界一稼ぐサイボーグですね」 「……」 003はなんとも言えない顔をした。009-7は笑った。 「いやあ、面白いな」 その時、ふと思った。 (私もCM出たら面白いのでは?) 普通ならそこで終わるのだが009-7の脳はネットに直結しているのだ。考えた、即、投稿された。SNSに『私もCMとか出てみようかな』 送信された。一秒後 「……あ、やべ」 三秒後には世界的に炎上した。 『009-7がCM出演示唆』 『広告業界激震』 『争奪戦開始』 『日本時間午後三時二十七分、代理店各社が一斉に動く』 広告代理店「絶対に取れ!!」 「予算は!?」 「考えるな!!」 「社長決裁!?」 「そんな暇あるか!!」 営業担当が飛び出した。
数時間後のギルモア邸の前には数十社がいた。 「帰れ」 004が門の前で言った。全員帰らなかった。翌日、さらに増えた。 「帰れ」 帰らなかった。最終的にギルモア博士が仲裁した。 「一社だけ選びなさい」 結果、009-7はある企業のCMに出演した。内容は単純だった。静かな街、子供たち、笑顔、そこへ現れる009-7。美しい銀髪、赤い瞳、優しい笑顔。そしてナレーション 「人は過去を選べない」 少し微笑む。 「でも未来は選べる」 子供たちと手を繋ぐ。 「何度でも」 CM終了。翌朝、「売上三倍です!」 「サーバーの負荷がやばいです!」 「株価が止まりません!」 企業は歓喜した。
しかし、予想外の現象が起きた。SNS『尊い』 意味不明なコメントが溢れた。さらに『性別とかどうでもいい』 『好き』 『結婚したい』 『女神』 『天使』 『いや元おっさん』 『それでも好き』 ネットは混乱した。LGBTコミュニティも騒然となった。ある著名活動家。 「彼女は革命です」 記者「どういう意味ですか?」 「人々は彼女を見ていると性別の境界を忘れる」 「なるほど」 「女性として美しい」 「男性だった頃も知っている」 「でもその両方を含めて愛されている」 「……確かに」 世界中で議論が起きた。哲学者 「009-7とは何者なのか」 社会学者「人類の価値観を変える存在」 心理学者「説明が難しい」
本人は「なんか大変ですね」と言ってのんびりお茶を飲んでいた。 「お前のせいだ」 004が言った。 「え?」 「全部」 さらに数週間後、世界中で009-7のポスター、009-7の写真集、009-7のインタビュー、009-7の特集が出た。そしてついに、ある海外メディアが言った。 『二十一世紀最大の偶像』 『009-7』 『性別、国籍、人種、宗教を超えて愛される存在』 記事を読んだ009-7は「偶像?」 少し考えて笑った。 「元おっさんなのに」 隣で003が吹き出した。 「そうだったわね。忘れてたわ」 009も笑った。 「世界中が忘れてる」 004も珍しく口元を緩めた。 「本人以外な」 テーブルの上には世界中から届いたファンレターの山が積み上がっていた。 かつてブラックゴーストに作られた兵器、その009-7は今、世界中から愛されていた。