009-7はソファに座り、スマホを見つめていた。003が呆れ顔で言う。「本当にやるの?」 「危ない人たちだったら困るもの」 「まあそうだけど」 009-7は小さく息を吐いた。瞳が赤色に輝いた。電子戦能力起動。世界中の通信網へ侵入。対象特定、スマホ接続、強制送信開始。
その瞬間、世界中で無数のスマホが突然起動した。テヘラン、モスクワ、パリ、ニューヨーク、山奥の軍事基地、海上の貨物船、砂漠の野営地。全ての画面に同じ映像が表示された。銀の髪の少女、009-7。静かな目でこちらを見ている。 『……こんばんは』 特殊部隊員たちが固まる。革命防衛隊の男は息を呑んだ。本物。本当に本物だった。 『親衛隊に入りたい人へ』 009-7は静かに続ける。 『まず言っておくけど』 『戦争はダメ』 全員が耳を疑った。 『私は平和のために戦ってる』 その声は穏やかだった。 『暴力で世界を支配したいわけじゃない』 『誰かを傷つけたいわけでもない』 映像の中の彼女は、少し困ったように笑った。 『だから、変なことしたら追い出す』 『あとテロとか絶対ダメ』 世界最強クラスの超人がすごく真面目な生活指導をしていた。だが、その言葉は妙に胸に刺さった。 『平和が大事』 『私はそのために戦ってる』 革命防衛隊の男は震えていた。特殊部隊の男たちも沈黙していた。戦場を知る者ほどその言葉の重みが分かる。この少女は実際に命を懸けている。理想だけではない。本当に戦っている。しかも、世界中から恐れられながら。 『だから』 009-7は最後に言った。 『もし協力してくれるなら』 『人を守るために力を使って』 通信終了。
数秒の沈黙。そして、革命防衛隊の男が立ち上がった。 「……なんということだ」 震える声。 「この方は……本当に世界を救おうとしている」 目が燃えていた。 「自分はこの人のために戦う」 フランス、元外人部隊員。 「やべえ」 「本物の英雄じゃねえか……」 アメリカ。‘、元特殊部隊員。 「隊長」 「なんだ」 「俺、転職したいです」 「気持ちは分かる」 数日後、銀の魔女親衛隊はさらに巨大化した。だが以前と少し違っていた。 『災害支援チーム結成』 『戦災孤児支援募金』 『地域防犯活動』 『炊き出し』 『ボランティア参加者募集』 なぜか世界中のガチ勢たちが、本気で平和活動を始めたのである。親衛隊リーダーは頭を抱えていた。 「なんで元特殊部隊が炊き出ししてるの……」 その横で、009-7はスマホを見ながら呟いた。 「……なんか思ってたのと違う方向に進んでる」 003が苦笑する。 「でも、悪くないんじゃない?」 画面には。 世界各地で、“銀の魔女のために平和活動をする男たち”の写真が並んでいた。 009-7は少しだけ困った顔をして、小さく笑った。
00ナンバーサイボーグは中東に飛んだ。イラク北部の灼熱の砂漠の中に、奇妙な基地が存在していた。 かつては石油関連企業の資材集積所だった場所だ。今では世界各国の寄せ集め集団が駐屯していた。入り口には、各国語でこう書かれていた。 『銀の魔女親衛隊・中東支部』 しかも、その横には妙に達筆な日本語。 『炊き出し歓迎』 「なんで軍事基地なのに炊き出し推しなんだよ……」 004が頭を抱えた。 「だって、最初はファンクラブだったし」 009-7は真顔で答えた。 「そこからどうしてこうなったの!?」 003が叫ぶ。基地内部では元特殊部隊員たちが真面目な顔で巨大鍋を洗っていた。元革命防衛隊、元フランス外人部隊、元SAS、元デルタフォース、元どこかよく分からない民兵。全員が「銀の魔女のために世界平和を守る」と本気で信じている。なお、009-7本人は未だに状況を理解できていなかった。
「銀の魔女殿!」 黒髭の大男が敬礼した。 「本日の炊き出しは羊肉のシチューです!」 「ありがとう……」 009-7は困った顔で受け取った。すると別方向から声。 「魔女様! こちらは医療支援部隊です!」 「こちらは孤児支援チーム!」 「給水設備完成しました!」 「対ドローン迎撃網構築完了!」 「敵PMC部隊を撃退しました!」 「…………」 009-7は静かに天を仰いだ。 「ねえ003」 「なに?」 「私、普通の生活したかっただけなんだけど」 「もう無理だと思う」 003は優しく肩を叩いた。