10人目のサイボーグ   作:れぷとん

12 / 16
第11話 再び帰宅

 久しぶりに009-7はかつての自宅へ戻った。玄関を開けた。 「ただいま」 妻は顔を見た瞬間、泣いた。 「……無事でよかった……!」 009-7は固まった。戦場では平気なのに家族の涙には弱かった。 「そんなに危なかったか」 「テレビで見たのよ!」 妻は涙を拭う。 「ミサイル飛んでたじゃない!」 「まあ飛んでたな」 「軽く言わない!」 娘も飛び出してくる。 「お父さん!」 「おう」 だが次の瞬間、娘は急に真顔になった。 「お願いがある」 「嫌な予感しかしない」 「友達が会いたがってる」 「断れ」 「もう無理」 「なんでだ」 「学校中にバレてる」 009-7は天を仰いだ。 「……終わった」

 

 放課後、009-7は学校へ行った。当然、大騒ぎになった。 「本物だあああ!!」 「銀の魔女!!」 「かわいい!!」 校門前は軽いパニックだった。教師たちまで落ち着かない。009-7は本気で帰りたかった。 「私は何をやってるんだ……」 娘は苦笑した。「諦めて」 教室へ入った瞬間、歓声。女子たちは大興奮だった。 「肌綺麗すぎる!」 「髪本物!?」 「目赤い!」 「いい匂いする……!」 009-7は困惑していた。国際学会より疲れる。そこへ、あの以前009-7へ告白した男子高校生がいた。完全に緊張していた。 「…………」 固まっていた。009-7は苦笑した。 「久しぶりだな」 「は、はいっ!!」 声が裏返った。周囲の女子が爆笑した。 「まだ好きなの!?」 「やめろって!」 009-7は少し考えてから言った。 「……勇気は立派だったぞ」 男子高校生は真っ赤になった。その瞬間。教室中が悲鳴みたいな歓声になった。 「キャーーー!!」 「青春ーー!!」 「魔女に褒められた!」 009-7は頭を抱えた。 「なんなんだこれは……」 だが、娘は少し誇らしそうだった。

 

 009-7の周囲は、完全に“戦場”になっていた。だが、それは本人だけではなかった。家族も、友人も、関係者も、もう普通の生活には戻れなかった。榊家周辺には、いつの間にか人間が増えていた。犬の散歩をしている男、新聞を読むサラリーマン、工事業者。だが009-7にはわかった。全員、政府側の護衛だ。電子通信、装備、視線、訓練された動き。 「……増えたな」 窓から外を見ながら、009-7は呟いた。004がコーヒーを飲みながら答える。004は落ち着いていた。 「当然だ」 「政府も必死か」 「ブラックゴーストが家族を狙う可能性が高い」 その通りだった。 ブラックゴーストAIは、00ナンバーサイボーグを直接倒すより、“周囲を壊す”方向へ戦略を変えていた。だが、政府も無能ではない。榊家は極秘保護対象になっていた。

 

 娘の学校にも変化があった。 「今日から新任の先生を紹介します」 教室へ入ってきたのは、若い女性教師。黒髪、スーツ姿、柔らかい笑顔。「黒瀬玲子です。よろしくお願いします」 娘は固まった。放課後、誰もいない廊下で娘はその教師へ小声で言った。 「……政府の人ですよね」 黒瀬は少し驚いた後、苦笑した。 「鋭いわね」 彼女は本当に教師資格も持っていた。だが本職は政府エージェント。任務は榊家関係者の保護と監視。 「安心して。あなたたちを守るためよ」 娘は複雑そうだった。 「……お父さんは、そんな危ないところにいるんだ」 黒瀬は少し黙った。 「ええ」 「でも戦ってる」 「そうね」 娘は窓の外を見た。夕焼けだった。 「……帰ってきてほしいです」 黒瀬は静かに答えた。 「たぶん、そのために戦ってるのよ」 黒瀬は、なぜ娘が009-7を「お父さん」と呼ぶのか理解できなかった。要調査と考えていた。欧州系の美少女が日本の一般家庭に家族として受け入れられていることは、今の時代、あり得ることではあった。家族関係と過去にさかのぼった身辺調査を進めていた。

 

 ブラックゴーストは、何度も榊家周辺へ接触を試みた。偽配達員、ハッキング、監視ドローン、洗脳工作員。だが全て失敗。政府側護衛が異常に優秀だった。ある夜、住宅街の屋根を小型ドローンが飛ぶ。直後、無音でレーザー照準。公安狙撃班によるドローン撃墜。さらに別方向では、不審車両を警察が停止。中にはブラックゴースト系工作員。娘は何も知らず眠っていた。だが009-7は電子の海を通じて全部把握していた。彼女は静かに呟く。 「……完全に戦場だな」 009が隣へ座った。009も疲れていた。 「後悔してるか?」 「家族に会ったことか?」 「うん」 009-7は少し考えた。 「……いや」 危険でも、それでも会えてよかったと思っていた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。