女子大学の昼休み、中庭は異様な雰囲気だった。 「お願い!」 「一回だけ!」 「本物の戦闘服見たい!」 「レイナさん呼んで!」 009-7の娘は十数人の女子学生に囲まれていた。 同級生だけではなく、他学年、他学部、留学生までいた。原因は昨夜のニュースだった。山岳地帯で武装勢力を制圧する009-7。赤い戦闘服をまとい、銀髪をなびかせながら歩く姿。 ミサイルが飛んできても平然として誘導をそらす。敵の無人機を停止させる。最後は子供を抱き上げて避難した。完全に映画の主人公だった。 「かっこよすぎる……」 「赤い戦闘服が似合いすぎる……」 「女の私でも惚れる……」 女子たちは真顔だった。娘は頭を抱えた。娘は負けた。 「……聞くだけ聞いてみる」 スマホを取り出した。数秒後 『もしもしー』 気の抜けた声がした。中東自由連邦元首で世界最強クラスのサイボーグ、009-7であった。 「学校で戦闘服見たいって言われてるんだけど」 『いいよー』 「即答!?」 『だって戦闘服だし』 「いやそうだけど!」 『服選ばなくていいし』 「そこ?」 『003にコーディネートしてもらわなくていいし、楽なんだよねー』 娘は頭痛を覚えた。
三日後の女子大学正門には異様な人数が集まっていた。 「来るらしい」 「本当に来るらしいよ」 「心臓がやばい」 「救急車呼んどく?」 一台の黒い車が止まり、ドアが開いた。現れたのは赤い戦闘服に銀髪、紅い瞳、風になびく黄色いマフラー。009-7だった。 「うわああああああああ!」 女子学生が悲鳴を上げた。 「本物!」 「本物だ!」 「かっこいい!」 「映画より綺麗!」 「顔ちっさ!」 「脚長っ!」 「肌白っ!」 大騒ぎであった。 009-7本人は困惑していた。 「え?そんなに?」 「いつも着てるんだけど」 その一言でさらに悲鳴が上がった。
大学周辺には別の人々も集まっていた。CIA、MI6、FSB、モサド、その他多数。全員の興味は戦闘服だった。銃弾を防ぐ、破片を防ぐ、耐熱性、耐薬品性、電子戦対応。しかも軽量。国家予算を投入しても再現できないのだ。各国の研究所が泣いている代物だった。 「接触できるか?」 「無理だ」 「近づけない」実際、009-7の周囲は女子学生で埋まっていた。 「触っていいですか!?」 「だめです」 「袖だけ!」 「だめです」 「肩だけ!」 「だめです」 情報機関は諦めなかった。ある女性工作員が女子学生に紛れ込んだ。 「素敵ですね」 「ありがとうございます」 「戦闘服は特注ですか?」 「そうですねー」 「素材は?」 「知らないです」 「重量は?」 「知らないです」 「防弾性能は?」 「知らないです」 「……」 工作員は困った。本当に知らない顔をしていた。009-7は技術開発担当ではなく着ているだけである。 「これ丈夫なんですよー」 そう言いながら、近くにあったベンチの角に袖をぶつけた。ガン!ベンチがへこんだ。戦闘服は無傷。周囲が静まり返った。
その日の夜、各国情報機関本部に大量の写真が送られていた。正面、側面、背面、接写、ズーム、動画、3D解析、AI解析。結果、結論《わからない》だった。一方、女子大学のSNSでは投稿数が爆発していた。 「レイナさん尊い」 「戦闘服最高」 「赤が似合いすぎる」 「かっこいい」 「美しい」 「天使」 「結婚したい」 世界中に拡散された。そしてその様子を見た003はため息をついた。 「レイナ」 「はい?」 「また騒ぎになってるわよ」 「え?」 「気付いてなかったの?」 「え?」 本当に気付いていなかった。003は頭を抱えた。004はコーヒーを飲みながら呟いた。 「相変わらずだな」 009は苦笑した。 「もう誰にも止められないね」