10人目のサイボーグ   作:れぷとん

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第13話 親衛隊誕生

 東京郊外、築三十年のアパート二階。1DK、六畳一間。壁にはアニメと特撮のポスター。机には未組立のプラモデル。床にはエナジードリンクの空き缶。そしてテレビ画面には 『未確認戦闘現象、再び発生! “銀の魔女”と呼ばれる謎の女性が――』 「キターーーーー!!」 叫んだのは三十二歳会社員、坂本 俊秀。趣味はSF、軍事、ネット掲示板巡回。恋人なし。休日はほぼ引きこもり。しかし今、彼の人生には“推し”がいた。 「レイナたん……今日も尊い……」 画面の中では赤い戦闘服を纏った009-7レイナが、巨大な無人兵器を電子能力で停止させていた。青白い電光、無機質な美貌、超人的戦闘。なのに、戦闘後のインタビュー映像では、『え?料理?しませんが?』 『掃除?必要になったらします』 『恋愛?意味がわかりません』 『休日?メンテナンスです』 女子力ゼロ。だがそこがいい! 「完璧超人なのにポンコツ生活能力!! 守らなきゃ!!」 坂本は立ち上がった。 「このままじゃ変な男が寄ってくる!!」 なお、自分が変な男である自覚はなかった。

 

 三日後、ネット掲示板に奇妙なスレッドが立った。 【銀の魔女親衛隊・第一支部】 参加条件。

・レイナたんを愛していること

・レイナたんの平穏を守ること

・変な男を近づけないこと

会員は七人。平均年齢三十五歳。全員オタク。なぜか行動力だけは異常に高かった。

 

 その日、東京湾岸部の巨大企業ビルでテロ事件が発生した。武装集団、爆薬、人質。 警察が包囲する中、空気が震えた。銀色の閃光とともに009-7が降り立った。 「対象確認。制圧します」 その瞬間、「レイナたーーーん!!」 「今日も美しいぞーー!!」 「無理しないでーー!!」 「栄養あるもの食べてーー!!」 道路脇から横断幕が出現した。 【銀の魔女親衛隊】 【電子の女神】 【推しは地球を救う】 009-7が止まった。 「……何ですか、あれは」 警察官が困った顔で答えた。 「不明です」 「敵ですか?」 「たぶん違います」 「ではなぜあんなに鬱陶しいのですか」

 

 テロリスト側も困惑していた。 「なんだあいつら!?」 「応援団……?」 「いや待て、銀の魔女の支援組織かもしれん!」 「くそっ、政府の特殊部隊か!!」 完全に誤解された。戦闘開始、銃声、爆炎、電撃。009-7は圧倒的だった。電子戦能力で敵の照準システムを狂わせ、ドローンを乗っ取り、ビル全体の電力網を掌握した。そのたびに、 「レイナたん最強ーー!!」 「そこだーー!!」 「回避モーション神!!」 「今の電子戦エグい!!」 野球観戦みたいなノリで実況が飛ぶ。009-7のこめかみに青筋が浮かんだ。 「……うるさいですね」

 

 十分後、事件は終了した。テロリスト壊滅、人質無傷。いつも通り完璧。だが、 「レイナたん握手してください!!」 「サインを!!」 「親衛隊会員証を!!」 オタク集団が押し寄せた。警官が慌てて止めた。009-7は無表情のまま彼らを見た。 「……あなたたちは何なのですか」 坂本は胸を張った。 「俺たちは!」 全員で叫ぶ。 「レイナたんを変な男から守る会です!!」 沈黙、風が吹いた。009-7は数秒停止した。電子脳が処理不能になっていた。 「……意味がわかりません」 「つまり!」 坂本は熱弁した。 「レイナたんは美少女すぎる!!だから悪い男が寄ってくる!!なので我々が防壁になるのです!!」 「……」 「安心してください!!」 「……」 「我々は敵ではありません!!」 「……あなた方自身が十分危険人物です」 あまりにも正論だった。

 

 その後、銀の魔女親衛隊はなぜか存続した。009-7の出現地点に高確率で現れ、妙な横断幕を掲げ、空気を読まずに応援し、時には差し入れまで持ってくる。 「レイナたん! 栄養バランスを考えた弁当です!!」 「毒物検査は?」 「済ませました!!」 「なぜそんなに手際がいいのですか」 「オタクだからです!!」 意味不明だった。

 

 しかし、ある日、敵組織の刺客がレイナを狙撃しようとした瞬間、坂本が偶然転倒し、その拍子に狙撃手の射線を遮った。弾丸は外れた。009-7が即座に敵を排除した。静寂、坂本は震えながら言った。 「お、お役に立てましたか……?」 009-7は少しだけ沈黙し、ほんの僅か。本当に僅かだけ微笑した。 「……ありがとうございます」 その瞬間、坂本は気絶した。 「尊すぎる……」 救急車で運ばれていった。後日、銀の魔女親衛隊の会員数は三倍になったという。

 

