世界中が009-7の戦闘服に熱狂している頃、別の意味で注目している人々がいた。各国の情報機関である。ワシントンD.C.のCIA本部では、会議室の大型スクリーンに00ナンバーサイボーグたちの戦闘映像が映し出されていた。分析官が説明した。 「問題は戦闘服ではありません」 画面が切り替わった。002から009そして009-7の全員が携行している武器が拡大表示された。 「こちらです」 映像が映された。山岳地帯で武装組織の戦車がいた。次の瞬間、009が片手で構えた銃が閃光を放つ。戦車が停止し装甲が溶解、内部機器が完全に破壊された。会議室が静まり返った。軍関係者が呟いた。 「ありえない……」 「口径は?」 「不明です」 「弾薬は?」 「確認できません」 「発射炎は?」 「ありません」 別の分析官が言った。 「光線兵器の可能性があります」 将軍が即座に否定した。 「不可能だ」 「現在の技術では電源が持てない」 「戦車砲並みのエネルギーを片手で運べるわけがない」 分析官は頷いた。 「我々もそう考えていました」 「しかし現実に存在しています」 会議室は重苦しい沈黙に包まれた。
同じ頃のロンドンのMI6。こちらでも同じ結論に達していた。 「戦闘服より危険なのは銃だ」 分析資料には数年分の映像が並んでいた。ブラックゴーストとの戦い。秘密基地襲撃、国境紛争、テロ組織掃討。共通点は、どの戦闘でも00ナンバーサイボーグは同じ武器を使用していた。そして、誰も同型品を発見できなかった。フランスDGSE、ドイツBND、日本の公安、イスラエル、インド。各国が独自に分析を進めた。結論は共通していた。ブラックゴーストは少なくとも一部の分野で現代科学を大幅に超えていた。ある報告書にはこう記されていた。 「サイボーグ技術ばかりが注目されてきたが、それは氷山の一角に過ぎない可能性がある」 問題は、ブラックゴーストが既に表立った活動をしていないことだった。研究施設はほぼ全て秘匿されており、研究者は行方不明、資料も焼却、データは消失。普通なら追跡不可能だった。しかし、各国には諦めきれない理由があった。戦車を片手で撃破する携行兵器、小隊が持ち運べる戦略兵器。そんなものが存在するなら軍事史そのものを書き換えてしまう。
数週間後、世界各地で極秘調査が始まった。南米のかつてブラックゴーストが使用したとされる鉱山、アフリカの放棄された研究施設跡地、東欧の秘密輸送ルート、中東の地下格納庫。次々と調査隊が送り込まれた。しかし、成果は乏しかった。施設は空で資料もない。設備は破壊済み。唯一残されたものは、恐ろしいほど高度な技術の痕跡だけだった。ある学者が報告書を書いた。 「もしこれらの痕跡が事実であるなら、ブラックゴーストは数十年先の技術を保有していた可能性がある」 その報告書は各国首脳にも共有された。
当事者である00ナンバーサイボーグたちは、日本のとあるファミレスで009がドリンクバーへ向かっていた。002が大盛りパフェを注文して005が肉料理を食べていた。003が呆れた顔をしていた。そして、009-7はスマホを見ていた。 「へえ」 003が尋ねる。 「何?」 「世界中で光線銃の研究してるみたい」 004が苦笑した。 「今さらか」 009も笑った。 「無理だろうね」 009-7は頷いた。 「そりゃそうだよ」 「ギルモア博士ですら完全には理解してなかった部分があるし」 一同が静かになった。ブラックゴースト、彼らを生み出した悪夢だった。同時に、人類史上最も危険な科学組織でもあった。その全貌は今なお不明だったのである。そして世界のどこかで古い研究データを求めて情報機関と企業と軍が密かに競争を始めていた。