それは009-7にとって、かなり珍しい失敗だった。ある日、ネット上に突然、009-7の下着姿とされる画像が出回り始めた。生成AIで作られた偽画像だった。しかし問題は、その出来が異様によかったことだった。 「なんだこれ!」 009-7はスマホを見て絶叫した。リビングにいた003が覗き込んだ。 「あら、よくできてるわね」 「感心しないで!」 「でも偽物よね?」 「当然でしょ!」 009-7は机を叩いた。 「第一、私はこんなの撮影したことない!」 「それはそうでしょうね」 004も呆れていた。だが問題はそこではなかった。世界中で拡散していたのである。しかも、「可愛い」 「天使」 「芸術」 「尊い」 などというコメントが大量についていた。 「なんでだ!」 009-7はさらに怒った。
三十分後、世界中で異変が起きた。スマホ、PC、クラウドから消えた。SNSからも消えた。サーバーからも消えた。管理者権限など意味がなかった。009-7本人が直接介入したのであった。電子戦能力全開で人類史上最大規模の画像削除作戦だった。世界中の男性たちは落ち込んだ。 「消えた……」 「昨日保存したのに……」 「クラウドにもなかった……」 「USBにもない……」 悲しみに包まれた。しかし、内容が内容だったので誰も大声では文句を言えないのだ。 「まあ仕方ないか……」 という空気になり事態は収束したかに見えた。
一週間後のある地方都市でパソコン好きの中年男性が積み置きしていたCD-ROMを整理していた。 「ん?」 何気なく開いたフォルダに画像があった。 「残ってる!」 その男性は震えた。理由は単純だった。CD-ROMだったのでネットにも繋がっていない、書き換えもできない。009-7の電子戦能力でも削除できなかった。 「これは……」 彼は数秒悩んだ。そしてSNSに書き込んだ。三時間後、ネットは再び炎上した。 「CD-ROMなら消せないのか!」 「物理媒体最強!」 「バックアップは大事!」 「文明の勝利!」 なぜか情報管理の教訓みたいな話になった。さらに、古いDVD、Blu-ray、MOディスク、外付けHDD、フロッピーディスクなど、あらゆるメディアの発掘作業が始まった。
009-7は再び激怒した。 「なんで復活してるんだ!」 003が肩をすくめた。 「あなたが全部消したからよ」 「意味が分からない」 「人類は消されると探したくなるのよ」 嫌な真理だった。その夜、ある巨大掲示板の件の画像スレッド。突然、名無しの書き込みが現れた。 「これは私が撮ったものじゃない!」 住民たちは固まった。さらに、「私はこんなじゃない!」 数秒後、スレッドが爆発した。 「本人来た!」 「本人だ!」 「本人降臨!」 「本物か!?」 009-7は熱くなっていた。 「偽物だって言ってるだろ! AI生成だ! 消せ! 今すぐ消せ!」 住民たちは大喜びだった。 「本人が反応してる!」 「保存した!」 「スクショした!」 「記念碑的瞬間!」
004が気付いた時には手遅れだった。 「お前、何やってる」 009-7は振り向いた。 「戦っている」 「戦えてない」 「だが反論しなければ」 「反論するほど広がる」 004は頭を抱えた。さらに悪いことに、翌日にはニュースサイトが報じた。 「009-7、ネット掲示板に本人降臨か」 「AI画像問題で異例の反論」 「電子戦能力者とデジタルアーカイブ問題」 なんだか学術的な話にまで発展した。ギルモア博士は記事を読みながらため息をついた。 「レイナ君」 「はい」 「なぜ書き込んだのかね」 「腹が立ったので」 「気持ちは分かるが」 「でしょう?」 「だが君は世界的有名人だ」 「うっ」 「一般人ならそれで済むが君が反応するとニュースになる」 「ううっ」 反論できなかった。結局、画像は偽物と認識されるようになった。しかし、本人が怒って掲示板に突撃した事件の方が有名になった。009-7は世界中のサーバーを消せるが、 自分で書き込んだ黒歴史は消せないのだった。