 県立蒼南高校二年、朝倉 雄太郎は、昼休みになると決まって窓際の席から校門を見る癖があった。理由は単純だ。銀の魔女――009-7、テレビで世界中を騒がせている超存在が時々この学校に来るからだ。もちろん正式名称は別にあるらしい。国際機関所属だとか、超能力者だとか、電子戦特化だとか、軍事機密だとか、色々言われている。だが世間では皆、こう呼ぶ。 「銀の魔女」 銀色の髪、圧倒的な美貌、そして戦場を一瞬で制圧する電子の超能力。ニュース映像では無表情に敵を叩き潰すくせに、学校に来る時はジャージ姿でコンビニ袋をぶら下げていたりする。そのギャップが破壊力抜群だった。しかも、 「……おはようございます」 娘の家族として普通に挨拶してくる。それで男子生徒がやられた。朝倉もやられていた。好きだった。たぶん、いや絶対。だが告白する勇気は無かった。同級生の中には玉砕覚悟で行った猛者もいた。 『君みたいな人を幸せにしたい!』 とか言っていた。なお009-7は、『意味がよく分からない』と真顔で返していた。強い。

 

 最近、テレビ映像に妙な連中が映るようになった。戦闘現場、爆発、逃げ惑う人々。 その遠景に 『銀の魔女親衛隊』 と書かれたハチマキ集団、なぜか応援幕、なぜかサイリウム。 『レイナたーん!!』 『世界を救ってー!!』 『踏んでくださーい!!』 カオスだった。しかも時々、009-7本人がものすごく嫌そうな顔をしている。あの無表情気味の009-7が露骨に嫌そう。 朝倉はテレビの前で叫んだ。「お前ら迷惑かけてんじゃねぇ!!」 母親に「急にどうしたの」 と言われた。

 

 三日後、都内湾岸部に巨大兵器出現。009-7出動。当然のように親衛隊も出動。朝倉もいた。 「……本当に来ちまった」 現場は避難区域外ギリギリ。警察の規制線、野次馬、報道ヘリ。そして、「レイナたーん!! 頑張えええええ!!」 「今日も銀髪が神々しいぞー!!」 「結婚してくれー!!」 いた、親衛隊である。平均年齢高め。妙に統率が取れている。無駄に装備が本格的。朝倉は思った。 (思ったよりヤバい集団だ……) その中央にいた男が振り返った。眼鏡、リュック、早口、見るからにオタク。 「おや!?君も同志かね!?」 「違います!!」 即答だった。 「あなた達、迷惑かけてるじゃないですか!」 「何を言う! 我々は銀の魔女を精神的に支援しているのだ!」 「絶対ストレス与えてますよね!?」 「それは否定できん!」 「できないんかい!」 周囲の隊員たちも頷いていた。 「最近、視線が冷たい」 「ご褒美では?」 「違うだろ!」 朝倉は頭を抱えた。その時だった。遠方で閃光。巨大機械兵器のセンサー群が一瞬でブラックアウトする。銀色の光が走った。009-7が空中に跳ぶその姿は、やはり美しかった。 だが、 『……またいる』 拡声通信に乗った声が、微妙に嫌そうだった。 親衛隊は歓喜した。 「レイナたんが認識してくれた!!」 「存在を覚えられている!!」 「やったあああ!!」 「ポジティブすぎるだろ!」 朝倉が叫んだ瞬間。 敵機械兵器の一部がこちらへ砲口を向けた。避難が遅れたのだ。 「危ない!!」 親衛隊が一斉に前に出た。 「総員、防御体勢!!」 「いや何その統率!?」 だが次の瞬間、青い光。砲撃は空中で消滅した。そしていつの間にか、彼らの背後に青年と少女が立っていた。青年はイケメン、少女は金髪、青い瞳、優雅な雰囲気。009と003だった。親衛隊全員が固まった。朝倉も固まった。003はにっこり微笑んだ。 「あなた達」 優しい声だった。 「009-7に迷惑をかけていますね?」 全員が正座した。

 

 その後、なぜか近隣のファミレスで003による説教タイム。 「応援するのは良いんです」 「はい……」 「でも尾行してはいけません」 「はい……」 「盗撮も駄目です」 「はい……」 「戦場に来るのは論外です」 「申し訳ありません……」 親衛隊、壊滅。 朝倉も一緒に正座していた。 「君は比較的まともですね」 003が言った。 「え?」 「でも現場に来ました」 「……はい」 「つまり同類です」 「ぐっ」 反論できなかった。003は小さくため息をついた。 「彼女は、ああ見えて不器用なんです」 その表情は少し優しかった。 「普通の生活も、友達も、実は結構大事にしてるんですよ」 朝倉は少し驚いた。テレビの中の銀の魔女はもっと冷たい存在に見えていたからだ。 「だから……なるべく普通に接してあげてください」 「……はい」 003は微笑んだ。その瞬間だった。親衛隊隊長が震える声で言った。 「なんという慈愛……」 「まるで聖母……」 「お姉様……」 朝倉もつい口にしていた。 「お姉様……」 003が固まった。 「え?」 数秒後。親衛隊全員が一斉に頭を下げた。 「003お姉様!!」 「導いてください!!」 「レイナたんを陰から支えます!!」 「ストーカーはやめます!!」 「たぶん!!」 「最後が不穏です!」 003は頭を抱えた。遠く離れたビル屋上。戦闘を終えた009-7が、通信越しにその様子を見ていた。 『……何これ』 本気で困惑していた。

 

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