009-7の訓練の日々が続いた。研究者としての009-7は、この人工人体が画期的であることを認めざるを得なかった。こんな技術がすでにあったとは!ある日、ブラックゴーストの施設が爆発した。00ナンバーサイボーグの反乱だった。警報が鳴り響き警備兵が叫んだ。「脱走だ!」 「00ナンバーを止めろ!」009-7は即座に行動した。監視網をハッキングし、電子ロックを解除。武装管理停止。警備兵は混乱した。部屋から出て走っていると廊下で004と遭遇した。右手の銃口が向けられる。「敵か」 「違う。私も逃げる」004は一瞬だけ彼女を見つめた。「……新型か」 「009-7」 「そうか」 彼は銃を下ろした。「行け!」
009-7は姿を消した。電子戦能力で戸籍を “榊レイナ”として偽装し、資金をハッキングで確保して東京の片隅でひっそり暮らし始めた。だがブラックゴーストの追跡は執拗で平穏は長く続かなかった。009-7は逃げながら思った。身体は少女、精神は老研究者。鏡を見るたび、奇妙な気分になった。髪の毛が寂しくなっていたおっさん時代の癖で頭頂をなでる。豊かなプラチナブロンドが手に触れた。そんな彼女を、ギルモア博士は気にかけていた。「ここへ来なさい。君は一人で抱え込みすぎだ」 「……私は、若者じゃない」サイバネティクスの研究者として今の自分の体が興味深かった。その罪の意識もあった。「苦しんでいるのだから、無理はしたらだめだ。仲間と一緒にいたほうがいい」その言葉は胸に残った。
004とは時々会うようになった。無口で、不器用で、静かな男だった。だが009-7を特別扱いしなかった。 「コーヒー」 「ありがとう」 「砂糖は?」 「三つ」 「多いな」 「脳が糖分を要求する」 「便利な言い訳だ」 そんな会話が心地よかった。004は彼女の中身が中年男性だったことも知っている。それでも態度を変えなかった。「なぜ優しい」 「君が苦しんでいるからだ」 「……」 「それだけでは不満か」 009-7は笑った。「十分すぎる」
ブラックゴーストは滅んでいなかった。新総統、新基地、新型兵器、そして、サイボーグ量産計画。世界規模の戦争が始まろうとしていた。00ナンバーサイボーグは再び戦う。 009-7も協力することになった。「私は前線向きじゃないぞ」 だが彼女の電子戦能力は圧倒的だった。敵衛星無力化、通信遮断、兵器暴走。戦局が変わっていく。009は笑って言った。「すごいな009-7!」 「年寄りを働かせるな」 「その見た目で言うなよ!」
ブラックゴーストの最終基地。宇宙軌道兵器と核ミサイルによる世界同時攻撃が行われた。00ナンバーサイボーグは全力で反撃した。009-7は電子空間へ潜った。視界が情報へ変わる。光の海、膨大なデータ、敵AIとの戦闘。過負荷で脳が焼けた。全核ミサイル停止。衛星制御奪取。「定年間際のおっさんを舐めるなよ!社会経験が違うぞ」
ブラックゴーストは崩壊し、世界は救われた。海辺の町で009-7は小さな研究所を開いていた。義肢、医療補助機器、神経接続技術。今度こそ、人を救うための研究を始めていた。004が来て言った。「また徹夜か」 「研究者だからな」 「身体に悪い」 「サイボーグに?」 004は小さく笑った。009-7は海を見た。夕焼け、穏やかな波。ようやく平和を感じた。「……なあ、004」 「なんだ」 「私は、人間だと思うか?」 004は即答した。「今も人間だ」その答えが、嬉しかった。