10人目のサイボーグ   作:れぷとん

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第22話 帰国

 東京、霞が関。外務省の会議室は異様な空気に包まれていた。「つまり」 アメリカ側の外交官が低い声で言った。 「“銀の魔女親衛隊”は日本政府の管理下にはない、と?」 「はい」 日本側代表は冷静に答えた。 「民間NGOであり、政府とは直接関係ありません」 「しかし本部は東京にある」 「ええ」 「しかも中東地域を実効支配している」 「人道支援活動の結果です」 「戦車がありますが?」 「寄付らしいです」 「誰から?」 「……確認中です」 沈黙。 各国代表が頭を抱えていた。

 

 ロシア代表。 「確認したい」 「はい」 「なぜ日本のオタク集団が軍閥化した?」 「我々も知りたい」 中国代表。 「銀の魔女本人はどういう立場なのか」 「本人は“平和活動中”とのことです」 「武装組織を率いているが?」 「本人は否定しています」 「だが軍隊が敬礼している」 「そうですね……」

 

 日本政府内部でも意見は割れていた。 「危険すぎる」 「しかし現地住民から圧倒的支持があります」 「ブラックゴースト掃討にも貢献している」 「だが国家を超えた武装勢力だぞ!」 「しかもトップが日本人女性」 「いや正確にはサイボーグ……」 「そこも頭痛い!」 会議室は混乱していた。

 

 一方、中東。銀の魔女親衛隊支配地域。そこはもはや、ただの難民キャンプではなかった。学校、病院、市場、井戸、発電設備、治安維持隊。そして、銀の魔女の巨大な壁画。 住民たちは口々に言う。 「ここは安全だ」 「子供が飢えない」 「空爆も来ない」 「親衛隊が守ってくれる」 結果、国際社会は無視できなくなった。

 

 数日後、帰国。成田空港、到着ロビー。 「来たぁぁぁ!!」 「銀の魔女様ー!!」 「こっち向いてー!!」 「世界平和ー!!」 大混乱だった。一般人、ファン、報道陣、親衛隊志望者、SNS配信者、空港職員。全部集まっていた。 「……なにこれ」 009-7が呟く。その左右には完全武装ではないが、どう見てもヤバい雰囲気の護衛の親衛隊員たち。元デルタフォース、元SAS、元革命防衛隊。全員サングラス、全員目つきが危険。なのに「銀の魔女様、足元お気をつけください」 「押さないでくださーい」 妙に礼儀正しい。結果、余計に怖かった。 「ぎゃー!! 本物!!」 「かわいい!!」 「世界一強いのに美人!!」 「結婚してください!!」 「危険ですので下がってください」 護衛が低い声で制止する。すると群衆がさらに盛り上がる。 「SPもかっこいい!!」 「映画みたい!!」 009-7は完全に動けなくなっていた。

 

 その時、遠くから叫び声。 「レイナたぁぁぁん!!」 「あ」 009-7が固まる。オタク本部長・坂本であった。なぜか号泣している。 「世界デビューおめでとうございますぅぅぅ!!」 「やめて」 即答だった。だが、周囲の親衛隊員たちは感動していた。 「……あの男」 「最初期メンバーか」 「古参だ……」 「銀の魔女様を最初から支えた者……!」 勝手に伝説化されていた。 「本部長!」 護衛隊員たちが一斉に背筋を伸ばした。そして、ビシッ!! 中東支部の歴戦の男たちが坂本に向かって最敬礼した。周囲が静まり返った。 「……え?」 「あの人、そんな偉い人なの?」 「オタクっぽいけど……」 坂本は涙目で009-7の前に立った。 「レイナたん……ご無事で……!」 「……誰のせいでこんな組織になったと思ってるの」 「オレです!!!」 即答だった。 「ここまで清々しいと逆に偉いわね……」 坂本は鼻息荒く続けた。 「日本本部、総力をあげて歓迎準備しております!会議室には巨大モニター、各国支部とオンライン接続、限定グッズも――」 「作ったの?」 「はい!」 「なんで?」 「愛です!」 009-7は頭を抱えた。その日の夜、銀の魔女親衛隊・日本本部。かつては普通の雑居ビルだった場所は完全に様変わりしていた。世界地図、各国支部との通信設備、NGO活動報告、炊き出し記録、難民支援資料。さらに壁一面には『銀の魔女様 世界平和演説』 『中東支部活動記録』 『009-7語録』 「なんなのこれ……」 「聖典です!」 「違う」 一方、歴戦の親衛隊員たちは本気だった。 「魔女様、シリア支部より医薬品輸送完了」 「北アフリカ支部、停戦交渉成立」 「南米支部、ブラックゴースト残党を確認」 完全に国際組織だった。坂本は誇らしげだった。 「最初はオタクの集まりだったんですけどねぇ……」 「どうしてこうなったの……」 「愛が世界を変えたんです!」 「たぶん違う」

 

 帰国の数日後、009-7は久しぶりにかつての自宅へ戻った。玄関を開けた。 「ただいま」 家族は数秒固まった。「お、おかえり……」 妻は泣きそうだった。ニュース番組を指差した。 「あなた……この前、戦車の上に乗ってなかった?」 「乗ってた」 「そう……」 理解を諦めた。翌日、「お願い! 一回だけ学校来て!」 娘に頼み込まれ、009-7は学校へ向かった。校門につくと、一瞬で空気が変わった。 「銀の魔女だ!!」 「本物!?」 「テレビより綺麗……」 生徒たちが殺到する。男子は顔を真っ赤にし、女子は悲鳴をあげ、教師たちは頭を抱えた。娘の同級生の女子――009-7に憧れた少女は、完全に興奮していた。 「かっこいい……! 現地の動画、百回見ました!!」 「そんなに?」 「親衛隊のドキュメンタリーも全部見ました!」 横では、以前009-7に告白した男子が青ざめていた。 (無理だろこれ……) 相手はもはや世界的英雄だった。

 

 放課後、商店街近くで。かつて009-7に絡んだチンピラの青年が、偶然009-7を見かけた。 「あ……銀の魔女……!」 勇気を出して近寄ろうとした瞬間。ガシッ!! 「止まれ」 黒服の親衛隊員が腕を掴んだ。 「ひっ!?」 さらに周囲に数人展開。殺気が凄い。 「この男、過去に魔女様へ接触履歴あり」 「危険人物か?」 「違います!! ちょっと絡んだだけです!!」 空気が凍った。 「……絡んだ?」 親衛隊員たちの目が変わる。 「貴様ァ!!」 「すみませんでしたぁぁ!!」 青年は半泣きだった。そこへ009-7がやってきた。 「……もういいから」 「しかし魔女様!」 「昔の話でしょ」 親衛隊員たちは不満そうだったが従った。青年は震えながら頭を下げた。 「……俺、今ならわかります。 あんた、本当に世界守ってたんですね……」 009-7は少し困った顔で笑った。 「そんな大したものじゃないよ」 だが、周囲の人々は思っていた。砂漠で軍勢を率い、超兵器と戦い、難民を救い、それでも普通に笑う少女。その姿は、もう“伝説”そのものだった。

 

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