戦闘服姿の写真集は出版社の予想を遥かに超えた。タイトルはシンプルだった。 『REINA ― RED』 表紙は夕暮れの東京湾。赤い戦闘服に銀髪、風になびくマフラー、そして静かな横顔。中身はさらに凄かった。実際の戦場で撮影された写真、ヘリから降下する姿、無人機を見上げる姿、仲間と並んでいる姿。そして都内各所で撮影された戦闘服姿。夜の東京駅、秋葉原、お台場、銀座。どこにいても絵になった。発売初日には書店から消えた。電子版も売れた。海外版まで出た。
編集者たちは別のことに気付いてしまった。 「待って」 「この人も凄くない?」 写真の隅や戦闘記録映像に映る人物。003だった。普段は索敵、通信、支援。後方から仲間を助ける役割でニュース映像では目立たない。しかし、改めて見ると金髪をなびかせながら戦場を駆ける姿は圧倒的だった。 「美人すぎる」 「というか、この人ずっと一緒に戦ってるじゃない」 「今まで気付かなかった」 結果、003にも出演依頼が殺到した。イベント当日、009-7と003が並んで登場した。会場の反応は凄まじかった。歓声の質が前回と違った。 「003さーん!」 「レイナ様!」 「フランソワーズ!」 「お姉様!」 003は少し困った顔をした。009-7は手を振った。さらに歓声があがった。司会者が質問した。 「お二人は戦場でもご一緒ですが、普段はどうですか?」 003は即答した。 「レイナを監視しています」 会場爆笑。009-7は不満そうだった。 「酷くない?」 「放っておくと何するかわからないもの」 「そんなことないよ」 「先週も秋葉原で囲まれたでしょう」 「……あれは事故」 さらに爆笑だった。
イベント映像はSNSで拡散された。そして、なぜか新たな流行が始まった。戦闘服美女である。赤いジャケット、マフラー、ブーツ、ミリタリー風アレンジ。女性向けファッション誌が特集してコスプレイヤーも参戦した。コミケや文化祭で増殖した。SNSには大量の写真が投稿された。最終的には秋葉原のメイドカフェまで参入した。店長が宣言した。 「今月限定!戦闘服メイドイベント!」 従業員たちは大喜びだった。赤い衣装、銀髪ウィッグ、マフラー。人気は爆発した。
そんなある日の秋葉原を009-7は一人で歩いていた。昔から秋葉原は好きだった。電子部品、工具、ジャンク、最新ガジェット。見ているだけで楽しい。今日は003も004もいない。完全な自由時間だった。 「平和だなあ」 本人は上機嫌だった。そして、ふと見つけた。戦闘服メイドカフェ。店頭ポスターに大きく描かれた自分。009-7は立ち止まった。 「……なんだこれ」 興味本位で入った。店内では戦闘服風衣装の店員たちが元気な声で「お帰りなさいませ!」 そして、一人の店員が固まった。 「え?」 目の前に本物がいた。沈黙の後、悲鳴が上がった。 「レイナ様あああああ!!」 店内は大混乱だった。客が振り返り固まった。そして 「本物だああああ!!」 店内はパニックになった。五分後、店の外は人だかりができ、十分後にはSNSに拡散し秋葉原中に広がった。009-7は席で困っていた。「なんでこうなるんだろう」 店員たちは涙目だった。 「本物がお店に来るなんて……」 「夢みたいです……」 「ありがとうございます……」 完全にファンであった。その頃、003のスマホが鳴った。通知『レイナ様、秋葉原で発見』 『戦闘服メイドカフェ来店中』 『現場が大変なことに』 003は天を仰いだ。 「またなの?」 004はコーヒーを吹きそうになった。 「監視対象が目を離した瞬間に騒ぎを起こしたな」 009は苦笑した。「さすがレイナだね」
当の009-7はメイドカフェでオムライスを食べながら首を傾げていた。 「私はただ秋葉原を散歩していただけなんだけど」