10人目のサイボーグ   作:れぷとん

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第132話 009-7とファッション

 00ナンバーサイボーグたちが世間に知られ始めた頃。CM出演の話が次々と舞い込んでいた。003には化粧品会社、005にはスポーツブランド、002には自動車メーカー、009には飲料メーカー、004には時計メーカー。そして、009-7には女性向け高級ファッションブランドから熱烈なオファーが来ていた。ブランド本社の会議室では、役員たちが真剣な顔で話していた。 「彼女しかいない」 「世界で最も注目される女性です」 「いや、元男性ですが」 「そこも含めて唯一無二です」 結論はすぐ出た。

 

 数日後には003の元へ提案書が届いた。 「へえ」 003は思わず感心した。内容が凄かった。 『専属契約ではありません』 『出演義務もありません』 『好きな時に着てください』 『ただし服は全て弊社が提供します』 さらに、上着、スカート、パンツ、ワンピース、コート、靴、バッグ、アクセサリー。そして、下着。全部だった。年間契約額も凄かった。003は即座に思った。 (これは必要だ) 理由は単純だった。009-7のファッションセンスが壊滅的だからである。当人はリビングでジャージ姿だった。 「なあに?」 「いい話よ」 「嫌な予感しかしない」 003は資料を差し出した。読んだ。 「無料?」 「無料」 「全部?」 「全部」 「いい人たちだな」 003は額を押さえた。 「そういう問題じゃないの」

 

 00ナンバーサイボーグの全員で話し合いを行なった。 「私は賛成だ」 004が言った。 「なぜ?」 「君の服装を見るたびに胃が痛い」 「失礼だなあ」 「事実だ」 002も頷いた。 「この前なんか十万円のジャケットに千円のジャージ合わせてただろ」 「何が悪いの」 「全部だ」 009も苦笑した。 「まあ、イメージアップにはなると思うよ」 003は決定打を放った。 「下着も選んでくれるわ」 即決だった。 「契約しよう」 「現金だな!」 002が笑った。こうして、009-7は高級ブランドの全面支援を受けることになった。

 

 結果、予想を超えた。似合いすぎた。銀髪、赤い瞳、白い肌、そして完璧なコーディネート。街を歩くだけで絵になった。SNSは毎日祭りだった。 『今日のレイナ様』 『銀の魔女コーデ』 『同じバッグ売り切れ』 『同じ靴が在庫消滅』 ブランドの売上は異常な伸びを見せた。担当役員は泣いて喜んだ。 「過去最高です!」 「素晴らしい!」 「工場が追いつきません!」 「増産だ!」 株価も上がった。世界中のファッション誌が特集を組んだ。 『銀の魔女の私服分析』 『戦闘服からドレスまで』 『009-7スタイル』 本人は困惑していた。 「なぜ?」 003は呆れた。 「あなたが着るからよ」 「服だろ?」 「違うの」 「わからん」 本当にわかっていなかった。

 

 問題はそこからだった。009-7が外出すると、数分後にはSNS『町田駅で目撃』 『今日は白いコート』 『バッグは新作』 『靴も新しい』 数万いいね。ブランド公式は喜んだ。009-7は頭を抱えた。 「息苦しい」 「自業自得よ」 003が言った。 「私はただ散歩しただけなのに」 「有名人だから」 「面倒だよ」 そして、一番被害を受けたのは娘だった。女子大学の昼休み。娘は食堂へ向かっていた。突然 「ねえ!」 囲まれた。同級生十数人だった。「次は何着るの!?」 「新作情報知らない!?」 「ご予定は!?」 「秋コレクション見た!?」 娘は呆然とした。 「知らない」 「えー!」 「本当に知らない」 事実だった。 009-7本人だって知らない。朝起きる、003が選ぶ、着る。それだけだった。娘は真顔で言った。 「あの人、自分で服選んでないから」 その場が静まり返った。 「え?」 「003さんが選んでる」 さらに静かになった。 「本人はジャージ着たがるから」 女子大生たちは衝撃を受けた。世界のファッションリーダー、最先端のアイコン、憧れの存在。その正体が、「ランニングシャツと短パンで十分」 と言う人間だったのである。

 

 その日の夜、娘から電話がかかってきた。 「お父さん」 「なに?」 「学校で大変なんだけど」 「なぜ?」 「次に何を着るか教えろって」 009-7は本気で困惑した。 「私も知らない」 隣で003が吹き出した。SNSでは『銀の魔女の衣装選定権は003が握っているらしい』という情報が流出し、今度は003がファッション業界から注目されることになった。

 

 

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