10人目のサイボーグ   作:れぷとん

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第28話 行政電子化

中東自由連邦、首都の旧行政庁舎。そこには書類の山があった。机の上に積まれた紙。床に積まれた紙。棚に積まれた紙。さらに外には順番待ちの人々。

「農業省の承認印が必要です」

「その前に財務省の確認を」

「担当者が休暇中なので三週間後です」

「国家元首の署名が必要です」

「私が元首だよ!」ついに009-7は叫んだ。

元々、最先端のサイバネティクス研究者である。

紙と判子と対面会議で国家運営など、彼女から見れば石器時代と変わらなかった。

その日の夜、親衛隊幹部、各省庁の責任者、技術者たちが集められた。

009-7は外向けのお嬢様モードではなかった。

「決めた」

全員が姿勢を正した。

「全部電子化する」

沈黙。数秒後。

「全部ですか?」

「全部」

「予算申請も?」

「全部」

「人事も?」

「全部」

「外交文書も?」

「全部」

「軍も?」

「全部」

技術者たちは目を輝かせた。行政官たちは青ざめた。

 

そこからが凄まじかった。009-7の脳はネットワークと直結している。さらにAIと一体化している。国家システムそのものを自分の神経の延長として扱えた。

各省庁のデータベースを統合。

予算システムを統合。

戸籍、税金、医療、教育を統合。

物流情報も統合。

発電所の出力から農村の井戸の水位までリアルタイム管理。

普通の国家なら十年以上かかる事業だった。一か月で終わった。

理由は簡単だった。

009-7自身がシステムに統合されていたからである。

会議も承認も不要。

迷うこともない。

脳内でAIを使って最適解を導き出し、そのまま実装した。

ある日のこと、財務大臣が予算案を提出した。普通なら数週間の審査が必要である。

端末に送信。三秒後。承認。修正点二十八箇所。

財務大臣は凍り付いた。

「もう見たんですか?」

「見たよ」

「全部?」

「全部」

「七千ページありますが」

「うん」

「三秒で?」

「三秒で」

「……」

財務大臣は頭を抱えた。

外交も同じだった。

隣国との貿易協定。通常なら何ヶ月も交渉する。

相手国の提案が届く。三十秒後。修正版が返信される。しかも双方に最大利益となる内容だった。

相手国の担当者は驚愕した。

「本当に人間なのか?」

という噂が広まった。残念ながらサイボーグだった。

最も変わったのは行政サービスだった。

出生届、一秒。

会社設立、三秒

建築許可、五秒。

病院の予約、入力した瞬間に返ってくる。

国民は混乱した。

今まで数ヶ月かかっていたものが一瞬で終わる。役所に行く必要はない。スマホで完結する。

経済も急成長した。

物流の最適化。発電の最適化。投資の最適化。教育の最適化。

AIが計算し、009-7が最終判断する。

しかも判断速度は人間離れしていた。

道路を一本作るだけでも、経済効果、人口推移、物流効率、安全保障、災害対策、すべてを考慮して決定される。

間違いがほとんどなかった。

二年後、かつて難民キャンプだった場所には高層ビルが立っていた。大学ができた。工業団地ができた。病院ができた。地下鉄まで走っていた。

海外の専門家たちは理解できなかった。

「普通なら二十年かかる」

「いや三十年だ」

「どうやった?」

誰も答えられなかった。

正確には、国家元首の脳が量子コンピュータと直結していたからである。

 

ある日、海外メディアの記者が質問した。

「中東自由連邦は民主国家ですか?」

会場が静まり返った。

確かに選挙はある。議会もある。裁判所もある。

だが最終的な意思決定は009-7が行っている。

記者は続けた。

「実質的には独裁ではありませんか?」

周囲の幹部たちがざわついた。

しかし009-7は平然としていた。

少し考えてから答えた。

「たぶんそうだと思う」

会場が固まった。

「え?」

「独裁だと思うよ」

さらに固まる。

「問題ありますか?」

記者は言葉を失った。

その時、後方にいた農業大臣が小声で呟いた。

「問題あります?」

隣の財務大臣が首を振る。

「ないですね」

「ないな」

「ない」

「全然ない」

「困ったことが一度もない」

周囲も頷いた。

失業率は下がった。治安は改善した。教育は向上した。経済は成長した。汚職は激減した。戦争にも強かった。

誰も損をしていない。

 

その夜、009-7は自宅で黒ジャージ姿のままソファに寝転がっていた。

アイスを食べながら行政システムを監視していた。

頭の中では数百万件の処理が同時進行していた。

「国家運営って楽になったなあ」

ぽつりと言った。

隣にいた003は呆れた。

「普通の人はそんな運営できないのよ」

「そうなの?」

「そうなの」

009-7はアイスを一口食べた。

窓の外では、中東自由連邦の街の灯りが広がっていた。

人々は平和に暮らしている。

その光景を見ながら009-7は満足そうに微笑んだ。

少なくとも今は、この国は確かに未来へ向かって進んでいた。

 

 

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