10人目のサイボーグ   作:れぷとん

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第20話 親衛隊本部長覚醒

 イラク北部、中東支部。地下防空壕。 「ひぃっ!?」 爆音。地面が揺れる。照明が点滅する。オタク本部長――本名、坂本俊秀、三十二歳は、毛布を被って震えていた。 「なんでこうなったんだよぉぉ……」 数ヶ月前まで普通の会社員だった。趣味はアニメ、推しは銀の魔女。やっていたことは、『レイナたん尊い』 とSNSに書き込む程度。それが今、 頭上ではサイボーグが空中戦をやり、外では元特殊部隊が実弾戦闘。しかも自分は、 『銀の魔女親衛隊本部長』 とかいう意味不明な肩書になっていた。 「いや無理だろこんなの……」 そこへ、『敵飛行兵接近!』 『西側防壁突破されます!』 通信が響いた。 外では銃声、爆発、怒号。坂本は震える手を握りしめた。 「……っ」 怖い。死ぬほど怖い。でも、頭に浮かんだのは戦っている009-7の姿だった。あんな細い身体で、あんな無表情で誰かを守るために戦っている。 「……俺」 坂本は立ち上がった。 「俺だけ逃げてる場合じゃないだろ……!」

 

 砂嵐の中、009が高速移動しながら敵を撃破していく。002が空を裂く。004が爆炎を撒き散らす。親衛隊員たちも応戦していた。その後方で、「ぎゃああああ!!」 坂本が弾薬箱を運んでいた。 「なんで俺出てきたんだよぉぉぉ!!」 「本部長! 伏せろ!」 「うわぁぁ!?」 元SAS隊員に引き倒される。頭上を弾丸が通過した。坂本は涙目になった。だが、視界の向こうに銀色の光が見えた。009-7が敵サイボーグを撃ち抜いた。振り返った009-7と一瞬だけ目が合った。 『危ないから下がって』 通信越しの声がした。坂本は呆然とした。こんな状況でも自分なんかを気にしている。胸が熱くなった。 「……くそ」 坂本は歯を食いしばった。 「俺だって……!」

 

 数週間後の日本、秋葉原。 「退職届、受理されました」 同僚が言った。 「本当に辞めるんですか?」 「はい」 坂本は静かに答えた。 「俺、やりたいこと見つけたんで」 銀の魔女親衛隊本部。以前より広いオフィスになっていた。世界地図、支援ルート、難民キャンプ一覧、医療物資、各国支部。完全に本格組織だった。 「えー、中東支部から報告です」 「はい」 「井戸建設完了」 「よし」 「診療所増設」 「いいぞ」 「学校建設開始」 「素晴らしい」 「あと武装勢力を三つ吸収しました」 「なんで!?」 坂本は頭を抱えた。だが以前と違う。逃げなかった。理解したのだ。世界には本当に助けを必要としている人たちがいる。そして、00ナンバーサイボーグだけでは手が足りない。 「……俺たちが支える」 坂本は真剣な顔で言った。 「戦うのはあの人たちだ。でも、その後ろを守る人間が必要なんだ」 親衛隊幹部たちが頷く。もはやただのファンクラブではない。国際NGO、巨大支援組織となった。そして一部地域では準国家組織になりつつあった。

 

 銀の魔女親衛隊中東支部。難民キャンプ、学校、診療所、給水設備、市場、治安維持部隊。周辺住民は言い始めていた。 「政府よりマシだ」 結果、周辺地域は実質的に親衛隊支配下に入っていく。当然、世界の大国が放置するはずもなかった。

 

アメリカ某所。「確認ですが」 スーツの男が言った。「この“銀の魔女親衛隊”とは、なんです?」 CIA分析官は疲れ切った顔で答えた。 「発端は日本のオタク集団です」 「……は?」 「現在は中東で数万人規模の支持基盤を持っています」 「待ってください」 「はい」 「なぜそうなった?」 「こちらが聞きたい」

 

ロシア。 「軍事組織か?」 「いえ、人道支援組織です」 「ではなぜ戦車を持っている?」 「寄付されたそうです」 「誰に!?」

 

中国。 「危険思想集団の可能性あり」 「指導者は?」 「日本人男性、三十二歳」 「軍歴は?」 「ありません」 「……意味が分からん」

 

 そして、009-7本人も分かっていなかった。 「ねえ003」 「なに?」 「なんで親衛隊、戦車持ってるの?」 「知らない……」 003も遠い目をした。外では親衛隊員たちが敬礼している。 「銀の魔女様!」 「本日も平和維持任務に行ってまいります!」 「……気をつけて」 009-7は小さく答えた。 自分はただ誰かを守りたかっただけなのに。 世界は、どんどん想像もつかない方向へ進んでいた。

 

 

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