009-7消失事件は世界中で大騒ぎになっていた。 「瞬間移動だ!」 「超能力だ!」 「奇跡だ!」 そして、各国情報機関では全員が頭を抱えていた。アメリカCIA 「解析結果は?」 「映像を全フレーム確認しました」 「それで?」 「消えています」 「見ればわかる」 「フレーム間で消えています」 「以上です」 会議室が静まり返った。ロシアFSB 「加速装置だろう」 「その可能性が高いです」 「速度は?」 「不明、カメラのフレームレートを超えています」 頭痛薬が消費された。さらに、科学者たちが議論を始めた。 「高速移動なら空気がどうなる」 「衝撃波が発生するはずだ」 「衝撃波はなかった」 「熱は?」 「観測されていない」 「運動量は?」 「わからん」 「エネルギーは?」 「もっとわからん」 会議室が静かになった。現象として受け入れるしかなかった。極秘報告書にはこう書かれていた。 『既知の物理法則では十分な説明が困難』 『009-7において観測された事実として扱う』 『理論構築は後回し』 完全に投げていた。
もっと迷惑を被った人たちがいた。00ナンバーサイボーグたちであった。003。映画撮影後の記者会見で。 「003さん」 「はい?」 「瞬間移動できますか?」 「できません」 「本当に?」 「本当です」 「でも009-7さんは」 「レイナがおかしいだけです」 即答だった。 「他の00ナンバーもできますか?」 「できる人とできない人がいます」 「009は?」 「ジョーはもっと速いけどあんな非常識ではないです」 「004は?」 「無理です」 「005は?」 「無理です」 「006は?」 「無理です」 003は疲れていた。
さらに、女子大のイベントで 「003様!」 「はい」 「瞬間移動してください!」 「できません」 「でも同じ00ナンバーですよね?」 「そうですが」 「やってください!」 「できません!」 悲鳴だった。その頃の009はテレビ収録をしていた。 「009さん」 「はい」 「009-7さんは人間ですか?」 「人間です」 「本当に?」 「たぶん」 「たぶん?」 「ぼくも最近自信がなくなってきました」 本音だった。004は記者に囲まれた。 「009-7について一言」 「馬鹿だ」 「え?」 「いつも余計なことをする」 「ですが世界は感動しています」 「奇跡と呼ばれています」 「人類の進化とも」 「知らん」 アルベルトは本当にうんざりしていた。
当の本人は自宅の居間のソファにジャージ姿でポテトチップスを食べながら科学雑誌を読んでいた。 「へえ」 記事『009-7現象と保存則』 『加速装置の理論的考察』 『高次元移動仮説』 009-7は感心した。 「面白いな」 娘が呆れた。 「原因あなたなんだけど」 「そうだった」 「そうだったじゃないよ」 妻も笑っていた。 「世界中の科学者を悩ませてるのね」 「研究テーマを提供しているとも言う」 「前向きだねえ」 スマホが鳴った。 003だった。 『レイナ』 「どうしたの」 『お願いだからしばらく超能力っぽいことしないで』 「してないよ」 『してるの!』 電話の向こうで悲鳴が聞こえた。 009-7は少し考えた。 「善処する」 『絶対しないやつ!』 電話が切れた。娘は断言した。 「お父さん」 「なあに」 「また何かやるよね」 妻はお茶を飲みながら頷いた。 「やるわね」 「やるね」 家族の意見は一致していた。そして遠く離れた場所で、004、003、009も同じ結論に達していた。