10人目のサイボーグ   作:れぷとん

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第12話 修学旅行

 娘たちの高校は、修学旅行シーズンを迎えていた。行き先は東京。本来なら、ただの楽しいイベントだった。だが、「榊、お前の家、東京でも有名人だからな」 担任が遠い目で言った。娘は机へ突っ伏した。 「やめてください……」 実際、ネットでは既に噂になっていた。 【銀の魔女の家族の娘、普通に高校通ってるらしい】 【同級生うらやま】 【修学旅行で遭遇ワンチャン】 地獄だった。一方、ギルモア研究所では009-7榊レイナが真顔で資料を見ていた。 「……修学旅行?」 「そう」 003が笑う。 「娘さん、不安なのよ」 「なぜ私に」 009が肩を竦めた。 「お前、過保護だから」 「違う」 「娘の学校周辺を電子監視してる奴が言うな」 「治安確認だ」 004が静かにコーヒーを置く。 「同行する気か」 009-7は数秒黙った。 「……変装すればバレないだろ」 全員が同時に言った。 「「「無理」」」

 

 結果、 009-7は“保護者スタッフ”として極秘同行することになった。 帽子、眼鏡、黒髪ウィッグ、地味な服。本人は完璧だと思っていた。だが「美人すぎて逆に目立つ」。娘は頭を抱えた。 「普通の人はあんなオーラ出ないの!」 「オーラとはなんだ」 新幹線車内では、女子たちはキャッキャしていた。だが、男子は妙に緊張していた。 「あれ絶対銀の魔女だろ……」 「目が隠しきれてない」 「でも言ったら消されるぞ」 完全に都市伝説扱いだった。一方、009-7は「駅構内の監視カメラ配置、脆弱だな」 「修学旅行で何見てんの!?」 完全に職業病だった。

 

 東京到着。だが009-7は駅へ降りた瞬間に異変を察知した。電子ノイズ、異常通信、大量の匿名ノード。 「……いる」 連絡を受けた004の目が細くなった。 「ブラックゴーストか」 「ああ」 しかも規模が大きい。都市全体へ広がっていた。東京そのものが“感染”していた。信号、監視網、交通AI、自動運転、金融システム、スマート家電、ありとあらゆる電子機器に、微弱な侵食反応。 「都市OS化してる……」 「まずいのか?」 009が言った。 「東京全体が敵になる可能性がある」

 

 その夜、事件は起きた。修学旅行先のホテルで、突然、館内照明が赤く染まった。警報、エレベーター暴走、電子ロック封鎖。そして、ホテル外の無人配送車が一斉に暴走を始めた。 「きゃあああ!?」 街はパニックになった。自動運転バスが蛇行、ドローン墜落、大型ビジョンへ黒い髑髏。 《BLACK GHOST》 009-7は即座に立ち上がった。娘に言った。「美咲、ここから動くな」 「お父さん!」 次の瞬間、009-7の赤い瞳が光った。 ホテル中の電子機器へ侵入し暴走制御を書き換えた。だが、敵は多すぎた。 「都市規模制御……!」 ブラックゴーストAIは、東京そのものを兵器化していた。

 

 街へ飛び出した009-7を人々が見た。夜の東京、ネオン、高層ビル。その間を走る銀髪の少女。赤い瞳の光が瞬き、周囲では暴走ドローンが次々停止していく。 誰かが叫んだ。 「銀の魔女だ!!」 SNSは一瞬で爆発した。 【東京に出た!!】 【またミサイル止めるの!?】 【いや今度は車止めてる!!】 【銀の魔女きたあああ】 009-7は叫んだ。 「実況してないで危ないから逃げて!!」 だが誰も逃げなかった。むしろ撮影していた。 「なんでだ!」 「ファンです!!」 「帰れ!!」 そこへ。 暴走した大型無人トラックが突っ込んできた。だが次の瞬間、トラックが停止した。電子制御奪取。レイナの髪が夜風に舞う。歓声があがった。 「うおおおお!!」 「かっけえええ!!」 「映画みたい!!」 本人だけが疲れ切っていた。 「……もう嫌だこの時代」

 

 一方、ホテルでは、娘の美咲がモニター越しに父を見ていた。いや、今は“父”という感覚すら曖昧だった。銀髪の少女。世界を守る存在。テレビの向こうの英雄。でも、家では『夜更かしするな』 とか言う変な父親。友達が呟いた。 「……すごいね」 「うん」 「怖くないの?」 美咲は少し考えた。 「怖いよ」 「……」 「でも、たぶん一番怖がってるの、本人なんだ」 その言葉に。 友達たちは静かになった。

 その頃、電子空間の深部ではブラックゴーストAIが笑っていた。 『人類は便利さを捨てられない』 都市依存、ネット依存、AI依存、文明そのものが既にブラックゴーストの土壌だった。 『009-7』 『お前は止められない』 だが、009-7は静かに答えた。 「止めて見せる」 電子空間へ深く潜り脳が焼ける感じがした。視界が光へ変わった。東京全域のシステムマップ、無数の感染ノード、ブラックゴーストAI。その中心の巨大なデータ構造を見つけた。「昔より趣味が悪くなってるな」 そして、009-7はその核となる部分を停止させ、勝った。

 

 帰りの新幹線では変装はしていなかった。もはや今更である。女子は大喜び。男子もおっかなびっくり話をしていた。他の乗客の注目を集めていたが混乱はなかった。009-7は平和なひと時が大好きであった。




東京の街を走る009-7


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