10人目のサイボーグ   作:れぷとん

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第107話 本物たちの映画

 監督の暴走というか情熱によって始まった映画企画については、業界関係者の多くは最初、半信半疑だった。 「話題にはなるだろう」 「興行収入は期待できるな」 「でも演技経験は少ないぞ」 「大丈夫か?」 そんな声もあった。 そして公開された結果、全員が間違いを認めることとなった。映画は大ヒットした。しかも予想をはるかに超えるレベルで。観客の感想。『なんか空気が違う』 『妙にリアル』 『戦場のシーンが怖い』 『作り物に見えない』 当然だった。なにしろ出演者たちは本物だったのだから。中東自由連邦の元首とその側近。世界中の戦場を駆け抜けた英雄、何度も国家の危機を乗り越えた人間たち。演技ではなかった。

 

 主人公たちが紛争地帯から脱出する場面で、銃声、爆発、避難民、混乱。監督は後で語った。 「カットをかけるのを忘れた」 スタッフが聞いた。 「なぜです?」 監督は言った。 「全員の動きが自然すぎた」 当然だった。日常だったのである。004が負傷者を運び005が瓦礫をどかす。009が子供を抱えて走り002が周囲を警戒する。009-7が避難民を落ち着かせる。スタッフ「本物だ……」 後でNG集が公開されたら面白いことになった。 爆発シーンで監督「もう少し慌ててください!」 004「なぜだ?」 「危険だからです!」 「危険ではない」 撮影スタッフ「危険です!」 感覚が違った。

 

 最も話題になったのは009-7だった。映画の中で彼女は異国の姫君を演じた。美しく、優雅で、どこか寂しげ、そして謎めいていた。観客たちは魅了された。 『神秘的』 『本当に王族みたい』 『存在感が異常』 『演技上手すぎる』 だが関係者は知っていた。これは演技ではない。本当にそうだった。中東自由連邦の実質的な建国の英雄で世界中の王族や国家元首と交流する人物で外交の最前線に立つ存在だった。しかも、中身は元五十代のおっさん。情報量が多すぎた。映画評論家も混乱した。 『009-7の演技は驚異的だ』 『まるで本物の王族のような気品』 海外の王族関係者まで反応した。『あの振る舞いは本物だ』 『教育を受けた人間にしかできない』 『どこの王家だ?』

 

 映画は各国の映画祭を席巻した。トロフィーが増え続けた。ギルモア邸の棚が足りなくなった。 「また来た」 009。 「置く場所がない」 004 「売る?」 002 「駄目」 003。そんな中、監督だけは静かだった。スタッフが聞いた。 「どうしました?」監督。 「次だ」 嫌な予感がした。 「次?」 「次回作だ」 スタッフ全員。 「ああ……」 理解した。これは止まらない。監督は立ち上がった。 「今度は冒険活劇だ!世界中を旅する。潜水艦も飛行機も出す。戦車も出す。そして、007も出す!」その瞬間、遠く離れた場所で007がくしゃみをした。

 

 映画監督は止まらなかった。 「次は冒険活劇だ!」 00ナンバーサイボーグの前で叫んでいた。誰も驚かなくなっていた。003は紅茶を飲んだ。 「そう」 004は新聞を読んだ。 「そうか」 005は筋トレしていた。009-7は笑った。 「もう好きにしてください」 監督は脚本を机に叩きつけた。 「最高傑作だ!」 今回の物語も主人公は009。陽気な相棒は002、ヒロインは003、謎の姫君009-7。そして、物語の途中で現れるかつての仲間007グレート・ブリテン。監督は力説した。 「これだ!中年男性が泣く」 「はい?」 誰も理解できなかった。だが完成した映画を見て全員理解した。監督は正しかった。

 

 映画の中盤で夜のロンドン。雨、霧、石畳、ロンドンの裏通りの古びたバー。静かなジャズが流れるカウンター席。そこに座る一人の男007。落ち着いた雰囲気。スコッチを飲んでいる、かつての英雄。今は静かに暮らしている。そこへ、扉が開きベルが鳴る。入ってくる男は009。007は振り向かない。 「久しぶりだ」 009が隣に座る。 「久しぶり」 静かな時間。そして009が言う。 「助けてほしい」 007は黙っている。 「あなたの力が必要なんだ」 007はグラスを見る。 「もう引退したんだ」 「知ってる」 「若い人たちに任せる」 「できない」 「なぜ?」 009は笑う。 「だって仲間だから」 長い沈黙の後、007は笑った。 「ずるいな」 立ち上がりコートを羽織る。「一回だけだ」 009も笑う。 「十分だ」

 

 映画館では、このシーンで多くの男性観客がやられた。 『泣いた』 『昔の仲間は反則』 『涙が止まらない』 特に、四十代、五十代、六十代に直撃だった。 かつての友人、若い頃の夢、別れた仲間、もう戻らない時間、それらが重なった。 SNS 『学生時代の友達に電話した』 『飲みに行った』 『十年ぶりに会う約束をした』 『ありがとう007』 謎の社会現象になった。 一方、映画の後半で007は大活躍した。変装、潜入、機転、ユーモア。そして、長年の経験。若い主人公たちを支える。派手ではないが格好良かった。公開後、評価サイト 『人生経験を積んだ男の魅力』 『若者にはない格好良さ』 『007が全部持っていった』 監督は大喜びだった。 「ほら見ろ!」 「何がです?」 「中年男性が泣いた!」 本当に泣いていた。

 

 予想外だったのは、女性人気まで爆発したことだった。 『優しい』 『渋い』 『落ち着いてる』 『こういう人がいい』 『結婚するなら007』 007本人は記事を読み、静かにスコッチを飲んで言った。 「なんでこうなる?」 ギルモア邸で009-7が笑っていた。 「人気者だね!」 004が頷いた。 「そうだな」 002も笑った。「次は誰だ?」 003が数え始めた。「誰かしらね」

 

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