10人目のサイボーグ   作:れぷとん

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第135話 009-7は黙っていればいいから

 そのブランド本社では広報部長が資料を見ながら震えていた。 「記事数は?」 「三百八十七件です」 「SNS閲覧数は?」 「二千万を超えました」 「……」 広報部長は天井を見上げた。 「やるしかないか」 こうして大規模企画が立ち上がった。REINAライン特別対談。出演者は、ブランド主任デザイナー、003、009-7。会場には、ファッション誌、女性誌、経済誌、テレビ局、そして、なぜかゴシップ誌までいた。広報担当は頭を抱えた。 「なんで来るんだ?」 「売れるからです」 正論だった。

 

 控室で003が真剣な顔をしていた。 「レイナ」 「なあに?」 「今日は黙っていて」 「なぜ?」 「お願いだから」 「私は何もしていないよ」 「だからよ」 003は経験から学習していた。009-7は悪意がない。しかし、口を開くと大惨事になる。 「ニコニコして座っているだけでいいからね」 「簡単だね」 「本当に?」 「本当だよ」 003は信用していなかった。

 

 会場で対談開始。デザイナーが語った。 「REINAラインのコンセプトは現代女性の強さです」 スクリーンに映像が流れる。戦場、会議室、街角での様々な女性たち。 「困難に立ち向かいながらも美しく生きる」 「勇気と優雅さの両立」 「それを形にしました」 拍手があがった。003も続いた。 「実際に着て感じたのは動きやすさです」 「日常でも特別な日でも使える」 「女性が自信を持てる服だと思います」 さらに拍手。完璧だった。

 

 009-7はニコニコしていた。本当にニコニコしているだけだった。広報担当は安心した。(今日は平和だ) その時、記者が手を挙げた。 「009-7さんへ質問です」 003と広報担当が嫌な顔をした。デザイナーはハラハラしていた。009-7は通常運転だった。 「どうぞ」 「あなたにとって美しさとは何でしょうか」 会場が静まった。哲学的な質問だった。皆が期待していた。戦場を生き抜いた英雄、銀の魔女。どんな深い答えが返ってくるのだろう。009-7は少し考えた。 「健康かな」 会場は沈黙した。003が目を閉じた。 「健康?」 「病気にかからず、ちゃんと寝る、ちゃんと食べる。それが大事」 完全にただのおっさんだった。しかし、記者たちは猛烈にメモを始めた。003は気付いた。 (あ、これはだめだ) 次の質問が来た。 「自信を持つ秘訣は?」 009-7「無理して持たなくていいんじゃないかな」 「え?」 「私も別に自信ないよ」 会場はざわついた。 「でも前には進める。だからまあ、なんとかなるよ」 またメモが始まった。次の質問「女性らしさについてどう思いますか」 003は止めようとしたが間に合わなかった。 「わかんない」 即答だった。記者が固まった。 「私は元おっさんだし、今でもよくわからない」 003が頭を抱えた。終わった。そう思った。 しかし、記者は真剣だった。 「つまり固定観念に縛られないということですね!」 「え?」 「女性らしさを定義しない!そういう自由な発想!現代的です!」 009-7は困惑した。 「そうなのかな?」 さらに「理想の女性とは?」 009-7は考えた。 「他人に迷惑かけない人」 記者は感動した。003は脱力した。

 

 後日、記事が掲載された。見出し『銀の魔女が語る本当の美しさ』 『健康であること。それが美しい』 『自信がなくても前に進めばいい』 『女性らしさを定義しない自由』 『他人に迷惑をかけない人が理想』 本人はそんなつもりではなかったが、読者は大感動した。SNS『泣いた』 『救われた』 『哲学者では?』 『深すぎる』 『本質を突いている』 ファッション誌は特集を組み、女性誌は連載を希望し、経済誌はリーダー論として引用した。

 

 009-7は記事を読んでいた。 「私こんなこと言ったかな?」 003は疲れ切った顔で答えた。 「言ったのよ」 「そう?」 「でも意味が違うの」 「難しいな」 ブランド社長から電話が来た。 「次号の特集ですが、またインタビューを」 003が即答した。「私だけでお願いします」 しかし、読者アンケートでは、一位が圧倒的に009-7だった。理由は、『何を言うかわからないから』 『でも妙に納得できる』 『親戚のおじさんみたいで安心する』 『なのに世界一綺麗』 こうして、003の思惑とは違う方向へ進みながらも、銀の魔女の信者はさらに増えていった。

 

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