その時、轟音とともに空が裂けた。戦場の全員が空を見上げた。 「なんだ!?」 夜空を高速で突き抜ける影。002だった。 「待たせたなァ!!」 直後、敵戦車部隊が爆散した。 004だった。009は超高速で突入した。さらに、電子機器が一斉に狂い始めた。 『通信不能!!』 『レーダー消失!!』 『ドローン制御不能!!』 銀色の髪が戦場に舞った。009-7が来た。 「……うちの仲間に何してくれてんの」 静かな声が通信機から聞こえた。敵兵たちは本能的に理解した。“本物”が来た。戦況は一瞬で変わった。009が前線を切り裂き、004の火力が陣地を粉砕。002が制空権を奪う。003が索敵し、009-7が敵指揮系統を完全破壊した。親衛隊員たちが叫んだ。 「魔女様だ!!」 「00ナンバーが来たぞ!!」 士気が爆発した。反撃開始。
三日後の政府軍本拠地、大統領府。爆煙の中を009-7たちが歩いていた。政府軍は崩壊。武装勢力も壊滅。指導者たちは逃亡した。残ったのは銀の魔女親衛隊だけだった。 その後、世界は騒然となった。 『中東某国政府崩壊』 『銀の魔女勢力が首都制圧』 『親衛隊が行政機能維持』 略奪は起きなかった。虐殺もない。炊き出し、病院再建、学校保護、治安が改善し始めた。世界各国は困惑した。 「……どういうことだ?」 「武装勢力のはずでは?」 首都中心部の旧政府庁舎。そこには新しい旗が掲げられていた。銀色の翼を模した紋章。親衛隊本部長・坂本は、日本から中継を見ながら震えていた。 「えっ……。 えっ?」 003も困惑していた。 「なんで国家になってるの……」 009-7はもっと困惑していた。 「いや私もわからないんだけど」 しかし、現地の親衛隊員たちは本気だった。 「魔女様。 行政評議会の件ですが」 「予算案が――」 「難民受け入れ区域を――」 「待って。 なんで私に聞くの」 「国家元首ですので」 「違う!!」 だが周囲は誰も疑っていなかった。
その夜、屋上で009-7は夜景を見下ろしていた。 「……なんでこうなるかなぁ」 隣に009が来た。 「でも、みんな助かってる」 「それはそうだけど」 「オレたちが守ったんだよ」 遠くでは子供たちの笑い声が聞こえていた。瓦礫の街でようやく戻った日常。009-7は小さく息を吐いた。 「……責任重大すぎる」 009は笑った。 「一人じゃないだろ?」 すると、後ろから003が現れた。 「ジョー。またレイナと二人きり」 「えっ」 「ちょっとこっち来なさい」 「なんで!?」 「なんでもです!」 009が引きずられていった。009-7は思わず吹き出した。「私はおっさんだぞ」 世界情勢は最悪だった。 だが仲間たちはいつも通りだった。
旧大統領府、現在は“暫定統治評議会”本部となった建物。その最上階の会議室に、西側石油メジャーの幹部たちが集まっていた。超巨大企業。国家予算すら超える資金力を持つ怪物たちである。彼らは余裕の笑みを浮かべていた。 「銀の魔女閣下」 白髪の男が穏やかに言った。 「我々は敵対したくありません」 009-7は無表情だった。003は隣で警戒している。004は窓際で腕を組み、009はソファに座っている。002だけが紅茶を飲んでいた。 「つまり?」 「油田運営の継続です」 男は書類を差し出した。 「以前の政府と同条件、いや、それ以上でも構いません」 数字が並ぶ。莫大な金額、個人口座、秘密基金、海外資産。露骨な賄賂だった。003が呆れた顔をする。 「うわぁ……」 009は苦笑い。 「隠す気ないんだ」 幹部は余裕だった。 「現実とはそういうものです」 009-7は書類を閉じる。 「嫌」 即答だった。空気が止まった。 「……聞こえませんでしたな」 「嫌だって言った」 男の顔から笑みが消えた。 「我々を敵に回す意味を理解していますか?」 「別に」 「石油輸出は停止される。金融制裁も起こる。あなた方の国家は崩壊する」 すると、カツンと足音を立て 004が一歩前に出た。静かな殺気。会議室の空気が凍った。002も笑顔を消していた。009は無言。003の目も冷たい。そして、009-7。赤い色の瞳がまっすぐ幹部を見た。 「脅し?」 電子音が走った。会議室のモニターが一斉に点灯。そこには、各企業の裏帳簿、秘密口座、違法工作、戦争支援記録があった。幹部たちの顔色が変わった。 「な……」 「私、電子戦得意なんだよね」 009-7は淡々と言った。 「次やったら全部世界に流す」 沈黙。004が低く言った。 「……帰れ」 幹部たちは完全に怯えていた。目の前にいるのは、自分たちの秘密を全部握った怪物だった。彼らは何も言い返せなかった。
数時間後、噂は爆発的に広がった。 『銀の魔女、石油メジャーを追い返す』 『賄賂拒否』 『脅迫に屈せず』 親衛隊本部では坂本本部長が号泣していた。 「レイナたぁぁぁん!! 世界を相手に戦ってるぅぅぅ!!」 「うるさい」 009-7は通信越しにげんなりしていた。しかし、現地では熱狂が起きていた。難民キャンプで古いラジオからニュースが流れていた。人々が静かに聞いていた。老人が呟いた。 「……本当にこれまでの政府とは違うのか」 以前の権力者たちは、金を受け取り、民衆を見捨て、国外へ逃げた。だが、 銀の魔女は断った。子供たちの食料、病院、学校を守るために。若い母親が涙ぐんだ。 「この国は、変わるかもしれない……」
首都の街頭モニターに009-7の演説映像が映った。 『この国の資源は、この国の人のために使う』 歓声。人々が旗を振る。 「銀の魔女!!」 「レイナ!!」 「我らの政府だ!!」 支持率は爆発的に上昇した。一方、009-7本人は執務室で頭を抱えていた。 「……なんで国家運営なんてしてるんだろ私」 机には山積みの書類、予算案、インフラ復旧、教育改革。003が笑いながらコーヒーを置いた。 「人気者ねぇ」 「全然嬉しくない」 そこへ009が来た。 「街、すごかったよ。 みんな笑ってた」 009-7は少しだけ黙った。 「……なら、まぁいいか」 外から歓声が聞こえた。窓の下には広場を埋め尽くす民衆。銀色の旗、希望を見る目。かつて“銀の魔女”と恐れられた少女は、いつの間にか一つの国そのものになっていた。