最近、009-7の甥の彼女である詩織は機嫌が悪かった。本人は隠しているつもりだった が、付き合いの長い甥にはわかった。 「怒ってる?」 「怒ってない」 完全に怒っていた。理由もわかっていた。009-7問題である。正確には、009-7の情報を得るために甥に群がる女子学生問題だった。詩織だって女の子だ。ファッションは好きだ。REINAラインも気になるし、未発表新作なんて見てみたい。正直に言えば、かなり欲しい。しかし、我慢していた。理由は単純だった。彼氏と009-7に迷惑をかけたくなかった。だから遠慮して聞かなかった。ところが、周囲は違った。 「ねえ!」 「次の新作!」 「写真!」 「情報!」 毎日、学食、図書館、キャンパス。二人で歩いていても、「ちょっと聞きたいんだけど!」割り込まれる。詩織は笑顔を保っていた。しかし、限界が来た。
ある日、中庭で二人で話していた。珍しく時間が合ったのでゆっくりできる。そう思った瞬間に「ねえ!」また来た。 「レイナさんの」 そこまでだった。詩織は静かに立ち上がった。笑顔だった。しかし怖かった。 「ねえ」 周囲が静かになった。女子学生たちが固まった。 「迷惑かけてんじゃないわよ」 静かな声だった。だからこそ怖かった。 「え?」 「彼に聞けば何でも出てくると思ってる?」 さらに静かになる。 「私たちの時間なんだけど?」 誰も反論できなかった。そして、詩織は言った。 「情報が欲しいなら、私を通せ」 その場にいた全員が思った。 本気で怒らせた。
その日の夜、詩織は行動した。009-7へ連絡した。 「相談があります」 『どうしたの?』 即返信がきた。いつものことだった。さらに、003とも相談した。高級ブランド広報とも相談。詩織は元公安エージェントで超有能だった。数週間後にはシステムが完成した。公式情報、解禁可能情報、イベント情報、ファッション情報、全部整理した。広報と003が承認済みだった。009-7本人は『そういうことなら任せた』 丸投げだった。いつも通りだった。
結果は大成功。女子学生たちは「詩織さん」 「次の情報は?」 「イベントは?」 完全に窓口になった。しかも、情報の精度が高い、信頼性抜群だった。ブランド側も003も喜んだ。甥は彼女と心置きなく一緒に入れて機嫌がよかった。009-7も楽になった。全方位で利益があった。そして、詩織の立場が圧倒的に強くなった。彼氏の隣で堂々としていた。誰も割り込めなかった。女子学生たちも理解した。009-7ルートの正規窓口、逆らう理由がなかった。
しかし、当然面白くない者もいた。女子学生の一部が「調子に乗ってる」 「彼氏のコネじゃん」 「運が良かっただけ」 陰口が始まった。もっとも、その話を聞いたある女子学生がぽつりと言った。 「でもさ」 「何?」 「私たちだったらできるかな」 静かになった。 「003さんと交渉して、ブランド広報と話して、009-7さんを説得して、全部まとめるんだよ?」 できる気がしなかった。詩織は努力したのだ。人間関係も調整も全部。だからこそ今の立場がある。
その頃、009-7はリビングでくつろいでいた。 「詩織すごいな」 感心していた。003も頷いた。 「本当にね」 「助かった」 「助かるわ」 009-7は少し考えて 『詩織、いつもありがとう』 LINEを送った。数秒後、詩織のスマホが震えた。メッセージを見て少し笑った。苦労は多いけど悪くない。そんな風に思えた。