004は嫌な予感を覚えた。広告代理店の視線が静かに自分へ向いていた。完全に油断していた。003、009-7、009の騒動。全部見ていた。そして、 「ご苦労なことだな」 コーヒーを飲みながら楽しんでいた。 「次は004ですよ」 009-7が言った。 「あり得ん」 「そうかなあ」 「そうだ」 即答だった。003は苦笑した。 「でも女性人気は昔からあったじゃない」 「知らん」 「嘘つき」 004は聞こえないふりをした。その頃、広告業界では 「次は004だ!」 「絶対に取れ」 「でも本人が嫌がると思います」 「そこを何とかするのがお前たちの仕事だ」 結果、またギルモア博士が説得することになった。 「一件だけ」 004はため息をついた。 「一件だけだ」 CM撮影が始まった。
商品は高級アウトドアブランドだった。CMでは、雪山、吹雪、白銀の世界。一人歩く男、黒いコート、鋭い青い目。ナレーション「極限で頼れるものは多くない」 足跡、吹雪、沈黙。 そして「だから本物を選ぶ」 004が振り向く。CM終了。翌日、爆発した。 「またです!」 「注文が八倍です!」 「在庫がなくなりました!」 企業は歓喜した。
しかし、反響の方向が変わった。まず、軍人 『格好いい』 『理想の兵士だ』 『俺もああなりたい』 『隊の広報に使いたい』 世界中の軍関係者がざわついた。次、消防士 『渋い』『現場の男だ』 警察官『こういう先輩いる』 『憧れる』 さらに、若者たち『大人の男ってこういうことか』 『かっこいい』 『筋トレ始めた』 『ドイツ語勉強する』 意味不明な影響まで出た。一方、女性もおかしかった。 『抱かれたい』 『危険』 『あの目』 『あの腕』 『無理』 『好き』 『踏まれたい』 「最後のは違うだろ」 009が言った。 「違わない」 009-7が真顔だった。元おっさんだからわかるのだ。 SNSは完全に暴走していた。 特に、筋肉好き、軍服好き、無口な男好き、年上好き。その界隈が壊滅した。 『理想が現実に存在した』 『助けて』 004は記事を読んで頭を抱えた。 「なぜだ?」 「格好いいからじゃない?」 003。 「そういう問題ではない」
数日後のあるイベントで004が登壇した。そこで彼は見た。客席の前列、筋骨隆々の男たち。自衛官、警察官、消防士、レスキュー隊員。全員目を輝かせている。 「英雄だ」 「本物だ」 「尊敬する」 「握手してください」 暑苦しい。非常に暑苦しい。しかし、後ろを見ると、女性たちがいた。もっと危なかった。目が危ない。003ファンや009ファンの目とは違った。もっと直接的だった。 「……」 004は戦場でミサイルを止めたことがある。ブラックゴーストの超兵器とも戦った。だが、この時、別の怖さがあった。 「帰りたい」 珍しく本音が漏れた。009-7は大笑いしていた。 「他人事だと思ってましたね?」 「……」 「思ってたでしょ」 「黙れ」 003も009も笑っていた。002など椅子から落ちるほど笑っていた。こうして、鋼鉄の戦士、冷徹な戦場の英雄、無敵の004は、暑苦しい男たちと目が危ない女性たちに囲まれ、人生で珍しく本気で困っていた。そして広告業界は次の獲物へ視線を向けていた。