10人目のサイボーグ   作:れぷとん

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第30話 009-7がおっさんとバレた日

 米国ワシントンD.C.のとある政府機関の地下施設。窓のない会議室の壁には巨大なモニターがあった。そこに映っているのは一人の少女。銀髪、赤い瞳。世界中が知る顔。009-7であった。「結局、正体は分からないのか」 上官が言った。分析官たちは首を振った。「出生不明」 「戸籍不明」 「DNA情報なし」 「指紋照合失敗」 「顔認証失敗」 「欧州系の可能性が高いと推定されています」いつもの報告だった。「日本で頻繁に訪れている家族については?」 「調査済みです」 画面が切り替わった。親族関係図が表示された。 「血縁関係は確認できません」 「日本人です」 「年齢も合致しません」 「おそらく個人的に親しい家族と推定されます」 それ以上の進展はなかった。

 

 会議終了後、一人の若い分析官だけが残った。彼は009-7が現れて以来、担当していた。「何かおかしい……」 机の上には大量の資料。ブラックゴースト、サイボーグ計画。人体改造、神経接続、人工臓器、機械筋肉。そこで彼は古い報告書を見つけた。失敗した実験。心臓を機械化、肺を機械化、骨格を機械化。成功率は低い。だが、年月と共に成功率は上昇している。 「待てよ……」 分析官は椅子から立ち上がった。 「我々は何を前提にしていた?」  正体調査。全て、人間であること、を前提にしていた。年齢、性別、人種、身長、顔。 全部だ。 「もし違うなら?」 彼は震え始めた。ブラックゴーストの最終段階。脳だけ残して全身を交換する。人工人体。「あり得る……」 もし可能なら、五十代男性であっても十代女性と技術的には同一人物になり得る。年齢も、性別も、人種も、意味を失う。「まさか……」 彼は急いでデータベースを開いた。条件を変更する。女性を除外。欧州系を除外。年齢も削除。そして検索開始。数秒後、画面に一件だけ表示された。榊 恒一。五十七歳。サイバネティクス研究者。航空機事故。死亡認定。遺体未発見。 「……」 分析官は動けなくなった。 「嘘だろ」資料を読む。家族構成。妻、娘、妹、甥、全て日本で接触している家族と完全に一致した。「おい……」声が震える。「おいおいおいおい……」 再度確認。何度確認しても同じ。結論は一つだった。銀の魔女、中東自由連邦元首。世界最強の電子戦サイボーグ、009-7。その正体は、五十代の日本人男性だった。分析官はしばらく天井を見つめた。「だから妹か……」 ようやく理解できた。テレビで見た、あの家族。あの自然な距離感。あの笑顔。全部説明がつく。数日後、極秘会議にて資料が配布された。出席者たちはページをめくった。そして固まった。 「これは冗談か?」 「本物です」 「五十代男性?」 「はい」 「銀の魔女が?」 「はい」 「世界中が憧れているあの?」 「はい」 「雑誌の表紙を飾っている?」 「はい」 「天使と呼ばれてる?」 「はい」 会議室が沈黙した。 一人が呟く。 「世界中の男が泣くぞ」

 

 数週間後、極秘報告書が各国上層部へ送られた。内容は簡潔だった。009-7の正体推定。 元男性、日本人、中年研究者、航空事故にて死亡認定、ブラックゴーストによる改造の可能性極大。報告書を読んだ政府高官たちは沈黙した。 「……待て」 「つまり」 「銀の魔女は」 「定年前のおっさんだったのか?」数秒後、部屋が地獄になった。 「いや待て待て待て!」 「世界中が熱狂してる絶世の美少女だぞ!?」 「親衛隊どうなる!?」 「中東自由連邦どうなるんだ!?」 「いやそこじゃない!」 「技術的に可能なのか!?」 「倫理どうなってる!?」 「ブラックゴースト怖すぎるだろ!」

 

 一方、日本の親衛隊本部。本部長・坂本は機密情報リークを見て固まっていた。 「……え?」 スタッフが青ざめる。 「本部長……その……」 「レイナたん……おっさん……?」 全員沈黙。数秒後、坂本は立ち上がった。 「関係あるかァ!!」 机を叩く。 「美少女なのは事実だろうが!!」 「いやまあそうなんですけど!」 「魂が尊いんだよ!!」 「思想が強い!」 「そもそも世界平和のために戦ってんだぞ!?」 「はい」 「中身がおっさんでも問題ない!!」 「断言した!」

 

 その頃。 009-7本人は。 司令部で報告書を読んで頭を抱えていた。 「……バレた」 003が肩を震わせていた。 「ふふっ……!」 「笑わないでよ……!」 009は必死に真顔を保っていた。 002は床を転げ回って爆笑していた。 「ギャハハハハ!! ついに世界にバレた!!」 「笑いすぎ!!」 004ですら口元を押さえていた。 「……まあ、確かに予想外だな」 009-7はソファに突っ伏した。 「もう終わりだ……」 だが、その瞬間、外から歓声が聞こえた。 『銀の魔女様ー!!』 『結婚してくれー!!』 『過去の性別なんか関係ねえー!!』 『世界平和万歳ー!!』 009-7は顔を上げた。 「……えぇ……」 003が苦笑する。 「あなた、もう普通の尺度じゃ測れないのよ」 009は優しく笑った。 「みんな、009-7自身を見てるんだと思う」 009-7はしばらく黙っていた。 やがて、小さくため息をつく。 「……ほんと、変な世界になっちゃったなぁ」

 

 

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