10人目のサイボーグ   作:れぷとん

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第19話 砂漠の支部

 日本の親衛隊本部。秋葉原の雑居ビル三階。 「えーと……現在、中東支部の武装人員は約三千名……」 「待て待て待て待て」 本部長が頭を抱えた。 「なんで増えてんの!?」 「SNSで『銀の魔女が難民を救っている』って拡散されまして……」 「うん」 「各国の元軍人が参加を……」 「なんで!?」 「あと、中東支部が独自に農地開発始めました」 「なんで!?」 「学校も作ってます」 「なんでぇ!?」 もはや理解が追いつかなかった。そもそも2,3ヶ月前までは、『銀の魔女かわいい』 と言ってペンライトを振っていた集団なのだ。なぜ準軍事組織になった。訳が分からないが、ほっておくわけにもいかないので現地に行くことにした。

 

 その頃、ブラックゴースト。 「……状況を説明しろ」 スカールが低い声で言った。大型モニターには映像。武装した親衛隊員たち。炊き出し、診療所。そして、銀色の髪を風になびかせる009-7。 「各地の親衛隊は、住民支援によって支持を獲得しています」 「さらに00ナンバーサイボーグが合流」 「民衆は彼らを英雄視しています」 「結果として……」 沈黙。 「……我々が悪の組織みたいになってるではないか!」 スカールが机を叩いた。実際、悪の組織だった。

 

 夜、基地の屋上で009-7は星空を見ていた。砂漠の夜風は冷たい。 「疲れてる?」 009が缶コーヒーを持ってきた。 「ちょっと」 009-7は苦笑した。 「なんかね……世界が変わっちゃった」 「うん」 「私、戦争を止めたかっただけなのに」 「でも助けられた人もいる」 009は静かに言った。 「君がいなかったら、死んでた人たちだ」 遠くでは、親衛隊員たちが焚き火を囲んでいた。アラビア語、英語、日本語、フランス語。 様々な言葉が飛び交っている。その中央で日本のオタク本部長が泣きながら叫んでいた。 「誰か説明してくれよぉぉぉ!!」 元革命防衛隊員が肩を叩く。 「同志、本部長」 「同志じゃねえ!」 「あなたの情熱が我々を導いた」 「俺ただのオタクだぞ!?」 009-7は思わず吹き出した。久しぶりに自然に笑えた。

 

 基地全域に警報が響いた。 『高速飛行体接近!』 『ブラックゴースト製サイボーグ反応!』 空、月明かりの中、無数の光が飛んでくる。ブラックゴーストの本格攻勢だった。009が立ち上がる。「来たか」 004がタバコを捨てた。 「今度は大軍だな」 そして、親衛隊員たちも武器を取った。誰一人逃げない。009-7は静かに前へ出た。 赤い瞳が夜空を見据える。 「……みんな、死なないで」 その言葉に。数千人が一斉に敬礼した。もう、銀の魔女ひとりの戦いではなくなっていた。

 

 砂漠の夜明けは静かだった。激戦の跡には、焼け焦げた装甲片と撃墜された無人機の残骸が散らばっている。ブラックゴーストの本格攻勢。加速装置を搭載した新型サイボーグ部隊、重武装飛行兵、無人攻撃機。それらを相手に00ナンバーサイボーグと親衛隊は一晩中戦った。そして――勝った。

 

 「いやー! 飛びながら撃つの楽しいな!」 002が陽気に笑った。隣では元戦闘機パイロットの親衛隊員たちが大興奮している。 「信じられん……あの速度で格闘戦を……!」 「しかも空中で方向転換してるぞ!?」 「人間じゃねえ!」 「サイボーグだからな!」 002は妙に嬉しそうだった。一方、「お前、爆破のタイミング分かってるな」 004が感心した顔で言った。相手は元特殊部隊員。 「昔、橋梁破壊任務を」 「なるほど」 なぜか二人は盛り上がっていた。009はというと、「加速中に視界どうなってるんですか!?」 「慣れかな……?」 「すげぇ……!」 親衛隊の若い隊員たちに囲まれていた。まるで部活の先輩である。

 

 少し離れた場所の炊き出しの列に一人の少女がいた。十歳くらい。痩せていて服もぼろぼろだった。家族はいない。戦争で全部失った。少女は昨夜、初めて見たのだ。空を裂いて戦う009を、炎の中を駆ける009-7を、傷ついた人を守る003を。まるで神話だった。特に009。マフラーを翻し光のように戦う姿。かっこいいと思った。でも、遠い世界の人だとも思った。自分とは関係のない、英雄の世界。そう思っていた。 「はい、どうぞ」 不意に声がした。顔を上げた。009だった。優しい笑顔で温かいスープを差し出していた。 「あ……」 少女は固まった。本物だ、本当にいる。 「熱いから気をつけてね」 009は自然に言った。少女は震える手で器を受け取った。 「……ありがとう」 「どういたしまして」 本当にそれだけだった。でも、少女の胸は苦しくなるくらい高鳴っていた。

 

 その時、「009ー、そっち足りてるー?」 009-7が歩いてきた。銀色の髪、朝日に輝く赤い瞳。戦闘中は恐ろしいほど強かったのに今はエプロン姿だった。しかも似合っている。 「大丈夫だよ」 「003がパン焦がした」 「ちょっと!?」 後ろから003の抗議が飛ぶ。 「だって量多いんだもん!」 少女は呆然と見つめていた。信じられないくらい綺麗だった。まるで物語の人たち。そして自然だった。 009と009-7、003。三人が並ぶ光景はあまりにもお似合いだった。 (……こういう人たちが、隣にいるんだ) 少女は少しだけ胸が痛くなった。自分とは違う世界。遠い人たち。でも、手の中のスープは温かかった。009が渡してくれた。ちゃんと自分を見てくれた。それだけで少しだけ幸せだった

 

 「……あの子、009のこと好きになったわね」 003が小声で言った。 「えっ」 009が固まる。 「いやいやいや十歳くらいだよ!?」 「009って昔から変にモテるし」 004が煙草をくわえながら言った。 「フラグ建築士だからな」 002まで頷いた。 「なんなのその言われ方!?」 009が抗議する。その横で009-7は少女を見ていた。少女はスープを大事そうに抱えて座っている。その顔には、久しぶりの笑顔があった。 「……よかった」 009-7は小さく呟いた。 「え?」 「笑えるようになった」 それが何より嬉しかった。 戦いは終わっていない。ブラックゴーストはまだ存在する。世界も混乱している。それでも守れたものが確かにあった。砂漠の朝日が静かに基地を照らしていた。

 

 

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