10人目のサイボーグ   作:れぷとん

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第29話 実家への訪問

中東自由連邦建国直後。世界中では「銀の魔女」と呼ばれる存在が話題になっていた。

圧倒的な電子戦能力。美しい銀髪。戦場に現れては戦局を変える謎の美少女。

テレビでも連日報道されていた。

 

その頃、009-7は日本に戻っていた。

向かう先は懐かしい場所。子供の頃から育った実家だった。

今は妹が住んでいる。

玄関の前で立ち止まった。しばらく見つめた。懐かしかった。

子供の頃、父親に怒られた場所。母親が笑っていた場所。妹と喧嘩した場所。全部覚えていた。

深呼吸した。そして呼び鈴を押した。

ピンポーン。

家の中で妹はインターホンの画面を見た。

「え?」

画面に映るのは美少女だった。

銀髪、整った顔立ち。どこかで見たことがある。

数秒後、思い出した。テレビで見た最近話題の銀の魔女。

妹は困惑した。兄のことで話がある人物が来ると聞いていた。しかし来たのは銀の魔女だった。意味が分からない。

とりあえず玄関を開けた。

「こんにちは。」

柔らかな声だった。礼儀正しい。

「兄のことでお話があると伺っています。」

「はい。」

妹は少し緊張していた。

「どうぞ。」

家に入った。009-7は靴を脱いだ。そして廊下を見た。懐かしかった。ほとんど変わっていない。父親が貼った時計、母親が選んだカーテン。全部そのままだった。

思わず目頭が熱くなった。

居間に通された。お茶が出た。

しばらく沈黙。

そして009-7は言った。

「まず謝らないといけない。」

妹は首を傾げた。

「え?」

「ごめん。」

「?」

「俺だ。」

意味が分からなかった。

「……はい?」

「お兄ちゃんだ。」

沈黙。

さらに沈黙。

妹は固まった。理解できない。目の前にいるのは絶世の美少女。

兄は五十代のおっさんだった。成立しない。

「冗談ですよね?」

「そう思うよな。」

「思います。」

当然だった。

そこで009-7は話し始めた。

子供の頃の話。

二人しか知らない話。

父親に隠れて買った模型。母親に怒られた話。庭で転んで妹が泣いた話。昔飼っていた犬の話。さらに、誰にも話していない秘密まで。

妹の顔色が変わった。

あり得ない。

知っている。全部知っている。本人しか知らないことばかりだった。

声が震えた。

「……お兄ちゃん?」

「うん。」

「本当に?」

「本当だ。」

妹の目から涙が溢れた。

次の瞬間。

泣きながら009-7を叩いた。ぽかぽか叩いた。

「バカ!」

「うん。」

「なんでもっと早く来ないの!」

「ごめん。」

「死んだと思ったんだから!」

「ごめん。」

「ずっと!」

「うん。」

「ずっと心配してたんだから!」

妹は泣いていた。

009-7も泣いていた。

何年ぶりか分からない再会だった。

 

しばらくして玄関の音がした。甥が帰宅したのだ。高校生だった。

「ただいまー。」

居間に入って固まった。知らない美少女がいる。ものすごく綺麗だった。銀髪だった。テレビで見たことがあった。

銀の魔女だった。脳が停止した。

「え?」

さらに母親が泣いている。状況が理解できない。

「お母さん?」

妹は涙を拭いた。

そして言った。

「おじさんよ。」

甥は頷いた。

「うん。」

数秒後。

「え?」

再び停止した。

目の前の美少女を見た。もう一度見た。さらによく見た。

完全に混乱した。

009-7は苦笑した。

「久しぶり。」

甥は挙動不審になった。

立ったり座ったりしていた。目の置き場がない。

声も裏返った。

「お、お、おじさん!?」

「うん。」

「え!?」

「うん。」

「ええええ!?」

当然だった。

突然、世界中で話題の美少女が、死んだはずの伯父だと言われたのである。理解できる方がおかしい。

009-7は懐かしい家を見回した。

妹、甥、家族。

ようやく帰って来られた。

その瞬間だけは、中東自由連邦の元首でも銀の魔女でも伝説のサイボーグでもなかった。

ただの兄であり、ただの伯父さんだった。

 

 

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