「……本当にやるのか?」 009-7――榊レイナは、契約書を見ながら真顔だった。対面にいる広告代理店スタッフは必死だった。 「ぜひお願いします!」 「“銀の魔女”のイメージは今や世界的です!」 「サイボーグへの恐怖感を和らげる効果も期待できまして!」 ギルモア研究所では全員が見守っていた。003フランソワーズ・アルヌールが頷いた。 「悪くないと思うわ」 「でも私は化粧に興味ないぞ」 「そこはまあ……」 009が笑う。009はスマホを見せた。 「今のお前、“クール系美少女”扱いだから」 「なんでだ」 「黙ってると格好いいから」 「疲れてるだけだ」 最終的に009-7は案件を受けた。理由は一つ。 「サイボーグの印象改善になるなら、やる」 結果、大爆発した。CM公開初日。銀髪の009-7が静かに振り返るだけの映像。赤い瞳、透明感のある肌、幻想的な空気、再生数、1000万突破。 【美しすぎる】 【人類やめてる】 【もう芸術作品】 【魔女というか女神】 【サイボーグになりたい】 コスメは記録的売上を叩き出した。だが、肝心の本人は全く興味がなかった。 「化粧水って必要なのか?」 003が固まる。 「……あなた、CMやったわよね?」 「仕事だからな」 「美容液は?」 「知らん」 「リップは?」 「工具か?」 003は頭を抱えた。 「だめだこの美少女」
数日後、003は009-7を高級デパートへ連行した。 「今日は徹底的にやるわよ」 「またか……」 護衛は002、004、009。完全に芸能人の警護体制だった。デパート側は大騒ぎである。 「009-7さん来店!?」 「003さんも!?」 「警備増やして!」 一般客はざわついた。 「本物!?」 「銀の魔女だ!」 「003綺麗すぎる……!」 009-7は早く帰りたかった。だが003は容赦しない。 「まずメイクカウンター」 「戦場より怖い」 「逃げない」 プロのメイクスタッフが集まった。 「素材が完璧すぎる……」 「肌どうなってるの!?」 「発光してません!?」 009-7は完全に無表情だった。 「落ち着かない」 だが、数十分後、周囲が静まり返った。完成した009-7は、もはや幻想的だった。 銀髪に映える淡いメイク、赤い瞳の美しさを際立たせる陰影。 無機質さと人間らしさが共存した異様な魅力。003もまた上品で華やかだった。002が口笛を吹いた。「うわ」 009は素直に感心した。「すげえ」 004は少しだけ目を細める。「……似合っている」 009-7は居心地悪そうだった。 「化粧ってこんなに変わるのか」 003が微笑む。 「楽しいでしょ?」 「うん、ちょっと楽しいかも。でも、まだそこまでは行かない」 鏡を見る目が変わっていた。
もちろん、誰かが撮影していた。 【銀の魔女、デパートで覚醒】 動画投稿。再生数、爆発。 【美しすぎて意味わからん】 【003がお姉ちゃんすぎる】 【004の視線が優しい】 【009が普通にイケメン】 【002ずっと保護者で草】 【魔女、女子力レベルアップ】 さらに、009-7がメイク知識ゼロだと判明。 【美容液知らないの!?】 【研究者すぎる】 【ポケット数で服選んでた女だぞ】 【そこがいい】 結果。 さらに人気が出た。 本人だけが納得していない。 「なんでだ……」 009が笑った。 「親近感だろ」 「私はミサイル止めてたんだぞ」 「その人がファンデーションで悩んでるから面白いんだよ」 「納得いかん……」 とりあえず平和だった。