10人目のサイボーグ   作:れぷとん

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第26話 新しい国

 国連安全保障理事会は紛糾していた。巨大スクリーンには、砂漠地帯の衛星写真が映し出されている。赤い線で示された旧国境。そして、その外側へ食い込むように広がった、銀の魔女親衛隊支配地域。 「武力による現状変更は断じて認められない!」 西側大国の代表が机を叩いた。 「しかし、攻撃を開始したのは周辺国側だ」 別の国が反論した。 「難民キャンプを砲撃した証拠も出ている」 「だが結果として領土を拡張している!」 「それは防衛線の押し戻しだ!」 もはや収拾がつかなかった。そして、その議論の中心人物は当の会議場にはいなかった。

 

 砂漠の新首都、かつて軍閥の拠点だった街は、いまや近代的な行政都市へ変貌しつつあった。発電所、浄水施設、病院、学校、道路建設。油田収益は軍閥幹部の懐ではなく、国家インフラへ投入されていた。難民たちは言った。 「ここなら生きられる」 周辺国の若者たちは密かに越境した。 「仕事があるらしい」 「賄賂を払わなくていいらしい」 「女が学校に行けるらしい」 それは周辺独裁国家にとって、危険思想そのものだった。

 

 司令部で巨大モニターを見ながら004が低い声で言った。 「……面倒なことになったな」 「国境問題ですか?」 009-7がコーヒーを置いた。003は眉をひそめた。 「完全に包囲され始めてるわ。外交的にも軍事的にも」 002はソファに寝転がったまま言った。 「ま、そりゃそうだろ。急に『まともな国』ができたら周りは困る」 「言い方」 003が呆れた。009は静かにモニターを見ていた。避難民の列、学校で笑う子供たち、新しい住宅街。 「……でも」 009がぽつりと言う。 「ここに来た人たち、前より幸せそうだよ」 部屋が静かになった。一方、日本の銀の魔女親衛隊本部。 「国連非難決議!?」 本部長・坂本が叫んだ。 「え、うそ!? え!? 俺たちそんな大ごとになってんの!?」 スタッフが半泣きで叫ぶ。 「問い合わせ三万件です!」 「寄付サイトまた落ちました!」 「海外支部が勝手に『国際義勇軍』名乗り始めました!」 「なんで!?」 「知りません!」 坂本は頭を抱えた。 「俺、最初はレイナたんを守りたかっただけなんだけど!?」 「いま国家運営してますよね?」 「なんでだよ!!」

 

 その頃の国境地帯。夜の監視塔の上で009-7は一人で砂漠を見ていた。 遠くに灯る難民キャンプの明かり。静かな風。そこへ003が来た。 「また一人で考え事?」 「……うん」 009-7は苦笑した。 「私、こんなの望んでなかったんだけどなぁ」 「世界って勝手に転がるものよ」 003は隣に立った。 「でも」 彼女は静かに言った。 「あなたが助けた人は、本当にたくさんいる」 009-7は少し黙った。 「……戦うたびに敵が増える」 「そうね」 「平和にしたいだけなのに」 「うん」 遠くの夜空に光が走った。009-7の目が細くなった。電子戦センサーが反応した。 「……来る」 003の顔つきが変わった。警報が鳴り響いた。司令部から通信。 『北方国境線! 大規模機甲部隊接近!』 『航空戦力も確認!』 『所属不明機多数!』 009-7はゆっくり立ち上がった。銀色の髪が風に揺れた。 「……また始まるんだ」 003が手を握る。 「一人じゃないわ」 夜空を裂いて002が飛来した。 「お待たせ!」 地上では009が加速装置を起動した。004が銃を構える。そして無線の向こうから。 『銀の魔女親衛隊、全軍へ!』 『総員戦闘配置!!』 『民間区域を死守せよ!!』 熱狂した声が砂漠を揺らした。もはや00ナンバーサイボーグを中心に動き始めていた。

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