新橋駅前消失事件の翌日。009-7こと榊レイナは久しぶりに平和な休日を過ごしていた。ソファ、ジャージ、ポテトチップス、科学雑誌。完全におっさんだった。 「へえ」 量子コンピュータの記事を読んでいた。その隣で娘がスマホを見ていた。 「うわ……」 「どうした」 「同級生が会いたいって」 画面には大量のメッセージが来ていた。 『お願い!』 『一生のお願い!』 『レイナ様紹介して!』 『五分でいいから!』 『神様!』 「神様ではないな」 009-7は気軽に言った。そして、脳直結で娘のスマホから返信。 『いいよー』 送信。 娘「え?何したの」 「返信した」 「勝手に?」 「勝手に」 娘は頭を抱えた。 「お父さん……」 「友達なんだろ?」 「そうだけど」 「会うことにしたよ」 「そういう問題じゃない」 だがもう遅かった。 五秒後『本当!?』 『きゃああああああ!!』 『生きてて良かった!!』 『今日行ける!?』 話は決まった。
夕方の近所のファミレスで娘の同級生五人が待っていた。全員緊張していた。009-7登場。全員停止した。 「こんにちは」 その一言で「きゃあああああ!!」 店内が振動した。店員と隣の席が驚いた。 「そんなに驚くことか?」 「あるよ!!」 全員一致だった。 そこからは普通だった。 好きな映画、食べ物、学校生活、将来の夢。009-7は意外と話しやすかった。娘の友人たちも徐々に落ち着いてきた。 「レイナ様って意外と普通ですね」 「普通だよ」 「いや普通じゃないです」 「そうかな?」 「国家元首です」 「そうだった」 本人が忘れていた。 その時、一人の女子高生が言った。 「そうだ!瞬間移動見たい!」 娘「やめなさい」 009-7「別にいいよ」 娘「お父さん!?」 009-7「こんな感じ」 加速装置発動。一瞬で009-7が消えた。次の瞬間には窓際にいた。さらにレジ前、ドリンクバー、さらに入口。そして元の席。終了。 「以上」 店内は静寂だった。数秒後に「きゃあああああああ!!」 女子高生が絶叫した。問題はその場にいたのが彼女たちだけではなかったことであった。
他の客、店員、全員見ていた。 「消えた」 「消えたよな」 「俺も見た」 店内がパニックになった。009-7は首を傾げた。 「どうしたの?」 娘はテーブルに突っ伏した。 「だからやめろって言ったのに……」 そして、動画が撮られていた。複数方向、複数視点、高画質。YouTubeに投稿された。タイトル『009-7様が目の前で瞬間移動した』 『銀の魔女は本当に超能力者だった』 『ファミレスで奇跡を見た』 再生数はどんどん増えた。世界中が騒いだ。物理学者「またか」
004は自宅でニュースを見た。動画も見た。頭を抱えた。003が聞いた。 「どうしたの?」 004「見ろ」 動画。ファミレスで女子高生と笑顔の009-7。 『こんな感じだ』 次の瞬間、消失。店内大混乱。003は目を閉じた。 「レイナね」 「レイナだ」 「レイナだわ」 二人とも納得した。そこへ009から通信が来た。 『見た?』 「見た」 『見たわ』 『どう思う?』 004は即答した。 「馬鹿だ」 003も即答だった。 「馬鹿ね」
当の本人はファミレスでパフェを食べていた。 「美味いな」 娘が睨んだ。 「世界中でニュースになってるよ」 「そうか」 「そうかじゃない」 「喜んでくれたぞ」 同級生たちは確かに大喜びしていた。娘は深いため息をついた。 「お父さん」 「なに?」 「しばらく外出禁止」 「ええ……」 世界最強クラスのサイボーグで国家元首、ブラックゴーストを撃退した英雄は、高校生の娘から外出禁止を言い渡されていた。