009-7の妹は普通のおばちゃんである。子供がいて、近所付き合いをして、特売日にスーパーへ行く。そんな日常だった。兄が世界的有名人になったことだけが普通ではなかった。テレビをつけると兄が出ている。雑誌を開くと兄が載っている。ニュースを見ると兄が出ている。しかも兄なのに美少女だった。しかし、慣れてしまった。 「まあ、兄だし」 最近ではそんな感じだった。高級ブランドの専用ラインができたことも知っていた。女性誌の記事も見た。しかし、「私には関係ないかな」と思っていた。もう若くないし、高級ブランドを買う予定もない。自分には縁がない。そう思っていた。
ある日の午後、近所のスーパーの野菜売り場でキャベツを見ていた。すると、近くで女子高生たちが盛り上がっていた。 「REINAライン見た?」 「見た!」 「新作かわいい!」 「欲しい!」 楽しそうだった。背伸びしたい年頃である。微笑ましく思った。その時、一人の女子高生が気付いた。 「あっ!」 全員が振り向いた。妹は嫌な予感がした。 「あの!」 「はい?」 「009-7さんのご家族ですよね!?」 終わった。妹は悟った。逃げられない。 「まあ、そうだけど」 「きゃあああ!」 なぜか叫ぶ。周囲の客まで見ていた。女子高生たちは目を輝かせた。 「009-7さんって、どうやって服選んでるんですか!?」 妹は考えた。兄、いや今は娘みたいな見た目だが、中身はどう考えてもファッションリーダーではない。 「わからないなあ」 本音だった。 「本人に聞いてみる?」 女子高生は硬直した。 「聞けるんですか!?」 「聞けるよ」 スマホを取り出して電話をかけた。呼び出し音が数回鳴った。 「もしもし」 出た。 「レイナさん」 「なに?」 女子高生たちは感動していた。本当に家族なのだ。 「服どうやって選んでるの?」 少し沈黙の後 「選んでない。デザイナーに任せてる」 歓声が上がった。 「さすが!プロ!」 「すごい!」 009-7本人「そうなのかな?」 本気だった。さらに「明日の服も聞いてください!」 女子高生たちが言った。妹は笑った。 「だってさ」 電話の向こう。 「説明しにくいな、写真送る」 数秒後、スマホが震えた。画像を開いた。全員、固まった。完全未発表の新作、最新コーデだった。しかも、本人着用。背景はリビング、片隅にみかん。生活感があった。しかし、服は完璧だった。女子高生たちは数秒沈黙した。そして、「きゃああああああ!」 スーパーに響いた。店長が何事かと思った。
当然、広まった。翌日、ブランド本社。「また流出した」 広報部長は遠い目をした。 「今度は誰です?」 「妹さんです」 「妹さんか……」 もはや怒る気力もない。数日後、スーパーで再び買い物をしていた妹は野菜売り場へ向かった。すると、「あっ!」 聞き覚えのある声がした。振り向くと、あの女子高生だった。人数が増えていた。「こんにちは!」 「こんにちは……」 「次の新作は!?」 「知らないよ!」 完全に囲まれた。その日の夜、妹から009-7に電話があった。 「お兄ちゃん」 「なに?」 「私も巻き込まれた」 電話の向こうで009-7はしばらく考えた。 「家族だからな」 「他人事みたいに言わないでよ!」 珍しく妹が怒った。009-7の後ろで003が笑いを堪えていた。