次のターゲットになったのはジェロニモ・ジュニア005であった。本人は安心していた。003。009-7、009、004。次々と広告業界に捕まっていく仲間たち。だが、「俺は大丈夫だな」 ソファに座りながら言った。 「なぜだ?」 004が聞く。 「だって俺、地味だろ?」 部屋が静かになった。003と009が首を傾げた。009-7は首を上げた。004がため息をついた。 「お前、自分を鏡で見たことあるか?」 「あるぞ?」 「理解していないな」 005は理解していなかった。
広告業界はとっくに気付いていた。ジェロニモ・ジュニア。身長、体格、筋肉、包容力、優しさ。そして、超人的なパワー。フィットネス業界から見ると理想そのものだった。あるスポーツメーカーの幹部が言った。 「絶対に取れ!」 「でも競合が」 「取るんだ!」 「予算が」 「全部使え」 会議終了。結果、005はスポーツブランドのCMに出演した。
撮影初日。監督 「普段通りでお願いします」 「普段通り?」 「はい」 005はダンベルを持った。軽く上げた。百キロだった。スタッフ全員「え?」 005「軽いな」 監督「採用」 撮影終了。ものすごく早かった。完成したCMでは、朝日の中でジム、静かな音楽、トレーニングする005、汗、筋肉、鍛え上げられた肉体。そして、子供を肩車する。笑顔。ナレーション「強さとは」 005が笑う。 「誰かを守るためにある」 CM終了。翌日、フィットネス業界が震撼した。 「サプリ売り切れ!」 「プロテイン完売!」 「ジム入会希望者三倍!」 業界全体が大騒ぎになった。
ボディービルダーたちが完全に落ちた。 『理想だ!』 『完成形だ!』 『あの肩幅』 『あの背中』 『芸術だ!』 世界中の筋肉愛好家が熱狂した。ある国際大会で選手紹介より休憩時間の005特集映像の方が盛り上がった。司会者も困惑した。 「今日の主役は選手なんだが」 観客「ジェロニモ!」 「ジェロニモ!」 大合唱だった。005本人がイベントに呼ばれた。会場入り。そして見た。会場が筋肉で溢れていた。全部筋肉。 「うわ」 思わず声が出た。しかも危険なくらい目が輝いていた。 「ジェロニモさん!」 「握手を!」 「サインを!」 「背中を見せてください!」 「肩を触っていいですか!」 「腕回り何センチですか!」 「どうやったらその胸筋になりますか!」 質問が止まらなかった。005は引いた。 「熱量がすごい」 さらに、ボディービルダーたちは勝手に分析を始めた。 「大胸筋の形が美しい」 「広背筋も完璧だ!」 「僧帽筋も凄い」 「理論上の理想体型だ」 「人類の到達点」 本人は居心地が悪かった。
その夜、005はギルモア邸に疲れ切って帰ってきた。 「助けてくれ」 004が新聞を読みながら言った。 「どうした?」 「筋肉の話しかしない」 「そうか」 「三時間、ずっと筋肉」 004はコーヒーを吹きそうになった。009-7は笑っていた。 「他人事だと思ってたでしょ?」 005は無言だった。その頃の広告業界では「成功だ!」 「大成功です」 「次は誰だ?」 会議室が静かになった。